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本能とは襲撃から生き残る道

投稿に慣れていないため3回も投稿に失敗し、ちょっと心が折れかけました。お気に入り登録してくれた人がいる。その人たちの為だけに完結までがんばる所存であります。

 テントから出た二人はまばらに点在する篝火かがりびを頼りに拠点の隅にある厩舎へと向かう。

 一人はモデルのように姿勢良く、ゆったりと気品あふれる歩行をしている。一人は逮捕された被疑者のように足を引きずるようにしながら背中を丸め、目線を地面に向けたまま歩みを刻んでいく。メリムと卓のどちらが両者かは言わずもがなであるが、幸い歩いている二人を見るものもいなかったため、人物と歩行方法を照らし合わせる必要はないのかもしれない。

 厩舎に近づいてきたのか先導していたメリムが速度を落とし進む方向を変えたのを感じ、卓は視線を上げる。

「なんですか? あれ」

「ん? ――あれは! 敵襲! 敵襲だ! 盗賊どもが森より侵攻中。警鐘を鳴らし総員配置について襲撃に備えろ!」

 卓が目にしたのは、森のほうから押し寄せてくる数十ものたいまつの灯りだった。ぼんやりと視認できるのは何かに騎乗している人型と、その上空を飛行する人型や異形の影。それらは拠点の周りに配置されている防護柵を破壊しながら押し寄せてきていた。卓の問いかけにメリムはそれらを確認してすぐさま大声を張り上げ拠点内に知らせる。

「すまん、卓。ここは戦場になる。お前を守るために人員も割けないし拠点内も安全ではない。あいつらとは反対の方向へまっすぐ逃げれば街がある。悪いが自力で逃げてくれ」

「え? あっえっ? わ、わかりました。すいません!」

 メリムは卓に声をかけた後、厩舎へ飛び込む。すぐさま自分の相棒に跨ると何もない空間から威圧感を感じるコートを出し羽織りながら、あっというまに厩舎を飛び出て卓の返事を背中で聞きながら駆け抜けていった。

 卓はメリムの指示にパニックになりかけながらも無様に逃げることに一瞬逡巡したが、ここにいても何もできずに殺される恐怖に慌てて指示された方角へ走り出す。

「死にたくない死にたくない! なんでやっと前に進む気持ちになってきたのに、なんで殺されなきゃいけないんだ!」

 拠点を抜け、岩が点在する草原をひた走る卓は日頃の運動不足によってとっくに脇腹を傷め、裸足で走っているせいで足の裏は血だらけだった。それでも新しく目標を見つけたばかりの卓の体は生存本能が止まるのを認めない。

「あっれー? フハハハ! ラッキー! こんなところで豚が一匹いるなんて、殺して魔力を奪ってくださいって言ってるようなものじゃん!」

 どれくらい走っただろうか。体力も底をつき、歩くほどの速度になっても走り続けた卓の視界に小さく街らしきものが見えてきた矢先に、後ろから聞こえてきた声に振り向くと、馬に載った盗賊風の髭もじゃの男がロングソードを振り上げていた。

「ひっひいひゃあああ!」

「ばーか。せっかく見つけた獲物を逃がすわけないじゃんよっと」

 状況を理解した卓が逃げようと後ろを向いて走り出そうとした瞬間に男は背中に向かって剣を振り下ろす。

「いっいだいいいい! いたいいだいいたっぐぶぇ!」

 肩甲骨から尻の上側まで斜めに切り裂かれてはいたが、致命傷ではなかった卓は痛みで叫びながらも再度逃げようと走り出す。

 しかし、背中を切られた際に寝間着のズボンとトランクスのゴムも切れてしまったらしく膝下までずり下がっていて足を前に出すことができなかった。それに躓いた卓は倒れこんだ拍子に地面から顔を出している岩に立派な腹を強打してしまう。 

「ギャハハハ! お前殺されかけてるくせにフルチンになってケツを突き上げるってなにしてんだよ! そこにぶっさしてほしいってか! そりゃーさすがに汚ねーから! 今度こそ背中からぶっすり刺してやんよ! 浅く切っちまって悪かったなー。さっきの戦闘で俺の使獣死んじまってエンチャント切れてたんだわ。まっ次でしまいだからよ。死ねや」

 腹の下に岩がある卓は上半身が地べたについているにもかかわらず、むき出しの尻だけは上に突き出す格好になってしまっていた。

 そんな卓の姿を見た男は爆笑しながら背中を刺すために馬を卓に近づけていく。しかし卓はその男の台詞にも反応を示さず、ただただじっとしていた。

 卓が動かない理由は、生きることを諦めたわけでも、痛みによって気絶したわけでも、羞恥によって動けなくなったわけでもない。この絶体絶命の状況によって強烈に沸き起こった本能によるものだからだ。卓の体に突如襲ってきた今まで経験したことのないほどの痛みと、その原因である力が渦巻き、卓はそれの制御に全力を注いでいたのである。

「それじゃ、あばよ」

 男が卓の背中を刺すために卓の真後ろに馬の頭が来るように横付けし、背中に向かって刺突を繰り出す。その瞬間にも渦巻いていた力に、名称があることを卓は知っていた。


 ――便意だ。


 今の今まで存在を忘れられ、限界をとっくの昔に超えていたソレは、腹部への物理的衝撃と、死の恐怖による精神的衝撃と、何よりフルチン状態での尻の突き出しによって、刺突される瞬間に、ついに卓の管理からはなれ、暴走。

 その力の制御をあきらめ、開放する瞬間に卓が言った言葉がある。


「――あっ」

   

 ――――――この後の状況については明文を避けよう。

 結果として卓の本能に驚いた馬はパニック状態で暴れまわり、バック転を決める。男は地面にぶつかった衝撃で首の骨が折れて絶命。辛くも卓は生還し、背中の痛みも忘れてそのまま男を振り落として走り去る馬に呟いた。

「俺はここでアレを撒くことしかできない。だが君には君にしかできない、君ならできることがあるはずだ」


 襲撃から生き残れたのは本能のお陰だった。

本当に、下品で申し訳ないです。

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