赤き面、鎖は応える
新たな力を得た高揚が、
はるかと仁羅の胸を満たしていた。
今なら――
この赤い面の主とも、渡り合える。
二人が一歩踏み出そうとした、その時。
「……貴様ら、雪霞の者か?」
低く、だが先ほどとは違う声音。
赤い面の者は、羽団扇を下ろし、
ゆっくりと四人を見渡した。
「それであれば、止める理由が思いつかん」
殺気は、もうない。
「またたびか何か知らんが、勝手にしろ」
そう言い残し、背を向ける。
――去るつもりだ。
その瞬間。
世一の脳裏に、
あの巫女の声が、鮮明によみがえった。
赤き、長く伸びた鼻。
憤怒の顔。
迷いし時、その者が――
そなたの力となってくれるであろう。
「……待て!」
考えるより先に、声が出ていた。
赤い面の者は、足を止める。
一瞬、振り返り――
何かに気づいたように、すうっと地へ降り立った。
世一の目前まで近づき、
じっと、顔を覗き込む。
「……貴様」
低く、探るような声。
「カラスとのハーフか?
烏丸の血……烏丸家に連なる者だな?」
空気が張り詰める。
世一は視線を逸らさず、短く答えた。
「ああ。俺は烏丸家の人間だ」
赤い面の者は、しばし沈黙する。
何かを量るように、
世一の気配、立ち姿、息遣いを見つめ。
「……そうか」
やがて、ぽつりと呟いた。
「ならば、試してみたいことがある。
着いてこい」
それだけ言い、歩き出す。
「え、ちょ、ちょっと待てよ!」
世一が声を上げるが、
赤い面は振り返らない。
はるかは肩を落とし、
「……なんか、急に流れ変わったね」
仁羅はため息混じりに、
「面倒くせーけど、行くしかねぇだろ」
月兎も黙って頷き、
四人はとりあえず、その背中を追った。
辿り着いた先にあったのは、
山の頂に近い、一軒の家。
あばら家ではない。
だが、どこか異質な佇まいをしている。
周囲の空気が澄み、
少し、肌寒い。
「着いたぞ」
赤い面の者はそう言い、戸を開ける。
中へ入ると、
家具は最低限。
だが、壁際には積み上げられた書物。
そして、奥には――
厳重に封じられた、一つの箱。
赤い面の者は迷いなくそこへ向かい、
箱を開いた。
「……それを持て」
世一へ向け、顎で示す。
中にあったのは、
長く白い鎖を持つ武器。
鎖の先には、
通常よりも大きな刃を持つ鎖斧――
あるいは鎖鎌に近い形状。
なぜか、拒む気になれなかった。
世一は、ゆっくりとそれを手に取る。
――その瞬間。
武器が、淡く光った。
白かった鎖が、
墨を流したように黒く染まっていく。
「……っ!?」
世一の手に、
ずしりとした重みと、
確かな“応答”が伝わる。
赤い面の者は、その様子を見て、
小さく息を吐いた。
「……やはりな」
その声は、
どこか懐かしさと、確信を帯びていた。
世一の“力”は、
ここで初めて――
形を得ようとしていた。




