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鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
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資格なき者たちの依頼

善徳に教えられた「稼げる場所」は、街の外れにあった。


「……ここ、か?」


 月兎は、目の前の建物を見上げる。

 壁は歪み、屋根は半ば崩れ、どう見てもあばら家だ。


「本当にここで金が稼げるのか?」


 世一が、露骨に眉をひそめる。


「……でも、場所は合っています」


 亜華巴は手元の紙を確認し、小さく頷いた。


 三人は顔を見合わせ、意を決して戸を叩く。


 ――コン、コン。


「……勝手に入れ」


 中から、しゃがれた声が返ってきた。


 戸を開けると、酒の匂いが鼻を突く。

 薄暗い室内の中央で、老齢の男が床に座り、徳利を傾けていた。


「……用件は?」


 三人は事情を説明する。

 街に滞在するための金が必要なこと。

 仕事を探していること。


 爺さんは、しばらく黙って酒を飲み干した。


「……仕事はある」


 そう言ってから、ちらりと三人を見やる。


「だが、お前らじゃ受けられん」


「どういう意味だ」


 世一が食い下がる。


「依頼の一つに、特定の村への訪問がある。

 そこはな、認められた人間しか入れん」


 爺さんは淡々と言った。


「お前らは、この街の住人でもなければ、許可もない。

 資格がない」


 沈黙が落ちる。


「……それじゃ、どうしようもないですね」


 アゲハが困ったように呟く。


 三人が小声で相談を始めた、その時だった。


「依頼は完遂した。確認してくれ」


 扉が再び開く。


 入ってきたのは、二人の男女。


 菊池京士郎と、大石蓮だった。


「……あ」


 月兎が思わず声を漏らす。


 爺さんと二人は、手短に依頼の完了確認を済ませる。

 金のやり取りが終わると、京士郎が三人に視線を向けた。


「なるほど……」


 状況を一目で察したように、眼鏡を押し上げる。


「ああ、君たちが先走って切りつけた彼らか」


「はぁっ!?」


 蓮が即座に噛みついた。


「怪しい三人組がうろついてるって聞いてたのよ!?

 警戒するのは当然でしょ!」


「結果的に誤解だったがな」


「結果論でしょそれ!」


 軽い言い合い。

 だが、どこか芝居じみたやり取りだった。


 京士郎は小さく息を吐く。


「まあ……こちらも少しやり過ぎた。

 詫びと言っては何だが、その依頼――俺たちが同行しよう」


「……いいんですか?」


 月兎が尋ねる。


「資格の問題だろう?」


「その点は問題ない」


 京士郎は淡々と答えた。


「我々が同行すれば、村側も文句は言わない」


 爺さんが、面倒そうに手を振る。


「それなら話は早い。

 ついでだ、もう一つ依頼を付けてやる」


「ちょっ……」


 抗議の声を無視し、爺さんは紙を放り投げる。


「文句があるなら断れ。

 ……まあ、断らんだろうがな」


 そう言って、五人を半ば追い出すように外へ出した。


 建物の外で、蓮が肩を回す。


「十日くらいの旅になるわね」


「必要な物は揃えた方がいいな」


 京士郎が頷く。


「買い出しは私が行く。

 隊への報告は京士郎、任せた」


「了解」


 二人はそこで別れた。


 それぞれの準備を終え、再び合流した時。

 五人は並んで、霧の街の門をくぐる。


 依頼のために。

 金を稼ぐために。

 そして――それぞれの思惑を胸に秘めて。


 こうして、一行は街を後にした。

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