表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
42/73

甘味と小さな約束

加賀仁羅(かがじんら)帆保(ほぼ)はるかの、容赦のない指導に耐え続けて数日。

 訓練場に立つ世一と月兎の姿は、初日とは明らかに違っていた。


 息は乱れるが、立っている。

 足は震えているが、倒れない。


 はるかが、ぱっと明るく笑う。


「この数日で、ほんとによくなったね!

 このまま続けたら、もっと強くなれるよ!」


「……まあ、まだまだだけどなー」


 仁羅は欠伸混じりにそう言った。


 その言葉に、世一と月兎は顔を見合わせ、思わず笑う。

 笑える余裕ができたこと自体が、成長だった。


「それじゃあ!」

 はるかが両手を叩く。


「今日はここまでにして、甘いモノ食べに行こ!

 頑張ったご褒美に、二人の分は私が出すよ!」


「ついでに、俺の分も出してくれていいんだけどな」


 仁羅が、ぼそっと呟く。


「……聞こえてるよ?」


「はは、冗談冗談」


 ***


 一行が甘味処へ向かって歩いていると、

 前方から軽やかな足取りの影が近づいてきた。


「あーっ!

 嘘つき童貞くんにゃ!」


 その一言で、通りの空気が一瞬、止まる。


「おい!やめろ!!」


 世一が慌てて声を上げるが、

 猫と人のハーフの少女は、にこにこしたまま近づいてくる。


 小さな猫耳と、ゆらりと揺れる尻尾。

 見た目は人に近いが、仕草の端々に猫の気配があった。


「久しぶりにゃ~」


 はるかが目を輝かせる。


「あっ、この子知ってる!

 元気そうでよかった!」


「はるかと知り合いだったんだね。

 これからどこ行くの?」


「甘味処にね!

 ……あれ?世一のこと知ってるの?」


 夜の店での一件を簡単に話すと、

 はるかは一瞬きょとんとした後、即座に言い放った。


「世一、むっつりさんなんだね!

 気持ち悪い!!」


「ちげーよ!!」


 世一が即座に反論する。


「俺は昔から猫に嫌われてんだよ!

 触ろうとすると逃げられるし、引っかかれるし!

 あの時は酒も入ってたし、

 触れそうな距離にいたから気になっただけだ!」


 必死な弁明に、

 月兎と仁羅が堪えきれずに吹き出す。


「……それ、余計に悲しい話だね」


 猫の少女は、少しだけ目を細めた。


「そんな事情があるなら、

 お願いを聞いてくれたら触らせてあげるにゃ」


「ほんとか!?」


 世一が食いつくように身を乗り出す。


「で、そのお願いってなんだよ!」


「ここから三日ほど行った山の、

 沢沿いに最高のまたたびが生えてるらしいのにゃ。

 それを持ってきてくれたら、触らせてあげる」


 ぱちり、と悪戯っぽくウィンクをして、

 はるかに手を振る。


「じゃ、またね~」


 軽快な足取りで去っていく背中を見送りながら、

 世一は頭を抱えた。


「……アバウトすぎるだろ」


「大丈夫!」


 はるかが、即答する。


「なんとなく場所わかるから、後で教えてあげる!

 甘いもの食べながらね!」


 そのまま、迷いなく前を歩き出す。


「……すごい勢いだったな」


 月兎が呟く。


「元気な女は、あんなもんだ」


 仁羅は肩をすくめる。


「疲れるから、俺はあんまり好きじゃないけどなー」


 前を行くはるかの背中を追って、

 三人は甘味処へと歩き出した。


 ――この小さな約束が、

 後に思わぬ場所へ繋がるとも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ