表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
66/73

戻る光、交わる刃

気絶したコハクを地面に横たえ、確実に拘束した瞬間。

 次に向けられた視線は、一斉にヌル兵衛へと突き刺さった。


 スキンヘッドで背が高く、ひょろりとした身体。

 怒っているような顔つきだが、どこか頼りなさの残る男。


「おい、うなぎ野郎」


 世一の声が低く響く。


「これはどういう事だ?」


 はるかも無言のまま、視線で圧をかける。


 ヌル兵衛は一瞬だけ言葉に詰まったが、覚悟を決めたように懐へ手を伸ばした。


「……わからねぇ」


 そう前置きしてから、

 彼は小さな瓶を取り出した。


 中には、透明な液体がわずかに揺れている。


「だがな! まだ間に合うかもしれねーんだ!」


 ヌル兵衛は瓶を差し出す。


「先に、こいつをコハクに飲ませてやってくれねぇか?」


「……なんだよ、それ」


 世一が警戒を隠さずに問う。


「解毒薬……つーか、

 今のコハクの状態を、元に戻せるかもしれねぇ薬だ」


 必死さの滲む声だった。


「あの方が実験してた施設から盗んできた。

 話を聞く限り、鬼の血が入った人間の正気を戻す薬に違いねぇ!」


 ヌル兵衛は歯を食いしばる。


「時間が経てば、血が馴染みすぎて……

 もう戻せなくなるかもしれねぇ。頼む!」


 一瞬の沈黙。


「……よくわかんないけど」


 はるかが、決断するように言った。


「わかった! とりあえず飲ませてみよう」


「いいのかよ?」


 世一が小声で言う。


「こいつの言葉、信じてもよ」


 はるかは世一を見る。


「嘘、言ってるように聞こえなかった。

 それに……世一も、嘘じゃないって思ってるんでしょ?」


 世一は一瞬目を逸らし、短く息を吐いた。


「……ああ」


 それだけだった。


 はるかはコハクの頭を支え、喉の奥へ液体が流れるよう慎重に角度をつける。


 気絶したままの相手に飲ませるのは難しい。

 何度も、ゆっくりと。


 やがて、瓶の中身はすべてコハクの体内へと消えた。


 ――静寂。


 数十秒。

 数分も経たないうちに。


「……っ、ぐ……!」


 コハクの身体が、びくりと跳ねた。


 苦しそうに身をよじり、小さな悲鳴を上げる。


「ちょっと!? これ毒じゃないよね!?」


 はるかが叫ぶ。


「毒じゃねぇ!」


 ヌル兵衛も必死だ。


「とりあえず身体押さえろ!」


 世一の声に、三人でコハクを抑える。


 異様な力で暴れていた身体が――

 やがて、ふっと力を失った。


 静かに、何度か瞬きをして。


 その瞳に、光が戻る。


「……ヌル兵衛……さん?」


 かすれた声が、彼の名を呼んだ。


「おう! 俺だ!」


 ヌル兵衛は身を乗り出す。


「身体は動くか? どこかおかしい所はねぇか?」


 コハクはゆっくりと手を動かし、指を確かめるように開閉する。


 そして、小さく微笑んだ。


「……大丈夫そうです」


 その表情に、三人は同時に息を吐いた。


「……なんか、この子可愛いですね!」


 はるかが素直に言う。


「さっきと、全然違う!」


「俺が前に会った時は、こんな感じだった」


 世一が頷く。


「さっきの状態が……異常だったんだろ」


 はるかのキラキラした視線に、コハクは少しだけたじろぐ。


「それで……」


 コハクは不安そうに首を傾げた。


「今、どういう状況なんでしょうか?

 地下で……お腹に、すごい痛みがあった所までは覚えてるんですけど……」


 はるかと世一は、視線を交わす。


 本当に、記憶が抜け落ちている。


「悪いんだけど」


 はるかは、ゆっくりと言った。


「事情、色々聞かせてほしい。

 ただ――」


 そう言って、視線を向ける。


 少し離れた場所。


 そこでは、

 月兎と豪凱が、剣を交わし続けていた。


「……まだ、もう一人残ってるから」


 刃と刃がぶつかる音が、平地に響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ