混剛、動く
暗い地下深く。
天井の高い広間に、重苦しい沈黙が満ちていた。
部屋の中央には――
“あのお方”が、まるで玉座に座すかのように佇んでいる。
その左右には、
この計画のために生み出された最高傑作――混剛隊の面々が並んでいた。
序列一位、温羅。
わずかに赤みを帯びた逆立つ髪、感情の読めない無表情。
鬼でありながら人の形を保ち、黄色い瞳だけが、ただ“強者”であることを語っている。
序列二位、真神。
白と黒の短髪に、異様に長い襟足。
狼と人の血を引く鬼で、金色の瞳は獲物を前にした獣のそれだった。
序列三位、シシバナ。
長い髪を一つに束ねた、美しい女。
だが戦意が高まれば、黒い瞳は縦に割れ、蛇の眼となる。
序列五位、サンボン。
リーゼントを決めた巨躯の男。
カブトムシと人のハーフの鬼で、身長は一九〇を超え、歩くだけで空気を切り裂く。
そして――
その傍らに立つのは、オオショウ。
混剛隊の前方には、
この国の者とは明らかに異なる、背が高く屈強な異国の兵が二十名ほど、整然と並んでいた。
その光景を一瞥し、
あのお方は淡々と口を開く。
「今回の作戦の目的は、ただ一つ」
静かな声が、広間に響く。
「鬼妃を孤立させ、殺すことです」
誰も息を呑む音すら立てない。
「護衛は数名いるでしょうが、難易度は高くありません。
ただし――戦闘が長引き、雪霞からの応援が到着すれば失敗の可能性も出てきます」
あのお方は指先を軽く鳴らした。
「よって部隊を二つに分けます。
鬼妃襲撃部隊。
そして、雪霞からの応援を足止めする部隊です」
異国の兵たちは、胸に手を当て、無言で了承の意を示す。
「足止めには、混剛隊の数名と、彼らから十名を選抜。
残りは襲撃部隊として、目標を確実に排除してください」
一拍置き、
あのお方は、わざとらしく微笑んだ。
「――ああ、重要なことを二つだけ」
その声に、空気が一段冷える。
「一つ。
鬼妃を殺した後、街への破壊行為、住民への攻撃は厳禁です」
淡々と、しかし絶対的な口調で続ける。
「私は雪霞を“治める”つもりです。
壊れた街、怯えた住民――
それらは統治において、ただの手間でしかありません」
そしてもう一つ。
「銃は使用禁止です」
異国の兵の中に、わずかに不満の色が走る。
「銃声は人を集める。
それに――私は銃での戦闘が嫌いでしてね」
くすりと、楽しげに笑う。
「楽に勝つことが最善とは限りません。
つまらない過程で得た結果ほど、退屈なものはありませんから」
その視線が、異国の兵一人ひとりをなぞる。
「……異論は?」
誰も口を開かない。
全員が承諾したことを確認すると、
あのお方は満足そうに頷いた。
そこへ、オオショウが一歩前に出る。
「で?
襲撃部隊には誰が行くんだい?」
舌なめずりをしながら、歪んだ笑みを浮かべる。
「私は絶対に参加させてもらうよ。
あの綺麗な顔が歪む瞬間を、この目で見たいからねぇ」
その言葉に、真神が肩を鳴らす。
「じゃあ俺もそっちだな。
……面白そうな匂いがする」
獣のような笑み。
「ああ、いいでしょう」
あのお方は即座に決める。
「オオショウ、真神、そしてアシナガ。
この三名と異国兵十名を襲撃部隊とします」
視線をずらし、続ける。
「残りは足止め部隊。
雪妃衆にも、なかなかのツワモノが残っているでしょうから――
そちらも、退屈はしないはずです」
その言葉に、シシバナの唇が妖艶に歪む。
そして、あのお方は最後に、
部屋の奥に立つ“三人”へと目を向けた。
「……まだ血が完全には馴染んでいないかもしれませんが」
そこに立っていたのは、
タケルノ、コハク、豪凱。
表情はなく、
まるで人形のように、命令を待つだけの存在。
「戦闘記録が取れれば、薬の改良にも役立ちます。
足止め部隊として――彼らも連れて行きなさい」
誰も異を唱えない。
混剛隊が、ゆっくりと動き出す。
――雪霞へ向けて。
嵐は、もう止まらない。




