地下に沈む声
月兎たちがまたたびを求めて山へ入った、その日の正午過ぎ。
雪霞から少し離れた街道沿いで、
菊池京士郎、大石蓮、タケルノ、コハクの四人は、人目を避けるように集まっていた。
京士郎が手元の書き付けを広げ、淡々と口を開く。
「これが、この数日で調べられた内容だ」
風に揺れる紙を押さえながら続ける。
「断片的ではあるが、雪霞にある店主が、
異国へ渡すための薬を――
総領府のある街へ流している可能性が高い」
蓮が腕を組み、視線を落とす。
「量も少なくない。個人取引とは思えないわね」
京士郎はタケルノへ視線を向けた。
「君たちの言う“あの方”も、その街に住んでいると聞いている。
無関係とは考えにくいが、どう思う?」
タケルノは少し考え、低く答える。
「薬については聞いたことがない。
だが……街の裏で人体実験をしているらしいという噂は耳にしたことがある」
コハクの指が、無意識に弓の縁をなぞる。
「もし、その薬が関係しているなら……
あの方に、もう少し踏み込むしかないわね」
タケルノは頷いた。
「探しているヨシノの名を、
知っているような口ぶりだったのも気になる」
京士郎は書き付けを畳む。
「怪しい地点も記してある。
信憑性は高くないが、参考にはなるだろう」
二人は無言で受け取り、頷いた。
少し間を置き、京士郎は付け加える。
「それと――
ユキヨ様は、異国人を大量に入れる動きに強い懸念を示されている。
ついでで構わない。何か掴めたら、必ず知らせてほしい」
短い確認と次に会う日程を決め、四人はその場を解散した。
移動に時間をかけないため、
タケルノとコハクは熊車を使い、総領府の街へ戻った。
街に入ると、二人は手分けして動く。
人の少ない裏通りや倉庫街はタケルノが。
表通りや人の流れがある場所はコハクが担当した。
しばらくして――
タケルノは、ある光景に足を止める。
あの方と話していた女。
周囲を警戒しながら歩くその姿に、
直感が告げる。
(……怪しい)
タケルノは気配を殺し、距離を保ったまま後を追った。
女は何度も道を折れ、
人通りのない区域へと入っていく。
やがて、
街の外れに近い、古い石壁の前で立ち止まった。
壁の一部に隠れるように設けられた――
扉。
女は周囲を一度だけ見回し、
その中へと姿を消した。
タケルノはすぐには動かない。
十分に時間を置き、
静かに扉へ手をかける。
――開いていた。
中は、地下へ続く階段。
慎重に降りる。
扉。
階段。
また扉。
どれほど下ったのか分からない。
次の扉を開けた瞬間、
空気が変わった。
広い通路。
その奥に、
これまでとは明らかに違う大きな扉がある。
近づくにつれ、
耳に届く音。
――下卑た笑い。
女の声だ。
タケルノは息を殺し、
わずかに扉の隙間から中を覗いた。
広い部屋。
床や壁に残る、乾ききらない血痕。
用途の分からない器具。
異様な匂い。
そして――
部屋の最奥。
壁に縫い付けられるように、
一人の女性が座り込んでいた。
緑がかった茶色の長い髪。
力なく垂れた首。
その姿を見た瞬間、
タケルノの中で、何かが切れた。
(……ヨシノだ)
確信と共に、
理性が吹き飛ぶ。
扉を開き、
部屋へ踏み込む。
「――ヨシノ!!」
感情のままに、
叫び声が地下に響いた。




