山は拒み、名は呼ばれる
またたび探しの旅に出ると決めた四人は、
事前に杉山善徳へと報告を入れていた。
案の定、いい顔はされなかった。
「……遊び半分で行く場所じゃないぞ」
そう釘を刺されはしたが、
最終的には条件付きで了承を得る。
本来であれば、
またたびが生えていると噂される山までは三日の道程。
――だが。
「絶対、余計な訓練のせいだろ」
四日目の朝、山を見上げながら世一がぼやく。
「黙れ」
即座に仁羅が切り捨てる。
「これも旅のだいご味です!」
はるかが笑顔で割って入り、
一行の空気は険悪になることなく保たれていた。
そうして四人は、
山の中へと足を踏み入れる。
獣道を辿り、周囲を警戒しながら進むことしばらく。
山の中腹あたりで、
沢の流れる音が耳に届いた。
「あっ!」
はるかが声を上げる。
「ここだよ!この辺にありそう!」
そう言うが早いか、
勢いよく沢へ駆け寄り、しゃがみ込む。
ごくごくと水を飲むはるかに続き、
他の三人も喉の渇きを思い出したように水を口にする。
一息ついた、その時だった。
「――この山から、去れ」
低く、はっきりとした声。
四人は瞬時に立ち上がり、
周囲へと視線を走らせる。
見上げた先――
大きな木の枝の上に、その姿はあった。
鼻の長い、怒り顔のような赤い面。
高い下駄に、やや明るい色合いの着物。
胸の膨らみから、女であろうことが窺える。
枝の上に、まるで地面と変わらぬように立っている。
――人ではない。
その直感が、四人の背筋を冷やした。
「待って!」
はるかが一歩前に出て、声を張り上げる。
「私たちは、またたびを探してるだけ!
戦うつもりはないよ!」
だが、赤い面の者は答えない。
ただ一言。
「去れ」
次の瞬間、
手にしていた羽団扇が、大きく振られた。
――ゴウッ。
突風。
視界が白くなり、
四人の身体が一斉に吹き飛ばされる。
「くっ……!」
地面を転がりながら体勢を立て直すが、
近づこうとするたび、風が壁のように立ちはだかる。
斬り込めば弾かれ、
踏み込めば吹き飛ばされる。
「話、聞く気ねぇな……!」
世一が歯噛みする。
その時。
はるかの胸の奥に、
あの日――武器を手にした瞬間に響いた“名”が、
はっきりと蘇った。
「……もう、我慢できない」
はるかは薙刀を構え、叫ぶ。
「月華! 力を貸して!」
呼びかけに応えるように、
小さな白い水晶が淡く青く染まり、
薙刀は意思を持つかのように姿を変える。
風を裂く気配が、刃に宿る。
それを見て、仁羅も舌打ちする。
「……仕方ねぇな」
曲刀を握り、低く告げる。
「陰轍。力を貸せ」
同じく、水晶が光り、
歪んだ刀身が、より禍々しい形へと変貌する。
二人が一歩前に出る。
赤い面の者を、真っ直ぐに見据え。
月兎と世一も、遅れて構えを取る。
風が、再び山を鳴らす。
だが今度は――
それに抗う力が、確かにそこにあった。
この山が拒むのなら、
名を呼び、力を借りるまで。
四人は、初めて“本当の戦い”へと踏み出した。




