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鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
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静寂を裂く一発

月兎と温羅の戦いの音は、なおも止むことがなかった。


 風は吹いているはずなのに、

 鳥の鳴き声が聞こえるはずなのに――

 世界は、奇妙なほど静まり返っている。


 響くのは、ただ二人がぶつかり合う音だけ。


 ただ殴るだけの温羅。

 無駄のない、直線の暴力。


 それに対し月兎は、

 地を蹴り、空を舞い、身体を捻り、

 刃と体術を織り交ぜた多彩な攻撃を叩き込む。


 あまりにも現実離れした光景に、

 周囲の者たちは――

 すぐ近くで起きているはずなのに、

 どこか競技を観戦しているような錯覚に囚われていた。


 その時だった。


「……あれは、月兎なのか?」


 低く、戸惑いを含んだ声が届く。


 はるか、世一、仁羅が一斉に振り向く。


 そこには、京士郎と蓮が立っていた。


「あいつ……あの化け物じゃない」


 蓮の視線は、温羅に釘付けになっている。


「なんで、月兎と戦ってるのよ……」


 正太との戦いを見ていた蓮には分かっていた。

 あれは、自分たちの手に負える存在ではない。


 その相手と、互角に斬り結んでいる月兎に、

 言葉にできない視線を送る。


「わかりません!」


 はるかが叫ぶ。


「突然あの男が現れて、月兎と戦い出しました!

 月兎のあの状態も……正直、よくわかりません!」


「……そう」


 蓮は短く息を吐いた。


「まあいいわ。

 それより――あの男、何なの?」


 蓮の視線の先。


 そこには、

 捕らえたはずの異国の大男が、

 恐慌したように月兎と温羅の元へ走り出す姿があった。


 月兎の口元から、かすかな笑みが消える。


 意識が、完全に闇へ落ちそうになりながらも、

 それでも身体は戦いを続けていた。


 その様子を見て、温羅が笑う。


「ここまでやり合える相手は、三百年ぶりだ」


 拳の質が変わる。

 明らかに――ギアが一段上がった。


「まだ、力を出し切っていないだろう?

 もっと楽しませろ」


 激突。

 衝突。

 決着は近い――


 誰もが、そう感じた瞬間。


 パァンッ!!


 乾いた銃声が、世界を引き裂いた。


 次の瞬間、

 月兎の脚を弾丸が貫く。


 血が噴き出し、

 月兎はその場に崩れ落ちた。


 温羅が、ゆっくりと顔を上げる。


 視線の先には、

 震えながら銃を構える異国の男。


「サ、サタン!!」


 叫び、再び引き金を引こうとした――その瞬間。


 消えた。


 一瞬で距離を詰めた温羅が、

 男の頭を殴り砕く。


 弾け飛ぶ肉と骨。


 その顔には、

 般若のような怒りが張り付いていた。


 温羅は、ゆっくりと月兎へ視線を戻す。


 そこには、

 先ほどまでの異様な気配はない。


 ただ、

 血を流し、ぐったりと倒れる月兎の姿だけがあった。


 温羅は、怒りを持て余すように、

 首の飛んだ男の身体へ、もう一度拳を叩き込む。


 それで終わりだった。


 怒りも、興奮も、

 すべてが嘘のように消えた表情で、

 温羅は月兎の元へ歩み寄る。


 無言のまま、その身体を担ぎ上げた。


 周囲が動こうとする――

 だが、誰も一歩を踏み出せない。


 温羅は月兎を担いだまま、

 ゆっくりと歩き、世一の前で立ち止まる。


 そして、

 放り投げるように月兎を下ろした。


「それが壊れぬよう、しっかり治療しておけ」


 淡々と、感情のない声。


「興が削がれた。

 ……帰る」


 それだけを言い残し、

 温羅は振り返ることなく、

 スタスタとその場を後にした。


 残されたのは、

 血の匂いと、

 終わりを告げられた戦いの余韻だけだった。

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