第二部:学校へ
「またここにいた」
急に耳元で声がして、人がいることに気付くと恥ずかしさから顔が紅潮してきた。慌てて振返ると、そこには中林 京子がいた。
京子は近所にある空手道場の娘で、子供の頃から家族ぐるみの付き合いだ。僕らは姉弟のように育てられ、僕を道場に引きずり込んで空手を教えてくれたのは京子であり、僕が苛められていた時にはすぐに飛んで来て僕を助けてくれて、そして慰めてくれたのも京子だ。
「いつからそこにいたんだよ!?」
「ずっと後ろにいたわよ。気付いてなかったの?」
「気付いてなかったよ。…声ぐらい掛けてくれよ」
「だから今、掛けたじゃん」
「掛けるのが、遅い!」
「ぼーっとしてる方が悪いの。ほら、帰るよ。」
「…はいはい」
僕は鞄をもちあげ、空を見上げながら僕と小笠原の出会いが縁であることを心の中で願った。
京子は今朝も空手部の練習があるらしいので玄関で別れた。少しカビ臭い教室の中に入り、窓を勢いよく開けた。
登校する生徒がちらほらと校門をくぐって校庭をまっすぐ生徒玄関に入って来る。注意深く校門を見張っていると小笠原がやっと入って来た。偶然見つけたフリをしながら、小さく手を振った。小笠原も手を振って答え生徒玄関の屋根の影に消えていく。
しばらく教室のなかで静かに待っているとドアがカラカラと音を発てて小笠原が入って来た。
「おはよう」
「…おはよう」
単純な言葉だが、僕は小笠原とこの言葉を交わすだけ緊張する。
「犬神君?」
挨拶を言ったまま小笠原を見つめてしまっていたらしく、不思議そうに僕を見ている。