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どうせ滅びる魔物側らしいので、軍師として好き勝手やらせてもらいます  作者: ピラビタ


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初仕事

 海岸線に船を停泊させ、ブラッドレスリー大陸に上陸した俺は、まず海猫の塔の視察を行うことにした。


 古びた縦長の塔は、沖合から眺めると天に向かってどこまでも伸びているように見えた。だが、実際に近くまで来てみると、思ったほどの高さはなく、せいぜい十階建て程度だと分かる。

 レンガ造りの塔は海に突き出した岸壁に建っており、吹き付ける海風が内部を駆け抜けるたび、ゴォーゴォーと不気味な唸り声をあげていた。


 サイ君は現在の勇者一行の進行状況を調査すると言い、上陸して早々に一人で内陸へ向かっていった。

 塔の内部案内は、現地に住む魔物が担当することになっている。


 三十分ほど塔の入口で待っていると、ペタペタと間の抜けた足音を立てながら、ペンギンの魔物が小走りで駆け寄ってきた。


「初めましてピクルス様。僕はペン太と申します。軍師様にお会いできて光栄です!」


 ペン太と名乗るその魔物は、キラキラと目を輝かせながら深々と頭を下げた。

 どうやら、支社長の相談役のような立場にいる俺は、それなりに名が通っているらしい。


「それでは早速一階からご案内致しますね」

「いや、ペン太。一階はいいので『海猫の火』の場所まで案内してくれないか?」

「え? いきなり最上階ですか? 一階ではすでに宴の準備ができているのですが……」


 勇者がいつ来るかも分からないというのに、随分とのんきな話だ。

 俺は無言で、塔の最上部を見据えた。


 その視線に気圧されたのか、ペン太は「はい……」と残念そうに声を落とし、両手で重たい扉を押し開けた。


 塔の内部は薄暗く、空気は肌寒い。

 進む先には幾重にも分かれ道が伸びており、案内がなければ次の階へ続く階段を見つけることすら一苦労だろう。


 侵入者を拒むためだけに作られたような構造。

 本来であれば、ここに魔物の迎撃も加わるのだ。

 一般人が『海猫の火』を奪還するなど、まず不可能に近い。


 ――しかし。


「ペン太よ。一つ質問をよいか?」


 七階まで登ったところで、俺は我慢できずに口を開いた。


「はい。なんでしょうかピクルス様」

「この塔の構造には感服した。まさに迷宮だ」

「ありがとうございます! 僕が作った訳ではないですけど地元の塔を褒めてもらえるなんて嬉しいです!」

「いや、本当に素晴らしい造りだ。だがな……これはなんだ?」


 俺は、一階から七階に至るまで、進路に沿って延々と並べられた花束の数々を指さした。

 それらはまるで結婚式の装花のようで、しかも一つ一つに札が付いている。


『ピクルス様 ブラッドレスリー大陸上陸祝い メモカ地区担当○○』

『ピクルス様 ブラッドレスリー大陸上陸祝い メモカ地区担当△△』

『ピクルス様 ブラッドレスリー大陸上陸祝い メモカ地区担当□□』


 どれもこれも、俺の上陸を祝う文言ばかりだ。


「あ、これはメモカ地区にいるビースト軍団全員分のピクルス様上陸祝いの花束です」

「いや、私が言っているのは何故塔の入り口からこの七階まで行き先の道標のように花束が並べられているのだ? という事だ」

「必ずピクルス様の通る道に花を添えたい……という僕たちの気持ちの表れでございます!」


 ……駄目だ。

 こいつ等に好き勝手させていたら、迷宮が迷宮でなくなってしまう。


 仕方がない。

 所詮、獣の脳みそだ。


 フゥ……と一つ溜息をつき、ペン太に指示を出そうとした、その時だった。


「もうよい、とにかく早くこの花束を……」


 ……いや、待てよ。


 今回の策を考えれば、勇者たちには最上階まで簡単に辿り着いてもらう方が都合がいい。


「ピクルス様?」

「いや、なんでもない。花束の数々嬉しく思うぞ……」


 ペン太はぱっと表情を明るくし、頬を赤らめながらテヘヘと笑った。

 ――馬鹿でも、使いようはあるものだ。


 


 ――――最上階


「ピクルス様お疲れ様でした。ここが最上階、そしてあれが『海猫の火』です」


 最短ルートを通ったとはいえ、登るのに一時間はかかっただろうか。

 ようやく『海猫の火』が祀られた最上階へと辿り着いた。


 他の階とは明らかに空気が違う。

 静謐で、どこか張り詰めた、神聖とも言える雰囲気が漂っている。


 中央には大きな祭壇が設えられ、その上部、四角く囲われた空間の中で『海猫の火』と呼ばれる炎が煌々と燃えていた。


(あれが『海猫の火』か。思っていたよりもデカいな)


 色、炎の揺らぎ、匂い。

 注意深く観察してみるが、見た目は何の変哲もない、ただの炎にしか見えない。


(さてと……)


 パチン、と指を鳴らす。


 本土から連れてきたゴリラの魔物たちが、バケツを手に階段を上ってきた。

 バケツの中には、海で汲んできたばかりの海水が満ちている。


 余談だが、この動作は船の上で徹底的に練習させた。

 指を鳴らしたら、バケツを持って来る。

 それだけのことを、何度も何度も繰り返した。


 最初のうちは散々だった。

 バケツを頭に被る。

 バケツを叩き割る。

 バケツを持ったまま俺に襲いかかってくる。


 そんな出来の悪い教え子たちが、今この檜舞台で、一糸乱れぬ統制のもと指示に従っている。

 正直、感極まって泣きそうになった。


 だが、涙をこらえ、次の指示を出す。


「やれ」


 号令と同時に、ゴリラたちは一斉に『海猫の火』へ海水を浴びせかけた。

 大量の水を受け、炎は一瞬だけ掻き消えたかに見える。


 だが――

 次の瞬間、どこからともなく火種が生まれ、数秒のうちに元の勢いを取り戻して煌々と燃え始めた。


(成程な……消える事のない火というのは本当らしい)


 当然、勇者たちもこの性質は知っているはずだ。


 後は、然るべき下準備を整え、勇者一行を待つだけ。

 そして『海猫の火』を手にした瞬間こそが、勇者たちにとって――


 終焉への、序曲となる。


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