静かな祝福、揺れる結晶
雪妃衆の面々が訓練場に集う。
その輪の中には、月兎と世一の姿もあった。
壇上に立つのは、いつも通り杉山善徳。
だが今日、その隣には――ユキヨがいる。
その姿を認めた瞬間、場の空気が一段、張りつめた。
「本日は特別だ」
善徳の声が、訓練場に響く。
「姫様自ら、我らの訓練をご覧くださる。
我らが仕える主が来てくださったのだ。
いつも以上に――
我らがどれほど頼りになるか、結果で示せ!」
返事は、地を震わせるほど力強かった。
「「はい!!」」
善徳が一歩下がり、場を譲る。
今度はユキヨが、ゆっくりと前に出た。
「主らの忠誠は、常日ごろ感じておる」
穏やかだが、芯のある声。
「今日は、皆の励む姿をこの目で確かめに参った。
ワラワに構う必要はない。
いつも通り、己の鍛錬に励み、その成果を見せてくれ」
その言葉に、
忠誠、憧れ、恋慕――
さまざまな感情を胸に宿す隊員たちから、歓声が上がる。
訓練は始まった。
いつもと同じはずの光景。
だが、どこか浮つき、熱を帯びている。
ユキヨはしばらく全体を眺めた後、
ふと、ある一点に視線を留めた。
鬼のように、ただひたすら素振りを繰り返す月兎。
「……」
わずかに、眉が動く。
「いつも、あやつはあのような鍛錬ばかりしておるのか?」
隣の善徳へ、低く問いかける。
「隊の者と同じ訓練は、まださせぬのか?」
苛立ちを含んだ声に、善徳は一瞬だけ言葉を選んだ。
「通常の訓練を行うには、まだ早いと判断しております。
現在は、はるかと仁羅に基礎を任せております」
「……ふむ」
納得したように頷くが、
完全に腑に落ちたわけではない表情だった。
少し間を置き、ユキヨは別の問いを投げる。
「そういえば――
ワラワの血が入った武器を扱える者は、まだ増えぬのか?」
善徳の肩が、わずかに揺れた。
「適度に試しておるのであろうな?」
――していなかった。
訓練に重きを置くあまり、発現の確認は後回しになっていた。
「……試してはおりますが」
善徳はすぐに切り替える。
「ちょうど良い機会です。
一度、全員に試させましょう」
号令がかかり、隊員たちが集められる。
並べられたのは、五本の武器。
ユキヨの血を宿す、白い小さな水晶を備えた武器たち。
「一人ずつ、触れてみよ」
指示に従い、隊員たちが順に手を伸ばす。
白い結晶が、かすかに揺れる者はいる。
だが――名は聞こえない。
沈黙のまま、次へ、また次へ。
やがて、残ったのは二人。
帆保はるかと、加賀仁羅。
「はーい!じゃあ私から行きます!」
はるかはいつもの調子で前に出る。
一本目。
反応なし。
二本目。
わずかに揺れるが、沈黙。
三本目に触れた瞬間――
白い水晶が、淡く青く染まり、光を放った。
武器が、音もなく形を変える。
それは、はるかが普段使う薙刀より、ほんの少し短い薙刀。
「……え?」
はるかが目を見開く。
周囲から、どよめきが起こった。
「おお……」
善徳は、静かに息を吐く。
「ようやく――六人目が現れましたね」
そう言って、ユキヨへと視線を送る。
ユキヨは、青く輝く結晶を見つめながら、
小さく、しかし確かに微笑んでいた。
祝福の瞬間。
だが同時に――
この力が呼び寄せるものを、誰もまだ知らない。




