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鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
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忠臣の報告、姫の胸中

薄く香の漂う広間。

 御簾(みす)の向こうに座すユキヨの前で、三人は静かに膝をついていた。


 先頭に立つのは杉山善徳(すぎやまぜんとく)

 その背後に、菊池京士郎(きくちきょうしろう)大石蓮(おおいしれん)が控える。


 いつもの傾奇者の空気は微塵もない。

 そこにいるのは、ただ一人の忠臣だった。


「――此度は」


 善徳が、深く頭を下げる。


「彼らが対峙した者たちの情報を基に調査を進めた結果、

 どうしても確認しておかねばならぬ懸念が生じましたゆえ、

 こうして御前に参じました」


 言葉を切り、続ける。


「調査を行った二名が、

 得られた情報を順にご報告いたします。

 どうか、お耳をお貸しください」


 御簾の向こうから、短く返事が落ちる。


「あい、わかった。

 聞こう」


 その一言だけで、場の空気が引き締まる。

 姫としての威が、静かに広がった。


 代表して、一歩前に出たのは京士郎だった。


 薬の件。

 異国への輸送。

 店主・大虎の証言。

 総領府の外政顧問が関与しているという点――。


 すべてを簡潔に、余計な感情を挟まずに語り終え、

 京士郎は最後に問いを投げる。


「……以上が、我々の得た情報です」


 そして、静かに頭を下げる。


「薬の輸送経路については、

 総領府の外政顧問が担当していると伺っております。

 店主もその者の名を知らず、

 “鬼妃様(きひさま)に伺えば分かる”とのことでした」


「差し支えなければ、

 その人物について、お教え願えますでしょうか」


 一瞬。

 御簾の向こうで、気配が揺れた。


 ユキヨは、わずかに顔をしかめる。


「ああ……その者か」


 低く、含みのある声。


「名は知っておる。

 腹の内が読めぬ男ではあるがな」


 だが、続く言葉は意外なものだった。


「この国のために尽くしておる人物じゃ。

 愚かな老人どもが好き勝手をせぬよう、

 抑止力にもなっておる」


 ふっと息を吐く。


「頭の回る、使える男よ。

 何を考えておるかは分からんが、

 国にとって利益となるよう動いておるのは確かじゃ」


 その言葉に、三人は胸の内で安堵する。


 ――少なくとも、

 “即座に排すべき存在”ではない。


 一拍、間を置いて。

 今度はユキヨの方から話題が変わった。


「……して」


 声の温度が、わずかに下がる。


「月兎は、雪妃衆(せっきしゅう)の訓練にも参加しておると聞いておる」


 善徳を見る視線に、圧が宿る。


「満身創痍の姿を見た、という話も耳にした。

 よもや――

 非人道的なことをしておるわけではなかろうな?」


 場が、ぴんと張りつめた。


 だが、善徳はすぐに破顔する。


「はっはっは!」


 いつもの調子が、ほんの少し戻る。


「そのようなこと、万が一にもありませんとも」


 胸を張り、断言する。


「確かに、訓練は厳しい。

 最初のうちは、見ていて痛々しく映るかもしれません」


「ですが――

 耐えた先には、必ず結果が残るよう組んでおります」


 自信に満ちた言葉だった。


 ユキヨは、ほっと息をつく。


「……そうか」


 そして、善徳がにやりと笑う。


「そこまでご心配なさるのであれば」


 からかうように、だが本気を滲ませて。


「いっそ、姫様ご自身が

 月兎にお言葉を賜ってはいかがでしょう?」


「姫様が顔を出せば、

 他の者たちも奮起いたしましょうし」


 少しだけ声を落とす。


「姫様の御武器を扱える者も、

 増えるやもしれません」


 軽口のようでいて、

 雪妃衆の現状を案じる本音だった。


 ユキヨは、しばし沈黙した後、静かに頷く。


「……そうじゃの」


「そのうち、顔を出すとしよう」


 そして、命じる。


「月兎が訓練に来る日を、

 先に伝えておいてくれ」


 三人は、揃って頭を下げた。


「はっ」


 それで、話は終わりだった。


 忠臣たちは静かに下がり、

 広間には再び、香と静寂だけが残る。


 ――姫は、動く。

 その時が、近づいていた。

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