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巧-4

この前とは違うファミリーレストランで、巧はメニューとにらめっこをしていた。

4人掛けのボックス席で、向いには眞由美。なぜか隣に、武志がいる。

迷わず巧の隣を選択した武志に、眞由美はひどく嬉しそうにした。

だから、例の気持ち悪さがまた蘇りそうになったけど、巧には文句など到底言えなかった。

「巧、まだ決まらないの?珍しいね、あんたが優柔不断になるの」

「あ!」

眞由美にひょいっ、と広げていた大きなメニューを取り上げられて、巧は密かに眉を垂らした。

バリケードというほど大袈裟なものではないけど。

武志との距離を僅かでも遮断する手段であったのに。

「ちょうど今、決まったとこ。……俺、ナポリタンでいいや」

「じゃあ私はハンバーグね。武志さんのハンバーグには敵わないと思うけど?」

眞由美が大袈裟に片眉を上げて口にした。

武志のハンバーグが美味しかったと教えたら、それ以来ずっと、眞由美は自分だけ食べられなかった事に拗ねているらしい。

「ははは、次の眞由美さんの休みは家で過ごそうか。僕、ハンバーグを作るよ」

「本当!巧ったら自慢するんだから、夢にまで出たよ私。絶対だからね」

「そうなのか。それは光栄だ」

あ、と小さく頭の中で呟く。

多少なりとも大袈裟に話を誇張した眞由美にだ。

美味かったと一言告げただけなのに。

一々細かい事にも目くじらを立ててしまうのは、どうしてもわだかまりが拭えないままのせいだろうか。

「僕はドリアにしようかな。それじゃ、注文するよ」

武志が店員を呼び寄せ、全員分のオーダーを告げる。

タイミングの問題であろうが、不自然な沈黙が落ちて、少しだけ巧は焦った。

それを気まずく思うのは巧だけなのかもしれないが、無言になると感情にばかり気持ちが引きずられそうでいやだった。

早く、その違和感を払拭したい。

巧は夕方に公園で少女と交わした会話を思い出し、億劫な気持ちを無理矢理押さえ込んで口を開いた。

「あのさ、二人は……どうやって、知り合った、の?」

「へぁ?」

突拍子もない問いかけに、眞由美がなんとも間の抜けた声を漏らした。

武志もまたぽかんとしてから、二人が目を合わせて笑う。

(なんだよそのアイコンタクトは)

一々ムッとしかける自分を必死に宥めるのが我ながら滑稽だ、と巧は思う。

「武志さんが店に来たの。変わってるんだからこの人。飲み屋なのに、一滴もお酒飲まないの」

「あ、いやぁ、僕はそのう、酒が苦手で」

「そのくせ羽振りはいいし、女の子達には好きなもの振舞ってたしね。あまりに変わってるんで、強烈に印象に残っちゃってさ」

けらけら笑って、眞由美が言葉を弾ませる。

武志は照れくさそうな、嬉しそうな表情でハンカチを取り出し、額の汗を拭いている。

「僕の方は、もう……完全にやられちゃって。眞由美さん、本当に綺麗だったから」

「ちょっと!やめてよ!褒めても何も出ないんだからね」

盛り上がっている二人を見て、寂しさと嬉しさが同時に巧の胸中を去来する。

「それからね。足繁く通ってきてくれる武志さんと自然と距離が近くなって、アフターで二人だけでのみに行くようになったりさ」

「いやぁ、眞由美さんは巧君と佳織ちゃんを本当に大事にしてたからね。アフターには誘っても滅多に応じてくれなかったじゃない」

出会い方としては、なんとなく、納得、と言った所だった。

運ばれてきたパスタとオレンジジュースに早速手を伸ばすと、ずずず、と音を立ててジュースを啜る。

「未だに僕は信じられないよ。眞由美さんが結婚してもいいって言ってくれたこと」

「熱意に負けただけ。さ、食べよう」

全員分の食事が揃い、さっさと眞由美が会話を切り上げた。

なんとなくそこに違和感を感じたのは、自分だけだろうか。

巧はちらりと隣に座る武志を盗み見た。

普段と全く変わらぬニコニコとした笑みで、スプーンを手にしている。

一瞬の違和感に気付いたのは、自分だけだ。

そのことに、優越感に似た心地よさを僅かに覚えた。

まだ、母に一番近いのは自分だ。

そんなする必要もない再確認が出来たようで、気分がいい。

「えーと武志さん、趣味は?」

気分の良さにかまけて自分から問いかける。

これもさきほど少女との会話で上がった話題だった。

「はっ?」

「…………なーにあんたそれ、お見合いじゃないんだから」

「………………」

浮かれて会話を続けるべきではないな。

完全に外したのを察して、巧は少し気恥ずかしさを覚えながら目の前の料理に集中する事でそれを誤魔化す事にした。

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