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鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
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鬼妃、氷華を解き放つ

夜伽(よとぎ)の呼吸は、すでに乱れていた。

 真神(しんら)の猛攻を受け止め続け、身体には確実に傷が増えている。


「……これ以上、引き延ばすわけにもいかんか」


 夜伽は一歩引き、低く息を吐いた。


韋駄天(いだてん)。力を貸せ」


 その言葉に応えるように、

 双剣に装着された白く光る水晶が――淡い青へと染まる。


 瞬間、夜伽の動きが変わった。


 踏み込みが鋭くなり、

 刃の軌道が、真神の速度に追いつく。


「ほう……」


 真神が口角を吊り上げる。


 先ほどまで一方的だった戦いは、

 いつの間にか拮抗へと変わっていた。


 その様子を見て、善徳も歯を食いしばる。


「遅れを取るわけにはいかねぇな……」


 善徳は長刀を握り直し、叫ぶ。


闘牙(とうが)よ! 力を貸してくれ!」


 同じく、水晶が淡い青へと変わり、

 長刀の刃がわずかに形を変える。


 次の一撃。


 これまで“消えた”ように躱されていたアシナガの動きに、

 確かな手応えが走った。


「……当たる?」


 善徳の刃が、アシナガの槍を弾く。


 状況は――好転しているように見えた。


 だが。


 その一瞬の隙を、

 オオショウは逃さなかった。


 鎖の先に繋がれた鉛の砲丸が、

 唸りを上げて飛ぶ。


「――っ!」


 千代の反応が、わずかに遅れた。


 鈍い音。


 鉛が身体にめり込み、

 千代は声にならない声を漏らして地に崩れる。


「……ぐ、っ……!」


 (あばら)が折れたのか、

 呼吸のたびに激しく咳き込む。


 次の瞬間。


 オオショウが、

 今度は直接――大斧を振り上げた。


 だが、その刃は――


 止まった。


 ユキヨの前に、

 白く透明な刀身が現れていた。


 柄だけのはずの剣から、

 冷気を纏った刃が伸び、

 オオショウの斧を真正面から受け止める。


 触れた瞬間、

 斧の刃が凍り始める。


「……ちっ!」


 異変を察したオオショウは、即座に距離を取った。


「千代、大丈夫か?」


 ユキヨは視線を外さずに問う。


「すぐに薬を飲め。体勢を整えよ」


「……は、はい……」


 千代は震える手で傷薬を飲み、

 どうにか立ち上がる。


 だが、

 戦える状態ではない。


 オオショウは再び距離を取り、

 鉛を投げる攻撃へと切り替える。


 夜伽は真神と応戦し続けているが、

 攻めに転じる余裕はない。


 善徳も斬り込めてはいるが、

 決定打を与えられずにいた。


 ――その時。


「……お母さん……」


 かすかな、子供の声。


 全員の視線が、そちらへ向く。


 そこには、

 二人の女と、怯えきった男の子が立ち尽くしていた。


 最初に動いたのは、アシナガだった。


 無言のまま、

 子供たちへと向かう。


「――っ!」


「千代!!」


 ユキヨの声が、鋭く響く。


「その子らを守れ!」


 千代は歯を食いしばり、

 満身創痍の身体で前に出る。


 その瞬間。


 オオショウの斧が、

 ユキヨへと振り下ろされた。


「……っ!」


 わずかに、

 ユキヨの肩口に血が滲む。


「姫さん!!」


 善徳が助けに向かおうとしたが、

 真神が立ちはだかる。


 夜伽も斬り込むが、

 二人がかりでも突破できない。


 アシナガは子供たちの前で足を止め、

 再びこちらへと向き直る。


 オオショウも、真神も、

 疲労の色は一切ない。


 ――詰みかけている。


 その時。


 ユキヨが、静かに声を上げた。


「……ワラワの後ろへ下がれ」


 その声に、

 善徳、夜伽、千代が一斉に後退する。


 次の瞬間。


 ユキヨは、

 透明な剣を――地面へと突き立てた。


 ――凍結。


 目で追えぬ速度で、

 氷の棘が地を這い、

 絨毯のように三人へと襲いかかる。


「なっ――!」


 一番近くにいたオオショウが逃げようとする。


 だが、判断が一瞬遅れた。


 足先が氷に触れた、その刹那。


 足元から、頭の先まで。


 完全に――氷漬けとなる。


「……っ!!」


 真神とアシナガは咄嗟に跳び退き、

 直撃を免れる。


 だが、

 その場一帯は、

 一面の氷原へと変わっていた。


 ユキヨは、

 静かに剣を引き抜き、

 冷えた視線で二人を見据える。


「……次は、逃がさぬぞ」


 鬼妃の声は、

 氷よりも冷たく、

 確かな“死”を孕んでいた。

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