表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
63/73

引き継がれる牙

空を切り裂くように、低い羽音が響いていた。


 真神の身体を抱え、そのまま空を進むのは一人の女――スズバである。

 背丈は高く、普通の女性よりも明らかに筋肉質な体躯。

 黒に黄色が混じった髪は無造作に流れ、その色合いだけで周囲に威圧感を与えていた。


 目元には、黒いサングラスのような模様がこめかみまで続き、

 その奥の瞳は外からは決して見えない。


 感情を読ませない顔のまま、スズバは淡々と伝達を繋ぐ。


「――こちらスズバ。真神を回収しました。戦闘は中断、現在離脱中です」


 返ってきたのは、いつもと変わらぬ落ち着いた声だった。


『……そうですか』


 少しの間を置いて、あの方は言葉を続ける。


『鬼妃が、あのような特技を持っているとは想定外でした。

 私の計画をことごとく邪魔され……少々、冷静さを欠いていたようですね』


 声音は穏やかだが、

 その奥にある苛立ちは隠しきれていない。


『感情だけで行動するのは、やはり愚かな者のすることです』


 スズバは何も言わず、黙って聞いている。


『雪霞で足止めをしている彼らなら、しばらくは問題ないでしょう。

 あなたは一度、真神を連れて戻りなさい』


 短く、区切るような命令。


『その後、今回は引き上げだと、雪霞(せっか)に残っている皆に伝えてください。

 ――今回は、これで終わりとしましょう』


「了解しました」


 簡潔な返答。

 それがスズバの常だった。


 だが、今回はそれで終わらなかった。


「……一点、報告があります」


 少しだけ、間を置いてからスズバは続ける。


「オオショウの状態から判断して、生存は困難かと。

 部隊の戦力が減少することで、今後の計画に支障が出る可能性があります」


 あの方は、すぐには答えなかった。


 だが次の瞬間、

 まるで最初から想定していたかのように、淡々と告げる。


『その点については、問題ありませんよ』


 その声には、

 一切の惜しみも、哀悼もなかった。


『彼女は少々、自分勝手でしたし……正直に言えば、

 私は彼女の醜い顔が、あまり好きではありませんでした』


 スズバは、何も言わない。


『とはいえ、彼女の働きがあったからこそ、

 より良い結果が得られたのも事実です』


 そこで、声がわずかに弾んだ。


『血の適合率も高く、

 彼女よりも――強く、美しい“実験体”が完成しましたから』


 スズバの脳裏に、

 地下で見た“あの姿”がよぎる。


『オオショウの役目は、この娘に引き継いでもらいましょう』


「……了解しました」


 それ以上、スズバは何も尋ねなかった。

 伝達を終え、静かに通信を切る。


 ――その頃。


 地下深く。

 冷たい光に照らされた部屋の中央に、一人の女が立っていた。


 ヨシノ。


 緑がかった茶色の長い髪が、背中に静かに流れ落ちている。

 女性としてはやや高めの身長。

 整った顔立ちは、どこか人形めいており――


 そこに、生気はない。


 瞬きはする。

 呼吸もある。


 だが、その瞳には、意思というものが映っていなかった。


 あの方は、ゆっくりと彼女の前に立つ。


「……君を探していた兄妹も、今はこちらにいるのですよ」


 まるで、慈しむような声音で語りかける。


「ですから――三人仲良く、

 私の計画遂行に、役立ってくださいね」


 命令でも、脅しでもない。

 それが、かえって不気味だった。


 ヨシノは、何も答えない。


 ただ、

 指示を待つ兵器のように、そこに立っているだけだった。


 あの方は満足そうに、微笑む。


「……実に、良い顔です」


 その言葉は、

 ヨシノ自身ではなく――

 “完成品”に向けられた賛辞だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ