越えた先に立つ者
第二段階の力を解放した正太は、迷いなくタケルノへと踏み込んだ。
先ほどまでの劣勢が嘘のように、
その一撃一撃が重く、鋭い。
剣を振るうたび、空気が震え、
タケルノは受けるだけで精一杯だった。
防ぐ。
弾かれる。
下がる。
――攻める余地が、ない。
「……っ」
タケルノの足がもつれ、体勢が崩れる。
その様子を見て、
戦場の奥で温羅が、静かに口角を上げた。
「……あれなら、少しは楽しめそうだ」
その声には、
心の底からの愉悦が滲んでいた。
温羅は、ただ真っ直ぐに歩き出す。
その進路上には、
まだ戦っているシシバナとサンボンの姿がある。
だが――
止まらない。
歩きながら、拳を振るう。
それだけ。
それだけで、
シシバナは弾き飛ばされ、
サンボンは地面を転がった。
立ち上がろうとする二人に、
温羅は一瞥をくれる。
――それだけで。
シシバナもサンボンも、
身体が言うことを聞かなくなった。
動けない。
戦場は、
いつの間にか正太とタケルノ、そして温羅だけのものになる。
正太の一撃で、
タケルノの身体が大きく吹き飛ばされる。
転がり、
温羅の足元へ。
温羅は無造作にタケルノを掴み上げ、
興味を失った物のように投げ捨てた。
――そして。
正太と、向き合う。
かつて、一方的に敗れた相手。
正太は肩で息をしながらも、
その視線を逸らさなかった。
数秒の沈黙。
次の瞬間――
温羅の拳が、唸りを上げた。
以前なら、
見えなかった。
反応できなかった。
だが――
正太は、その拳を受け止めた。
「……っ!」
腕が軋む。
だが、立っている。
――戦える。
その直感を信じ、
正太は攻めに転じた。
拳と刀。
本来なら成立しないはずの戦い。
だが、温羅は拳で、
まるで刀を受けるかのように正太の刃を止める。
正太は技を織り交ぜ、
角度を変え、間合いを詰める。
対して温羅は――
ただ力を解放し、殴るだけ。
それだけで、すべてをねじ伏せる。
刃と拳がぶつかるたび、
乾いた衝撃音が戦場に響く。
周囲の者たちは、
その音だけで理解した。
――次元が違う。
だが。
時間が経つにつれ、
正太の動きが、わずかに鈍くなる。
息が荒い。
踏み込みが、浅い。
そして――
温羅の拳が、正太の身体を捉えた。
一撃。
正太の身体が宙を舞い、
遠くへと吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、
立ち上がろうとするが――力が入らない。
刀が、軋み、
ゆっくりと本来の形へ戻っていく。
正太の意識は、そこで途切れた。
倒れた正太の前に、
蓮、京士郎、妖狐が構えを取る。
だが、温羅は興味なさげに正太を見下ろした。
「……なんだ。もう終わりか」
その声には、
先ほどまでの愉悦はない。
「お前たちには、興味を引かれん」
踵を返し、歩き出す。
「半端に身体を動かしたせいで、消化不良だ」
タケルノ、シシバナ、サンボンへと告げる。
「少し周りを見てくる。
お前たちはここで、
そいつらが向かわぬよう見ていろ」
そう言い残し、
温羅は戦場を後にした。
まるで、
散歩にでも行くかのように。
「……なによ、あいつ」
蓮が、吐き捨てる。
「とりあえず、戦闘は終わりだろう」
京士郎が即座に判断する。
「倒れた隊員と正太の治療が先だ。運ぶぞ」
隊員たちが、急いで動き出す。
妖狐は、倒れた正太をそっと抱き上げ、
膝に乗せた。
「……ほんまに、無茶をしよって」
その表情は、
戦場にいる者のものではなく。
大切なものを見る、やさしい顔だった。




