甘味と小さな約束
加賀仁羅と帆保はるかの、容赦のない指導に耐え続けて数日。
訓練場に立つ世一と月兎の姿は、初日とは明らかに違っていた。
息は乱れるが、立っている。
足は震えているが、倒れない。
はるかが、ぱっと明るく笑う。
「この数日で、ほんとによくなったね!
このまま続けたら、もっと強くなれるよ!」
「……まあ、まだまだだけどなー」
仁羅は欠伸混じりにそう言った。
その言葉に、世一と月兎は顔を見合わせ、思わず笑う。
笑える余裕ができたこと自体が、成長だった。
「それじゃあ!」
はるかが両手を叩く。
「今日はここまでにして、甘いモノ食べに行こ!
頑張ったご褒美に、二人の分は私が出すよ!」
「ついでに、俺の分も出してくれていいんだけどな」
仁羅が、ぼそっと呟く。
「……聞こえてるよ?」
「はは、冗談冗談」
***
一行が甘味処へ向かって歩いていると、
前方から軽やかな足取りの影が近づいてきた。
「あーっ!
嘘つき童貞くんにゃ!」
その一言で、通りの空気が一瞬、止まる。
「おい!やめろ!!」
世一が慌てて声を上げるが、
猫と人のハーフの少女は、にこにこしたまま近づいてくる。
小さな猫耳と、ゆらりと揺れる尻尾。
見た目は人に近いが、仕草の端々に猫の気配があった。
「久しぶりにゃ~」
はるかが目を輝かせる。
「あっ、この子知ってる!
元気そうでよかった!」
「はるかと知り合いだったんだね。
これからどこ行くの?」
「甘味処にね!
……あれ?世一のこと知ってるの?」
夜の店での一件を簡単に話すと、
はるかは一瞬きょとんとした後、即座に言い放った。
「世一、むっつりさんなんだね!
気持ち悪い!!」
「ちげーよ!!」
世一が即座に反論する。
「俺は昔から猫に嫌われてんだよ!
触ろうとすると逃げられるし、引っかかれるし!
あの時は酒も入ってたし、
触れそうな距離にいたから気になっただけだ!」
必死な弁明に、
月兎と仁羅が堪えきれずに吹き出す。
「……それ、余計に悲しい話だね」
猫の少女は、少しだけ目を細めた。
「そんな事情があるなら、
お願いを聞いてくれたら触らせてあげるにゃ」
「ほんとか!?」
世一が食いつくように身を乗り出す。
「で、そのお願いってなんだよ!」
「ここから三日ほど行った山の、
沢沿いに最高のまたたびが生えてるらしいのにゃ。
それを持ってきてくれたら、触らせてあげる」
ぱちり、と悪戯っぽくウィンクをして、
はるかに手を振る。
「じゃ、またね~」
軽快な足取りで去っていく背中を見送りながら、
世一は頭を抱えた。
「……アバウトすぎるだろ」
「大丈夫!」
はるかが、即答する。
「なんとなく場所わかるから、後で教えてあげる!
甘いもの食べながらね!」
そのまま、迷いなく前を歩き出す。
「……すごい勢いだったな」
月兎が呟く。
「元気な女は、あんなもんだ」
仁羅は肩をすくめる。
「疲れるから、俺はあんまり好きじゃないけどなー」
前を行くはるかの背中を追って、
三人は甘味処へと歩き出した。
――この小さな約束が、
後に思わぬ場所へ繋がるとも知らずに。




