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鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
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地下実験場、絶望の開幕

勢いのまま、タケルノはヨシノの元へ駆け寄った。


「ヨシノ……! しっかりしろ!」


 縫い付けられるように座らされた身体に触れ、必死に呼びかける。

 ――息はある。だが、反応がない。


 その事実が、胸の奥を焼いた。


 怒りが、理性を押し流す。


 タケルノはゆっくりと立ち上がり、

 この部屋に入った瞬間から感じていた背後の気配へ振り返った。


「……ヨシノに、何をした?」


 声は低く、だが抑えきれない怒気を孕んでいた。


「違法な実験か!? ふざけるな!!」


 その叫びに応えるように、

 女は下卑た笑い声を上げた。


「ふふ……あははははっ!」


 長い鎌を肩に担いだ女――オオショウ。


「売る予定だった“商品”よ。でもねぇ、その顔が気に入らなかったの」


 舐め回すような視線がヨシノをなぞる。


「いたぶってあげたのに、悲鳴の一つもあげないつまらない女。

 もう使えないから――鬼の血を注いで、反応を待ってたところ」


 オオショウは肩をすくめた。


「死のうが、壊れようが、どうでもいいわ!」


 そして、にたりと笑う。


「それより……あんた。綺麗な顔してるじゃない。

 その女の代わりに、私の玩具になりなさい!!」


 次の瞬間。


 オオショウが、鎌を振るった。


「――っ!」


 タケルノは即座に迎撃するが、

 重い。速い。鋭い。


 火花が散り、腕が痺れる。


(……強い)


 一撃防ぐたびに、確実に体力が削られていく。


 反撃する隙はなく、

 傷だけが増えていった。


 一方その頃。


 コハクは、テレパシー越しにタケルノの視界を見ていた。


(……なに、あれ……)


 血。

 拘束されたヨシノ。

 狂った女。


「……まずい!」


 コハクは即座に駆け出した。


 地下へ続く扉をくぐり、

 階段を一気に駆け下りる。


 だが――


「――おや?」


 階段の途中で、

 あの方と鉢合わせた。


 次の瞬間、

 視界が反転した。


 地下実験場。


 タケルノが防戦一方で膝をつきかけた、その時。


 扉が、開いた。


 ずるり、と引きずられる音。


 現れたのは――

 気絶したコハクを引きずる、あの方だった。


「……コハク!!」


 怒りが、限界を超える。


 タケルノは叫び、

 あの方へと突進した。


 だが――


 拳一つ。


 それだけで、

 タケルノの身体は壁へ叩きつけられた。


「がっ……!」


 肺の空気が一気に吐き出される。


 あの方は、ため息混じりに言った。


「はぁ……全く。君は本当に、私の計画の邪魔をしてくれる」


 冷たい視線が、倒れたタケルノを見下ろす。


「だが今回は――

 目当ての二人が自らこの場所へ来てくれた」


 口元が、わずかに歪む。


「計画を早められる。今回は不問にしてあげよう」


 あの方は、オオショウへ視線を投げた。


 オオショウは慌てて頭を下げる。


「申し訳ありません!

 次はもっとうまくやります!」


 そして、ヨシノを見下ろしながら続けた。


「この女のように壊す前に試せば、

 戦力の増強と試験、両方に使えると思いますので」


 その言葉に、

 あの方のこめかみが、ぴくりと動いた。


「……時間がありません」


 静かな声が、逆に恐ろしい。


「その二人に薬を投与しなさい。

 戦力になるかどうか、調べるのです」


 一拍。


「次に勝手なことをすれば――

 あなたの首を撥ねますよ」


「……っ!」


 オオショウは明らかに怯え、深く頭を下げた。


「か、畏まりました!

 必ず結果をお出し致します!」


 あの方はそれ以上何も言わず、

 踵を返して去っていった。


 その頃。


 豪凱は、強い戦いの気配を求め、街を彷徨っていた。


 理由は分からない。

 だが、身体が“こちらだ”と告げている。


 地下への扉。


 豪凱は迷いなくそれを開け、

 階段を下りていった。


 やがて、扉の先に――

 あの方がいた。


「……久しぶりだな」


 豪凱は、自然にそう口にした。


 あの方は微笑み、答える。


「ええ。ちょうど良いところに来ました」


「戦う相手を、紹介しましょう」


 そう言って、

 先ほどの実験場へ案内する。


 そこには――

 倒れ伏すタケルノとコハク。


「……何があった?」


 豪凱が問う。


 あの方は、奥を指差した。


「あなたは強い相手と戦いたいのでしょう?」


 その視線の先。


 先ほどまで動かなかったはずのヨシノが、

 自由に立ち上がっていた。


 だが――


 その雰囲気は、明らかに異常だった。


 赤黒い気配。

 歪んだ殺意。


 次の瞬間。


 ヨシノが、剣を構え――

 豪凱へと襲いかかった。


「――っ!」


 剣を受け止めた瞬間、

 豪凱の腕が震える。


(……重い!?)


「この力……なんだ?」


 驚愕を隠せず、豪凱は叫ぶ。


「こんな、か弱そうな女の力じゃないだろう!!」


 あの方は、楽しげに微笑んだ。


「ええ。鬼の血を受け入れた力です」


 そして、淡々と続ける。


「あなたも、この戦闘の後には同じになります。

 ですから――今を、存分に楽しんでください」


 豪凱は、すべてを悟ったように歯を食いしばり、

 再び剣を構えた。


 ――逃げ場は、もうない。

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