鬼妃の前で、血は舞う
ユキヨ、善徳、夜伽、千代。
四人は、異国の者たちと静かに睨み合っていた。
空気が張り詰め、
誰もが次の瞬間を待っている。
その背後で――
アシナガが、ふいに動いた。
何かを受信したかのように、
無言で一人の異国兵へと歩み寄る。
それに気づいたのは、
先ほど銃を放った異国の男だった。
訝しげに視線を向けた、その刹那。
――首が、宙を舞った。
血飛沫が夜気に散る。
「命令違反者の排除を確認」
アシナガは淡々と告げる。
「戦闘の指示を待つ」
そう言って、
首を落とした死体を一瞥することもなく、
再び後方へと下がった。
その光景に、
ユキヨたちも、異国の残り九人も、一瞬言葉を失う。
――仲間を、躊躇なく斬る。
次の瞬間だった。
夜伽が、消えた。
いや、
消えたように見えただけだ。
気づけば、異国人の懐。
双剣が閃き、
心臓を正確に貫く。
声を上げる暇すらない。
同時に、
後方から千代のクナイが放たれた。
一直線に飛び、
別の異国兵の額を撃ち抜く。
二人、即死。
ようやく理解したのだろう。
「鬨の声が、夜を引き裂いた」
異国人たちが一斉にサーベルを抜き、
咆哮とともに突撃してくる。
だが。
相手が悪すぎた。
千代は地を這うように動き、
死角から喉、腱、関節を的確に狙う。
夜伽は、
目で追えぬ速度で間合いを詰め、
気づけば敵が崩れ落ちている。
そして――
「はっはっはっ!!」
善徳が豪快に笑い、
自分の背丈ほどもある長刀を振るう。
一振りで、
二人まとめて吹き飛ぶ。
二振り目で、
残った者の隊列が崩壊する。
圧倒。
戦いは、
ほんの数呼吸で終わった。
血と死体だけが残る。
「ぎゃっはっは!!」
その光景を見て、
真神が腹を抱えて笑った。
「こいつら弱すぎだろ。来た意味あんのか?」
「実験中の人間だ」
オオショウが肩をすくめる。
「投与量が少なければ、こんなものだと分かっただけでも収穫だろう?」
――仲間では、ない。
その確信が、
ユキヨたちの胸に走る。
次の瞬間。
真神が消えた。
否、
夜伽の目前に現れた。
鉄製の短い鉤爪が、
唸りを上げて振るわれる。
夜伽は双剣で受け止めるが、
衝撃が腕を痺れさせる。
「ちっ……!」
速い。
異常なまでに。
一撃、二撃、三撃。
かわしても、
防いでも、
確実に削られていく。
千代が援護に入ろうとした、その時。
砲丸が飛んできた。
「っ!!」
間一髪で跳び退く。
地面に叩きつけられたそれは、
深く地を抉った。
オオショウの手には、
巨大な鉄の斧。
その柄から鎖が伸び、
先には重々しい錘が繋がれている。
「ほらほら、止まるなよ」
オオショウは楽しげに笑い、
鎖を操り砲丸を次々と撃ち出す。
援護は封じられた。
その瞬間。
ユキヨがわずかに距離を取る。
善徳が一瞬、視線を外した。
――その隙を、逃さない。
「攻撃命令を確認」
アシナガの声が、無機質に響く。
「対象の抹殺を開始する」
次の瞬間、
長槍を構えたアシナガが突撃してきた。
一直線。
善徳は長刀で弾き返す。
だが――
消えた。
いや、
横にいた。
瞬間移動したかのように、
善徳の死角から槍が振り下ろされる。
「くっ……!」
受け止めるが、
距離が合わない。
斬れば消え、
構えれば横から来る。
直線的なのに、
捕まえられない。
速さと位置取りが、
常識を逸脱していた。
善徳は歯を食いしばる。
「……厄介だな」
鬼妃を守る戦いは、
ここからが本番だった。




