笑って散り、影は歩み寄る
二人の間に、静かな緊張が満ちた。
その沈黙を破るように、豪凱が大剣を肩に担ぎ、胸を張って高らかに名乗る。
「我が名は豪凱!
戦いに生き、戦いに散る男だ!」
その声は、誇りそのものだった。
月兎も一歩踏み出し、迷いのない声で応える。
「俺は――常闇月兎。
自分の正しさに従い、あなたを倒す者です!」
その名乗りを聞き、豪凱は心から嬉しそうに笑った。
「いい顔だ。
では行こう、月兎――最後の戦いだ」
次の瞬間、豪凱の大剣が唸りを上げて振り下ろされる。
月兎も迷いなく刀を振り抜き、
ガァンッ!!
金属同士がぶつかる激音が、平地に響き渡った。
刀と大剣が、何度も交わる。
力は拮抗していた。
技も、速度も、互角。
だが何より異様だったのは――
死闘であるにもかかわらず、二人が笑っていることだった。
敵も味方も、その光景から目を離せない。
豪凱が一撃を受け止め、腹の底から笑う。
「ははっ……楽しいなぁ!」
月兎も刀を振るいながら、笑顔で応じる。
「ええ。必ず――あなたを倒します!」
疲労は確実に溜まっているはずなのに、
二人はそれを見せない。
まるで、子供が全力で遊んでいるかのような――
純粋で、無邪気な戦い。
見る者の胸に、
**「かつて、何かに夢中になれた時間」**を思い出させるほどだった。
しかし、それは紛れもない殺し合い。
刃が交わるたび、血が舞う。
笑顔のまま、傷が増えていく。
その光景は、美しくもあり、同時に狂気を孕んでいた。
どれほどの時間が経ったのか。
豪凱の動きが、わずかに鈍る。
鬼の血による弊害――
その兆しを、月兎は見逃さなかった。
一歩、踏み込む。
二歩、詰める。
ついに、
豪凱の大剣が弾かれた。
月兎の刀が、一直線に――
豪凱の胸を貫く。
刃を突き立てた瞬間、
月兎の表情から笑顔が消え、悲しみが滲む。
ぽつり、と涙が落ちた。
短い沈黙の後、
豪凱が、満足そうに呟く。
「……最高の戦いだったぜ」
月兎が、ゆっくりと刀を引き抜く。
豪凱の身体は、そのまま天を仰ぐように倒れた。
肩で息をしながら、
豪凱は目を閉じて、なお笑っている。
月兎は膝をつき、その最期を見届ける。
涙が、止まらなかった。
「……楽しかったです。
でも……もっと、あなたと戦いたかった」
死闘の中で知った、本当の楽しさ。
それを分かち合えた相手を、失う現実。
豪凱は、かすれる声で答える。
「俺もだ……。
最後に、こんな戦いができて……満足だ」
声は、次第に弱くなっていく。
「俺は……絶対に、この戦いも、あなたのことも忘れません」
月兎の瞳には、確かな覚悟が宿っていた。
豪凱は、にやりと笑う。
「それでいい。
だから――笑顔で、別れようぜ」
月兎も、涙を拭い、笑顔で答える。
「……はい」
ゆっくりと、豪凱の瞳が閉じる。
笑ったまま――豪凱は息絶えた。
戦いは、終わった。
そう誰もが感じた、その時。
世一とはるかが、月兎の元へ駆け寄ろうとした瞬間――
ぞくりと、背筋を撫でる感覚。
殺気はない。
だが、異様な圧が、背後から迫っていた。
言葉を交わす間もなく、
その場にいる全員が、一斉に動きを止める。
ただ――
一人の男が、歩いてくる。
ゆっくりと。
確実に。
月兎の元へ向かって。
本能が、叫んでいた。
――動くな。
誰一人、剣を構えることも、声を上げることもできない。
その男の歩みを、
ただ見つめることしかできなかった。




