異世界転移 熱血体育教師 日向悟
日向悟は地方の私立高校に勤務する熱血タイプの若い体育教師だ。体育の授業でも顧問をしているサッカー部でも彼の熱心な指導は生徒たちの成長を願う強い思いから来ていたが、それが時に生徒にとって鬱陶しくなることもあった。そんな様子に悟は寂しさを感じながらも、生徒たちの成長を心から願い、全力を尽くしていた。
そんなある日、帰宅途中に偶然、他校の生徒である瀬川優斗が無謀運転の自動車に轢かれそうになっているのを目撃し、助けようとしたところ、二人とも車に衝突されてしまった。
二人が意識を取り戻すと、そこは中世ヨーロッパのような世界で、石畳の道やレンガ造りの家々、アンティークな衣装を身にまとった村人たちが暮らしていた。
「……君、大丈夫か? どこか怪我していないか?」
悟は教師らしく、優斗を気遣った。
「……ええ、僕は大丈夫です。……何ていうか、本当にすみません、僕を助けようとしたばかりに巻き込んじゃって……」
優斗が申し訳なさそうに頭を下げた。
「君のせいじゃないさ。無謀運転の車が悪いんだ。……君はその制服だとC高の生徒か?」
青いブレザーにグレーのパンツに赤いネクタイ。県内でもトップのエリート校だ。
「はい、C高の二年生の瀬川優斗といいます」
「やっぱり、何かしっかりしてるよな。俺はT高の体育教師、日向悟だ」
「体育の先生なんですか。だから、ジャージ姿なんですね。お若いんですね。ウチの学校の体育の先生はオジサンというか……」
「それよりも、……ここはどこなんだ?」
「漫画やアニメに出てくる異世界みたいな所ですね。……僕たちは異世界に飛ばされたんじゃないですかね」
「……瀬川君もやっぱりそう思うか? 現実にこんなことが起きるなんて思いもしなかった」
「日向先生も漫画やアニメを見るんですか?」
「まあな。……どうすれば元の世界に戻れるのかな?」
「……戻れないかもしれませんよ。そういう話も多いじゃないですか」
「……はあ」
二人ともため息をついた。
程なくして、途方に暮れていた彼らの前に一台の豪奢な馬車が止まり、身なりのいい柔和な感じの中年の紳士が降りてきて言った。
「あなた方、その格好から察するに異世界の方ですよね?」
「……ええ、そうなんです、そうなんです! ここの世界の人から見れば俺たちは異世界の人間です。俺たちは突然この世界に飛ばされて困っているんです!」
悟は話が分かりそうな人物に会えてほっとした。優斗も同じ気持ちだ。
「……それは大変でしたね。とりあえず私の屋敷に行きましょう。さあ、二人とも馬車に乗って。……私はバルトリッヒと申します。ここベルプラン王国のマークワース領の男爵です」
バルトリッヒは二人に自分の屋敷の部屋を提供し、生活の保障をしてくれた。
「なぜ、男爵様が俺たちにここまで親切にして下さるんですか?」
悟がバルトリッヒに訊いた。
「……私の祖父はあなた方と同じ世界の人に命を助けられたのです。祖父は生まれつき心臓が弱くて長くは生きられないと周囲から言われていました。しかし、異世界から事故で突然飛ばされてきたカワノ医師の先端的な心臓外科手術で命を長らえたのです。もし、カワノ医師に出会わなかったら、祖父は早死にし、父も私も子供たちも生まれていません。感謝しても感謝しきれない。だから、もしカワノ医師と同じ世界の人が飛ばされてきて困っていたら、助けることに決めていました」
「……そうなんですか。俺たちの前にもここに飛ばされた人がいるんですね。で、そのお医者さんは元の世界に戻れたんですか?」
「……それが、元の世界に戻れる方法を国中の魔導士等に訊いて回っても分からなかったらしく、彼はこの地で一生を終えました」
「……そうですか。もう戻れないんですか」
悟は失望した。元の世界への未練はそう簡単には断ち切れない。
「……でも、そのお医者さんは不幸だったわけじゃないんですよね?」
話に静かに耳を傾けていた優斗は、バルトリッヒをまっすぐに見つめながら訊いた。
「ええ、彼はここで医学の発展に貢献し、温かい家庭を築きました。多くの人々に慕われ、元の世界に戻れなくても幸せだったと思いますよ」
「なら、よかった。元の世界に戻れなくても、僕もそのお医者さんのように自分のやるべきことをやって生きていきたい。……事故で死んだかもしれない僕たちが、この世界で生きていられるのも何か意味があるのかもしれない」
優斗は目を輝かせながら言った。
「瀬川君。……君の方が俺よりもずっと肝が据わっているな」
悟は感心しながら言った。
「そうですか。何か照れるな」
悟と優斗は顔を見合わせて笑った。
バルトリッヒは芸術と教育に深い関心を持ち、壮大な教育機関の建設を計画していた。彼は国の内外から優秀な人材を集めていた。この世界では珍しく、出自等では差別せずに志や実力のある者を評価していた。悟が高校の体育教師、優斗がエリート校の優等生、ということを聞くと、二人に新しい校舎の建築やカリキュラム設計の協力を求めた。
悟はこの異世界で新たな使命を見つけ、体育をカリキュラムに取り入れて身体の健康の重要性を強調した。大好きなサッカーの普及にも力を尽くし、この地域一の人気スポーツに押し上げた。元の世界では鬱陶しいと思われていた熱血指導が、この世界では受けがよく、頼もしいとさえ思われ、彼は自信を取り戻した。
一方、優斗は自身の学業の才能を活かし、学校の主要な教育プログラムの構築に力を注いだ。幅広い分野の学問を提案し、生徒たちによる選択授業も勧めた。
時間が経つにつれて異世界での生活に慣れ、この学校は異なる文化や時代をつなぐ架け橋となった。かつて疎外感を抱いていた悟と優斗は、今ではその才能と献身が認められ、重要な存在となった。マークワース領では、バルトリッヒの指導のもと、二人の異世界転移を通じて新しい啓蒙の時代が始まり、未来の世代に成長とインスピレーションをもたらすこととなった。
このように、日向悟と瀬川優斗は異世界での試練を乗り越え、教育の新たな地平を切り開いていったのである。彼らの努力と情熱は、異世界における教育の未来を形作り、さまざまな背景を持つ人々に知識と希望をもたらした。さらに、彼らは異世界での経験を通じて得た知見を活かし、教育の質を高めるための革新的な方法を模索し続けた。
これにより、マークワース領の教育機関はますます発展し、多様な文化を融合させた学びの場として国内外に広く知られるようになった。日向悟と瀬川優斗の挑戦と成功は、多くの人々に勇気と希望を与え、未来の教育に新たな可能性をもたらしたのである。
こうして、彼らの物語は新たな時代の幕開けとなり、多くの人々の心に深い感銘を残した。




