平地に降る矢と、歪んだ再会
猫の娘・かえでの情報を頼りに、
月兎、世一、はるか、仁羅、そして数名の雪妃衆の隊員は平地へと向かっていた。
木々の間を抜け、視界が一気に開けたその瞬間――
先頭を走っていたはるかの目に、大柄な男たちの集団が映る。
「止まって!」
鋭い一声で、全員の足が止まる。
まだ距離はある。隠れれば奇襲が可能――
はるかは一瞬で判断した。
「少し戻って、一旦隠れるよ!」
だが、その判断は一歩遅かった。
男たちの中の誰かがこちらに気づき、
次の瞬間、全員が一斉に走り出す。
「……見つかったな」
仁羅が、いつも通り気だるそうに呟く。
「やるしかないだろうな」
「仕方ない!」
はるかが即座に切り替える。
「世一! ここにいる中で、遠距離攻撃できるのはあんたしかいない!
攻撃範囲に入ったら、すぐ仕掛けて!」
「わかった!」
世一は即座に鎖鎌を構え、前に出る。
男たちが射程に入った、その瞬間――
世一は思い切り鎖鎌を振るった。
鎌の先は勢いよく飛び――
男たちの手前で、ぼてっと落ちた。
……沈黙。
次の瞬間、
男たちから腹を抱えるほどの大笑いが響く。
「なにやってんのよ!!」
はるかの怒号が飛ぶ。
「ふざけてる場合じゃないでしょ!!」
「ふざけてねぇよ!!」
世一も必死だ。
「こいつ! 本当に扱いにくいんだって!!」
一瞬だけ、戦場とは思えない緩い空気が流れ――
「切り替えろ。来るぞ」
仁羅の低い声で、空気が一変する。
次の瞬間、
四人と隊員たちは一斉に前へ出た。
乱戦が始まる。
体格差はあるが、技量と連携はこちらが上。
一人、また一人と大男たちを倒し、そのまま押し切ろうとした――
その時だった。
ヒュン、ヒュン、と空を裂く音。
「――矢!?」
複数の矢が降り注ぎ、数名の隊員がかすめ取られる。
仁羅のすぐ横を矢が通り過ぎ、地面に突き刺さった。
「……上だ」
警戒を強め、矢の飛んできた方向を見る。
そこにいたのは――
大きな岩の上に立つ、一人の女。
背には、異様なほど大きな籠。
中には、夥しい数の矢が詰め込まれている。
そして、次の矢を番えようとするその姿を見て、
月兎と世一は同時に声を上げた。
「え……?」
「あれ……コハク……?」
確かに、あのコハクだ。
だが、記憶の中の彼女とは明らかに違う。
あれほどの矢を背負い、
複数の矢を同時に放つなど――
以前の彼女には考えられなかった。
だが、迷いはない。
コハクは、淡々と弓を引き――
再び、複数の矢を放った。
「くっ……!」
大男たちの攻撃を捌きながら、矢も避ける。
戦況は、確実に傾き始めていた。
その時。
「仁羅! 力、使うよ!」
「……だな」
二人は一瞬距離を取り、同時に声を上げる。
「月華! 力を貸して下さい!」
「陰轍。よろしく」
その言葉と共に、
二人の武器が淡く光り、形を変える。
そこからは、一気だった。
はるかと仁羅の力を軸に、
敵の数は目に見えて減っていく。
――だが。
乱戦の中、月兎はふと、
戦場の奥に立つ一人の男に視線を奪われた。
戦っていない。
ただ、そこに立っている。
「……あなたは……」
その顔を、月兎は知っている。
戦いは楽しいものだと、そう教えた男。
豪凱。
その男は、以前と変わらぬ姿で――
だが、どこか決定的に違う気配をまとい、
静かにこちらを見つめていた。
その目は、
戦場を“観察する者”の目だった。




