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鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
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重さが教えてくれた答え

世一が重たいそりを引きずりながら走り出すのを横目に、

 はるかは月兎の前へと、ずいっと何かを差し出した。


「今日はこれで素振りしてみて!」


 渡されたのは、黒く鈍い光を放つ(つば)のない鉄の棒。

 長さは月兎の刀とほぼ同じだが、見ただけで分かる。――重い。


 握った瞬間、ずしりと腕に負荷がかかる。


「……重い」


 思わず漏れた声に、はるかはにかっと笑った。


「でしょ! でも大丈夫!」


 試しに振ってみる。

 だが、鍔がないせいか、振り切る瞬間に力が逃げる。

 いつもの刀より、思ったように扱えない。


「最初は素振りも大変だと思うけど、やってれば慣れる!

 はい、構えて!」


 勢いだけで押してくるその言葉に逆らえず、月兎は姿勢を整える。


「はい、始め!」


 合図と同時に、月兎は鉄の棒を振り下ろした。


 一振り。

 二振り。


 十、二十……

 百を超えたあたりから、腕がじわじわと熱を持ち始める。


 その時だった。


「なんだか私も身体動かしてきたくなっちゃった!

 行ってくるねー! 戻ってくるまで続けておくように!」


 そう言い残し、はるかは雪妃衆が訓練している方へと走り去った。


「えっ……?」


 月兎は思わず声を上げる。


「すぐ戻ってくる、よな……?」


 返事はない。


 仕方なく、素振りを続ける。


 一振りごとに、腕が重くなる。

 百五十、二百……。


 やがて、一本振るのに数十秒かかるようになった。

 筋肉が、悲鳴を上げている。


 ――もう、やめてもいい。


 頭のどこかで、そう囁く声がする。


 だが、月兎は歯を食いしばった。


 これまで、何度も痛感してきた自分の弱さ。

 守られる側でしかなかった現実。


 ――強くなりたい。


 その想いだけが、腕を動かし続けていた。


 もう一度振れば、限界だ。


 そう思った、その瞬間。


「おー! まだやってたんだ!」


 振り向くと、はるかが戻ってきていた。


「ごめーん! 楽しくて忘れてた!」


 てへっと舌を出して笑う。


 その一言で、張り詰めていた力が一気に抜けた。


 鉄の棒が手から滑り落ち、

 月兎はその場に倒れ込む。


 荒い息を吐きながら、天を仰ぐ。


「……」


「頑張ったねー!」


 はるかは満足そうに頷いた。


「よし! 次は自分の刀で、何回か素振りしてみて!

 絶対、いい感じになってるよ!」


 また振らせるのか、と一瞬絶望しかける。

 だが――意味はあった。


 それは、身体がもう理解していた。


 月兎は自分の刀を手に取り、ゆっくりと振る。


 ――軽い。


 さっきまでとは、まるで違う。


 振り抜いた時のなめらかさ。

 次の動作へ移る速さ。


 疲れているはずなのに、動きが自然につながっていく。


「……!」


 驚き、思わずはるかの方を見る。


 はるかが、うんうんと頷いた。


「いい感じになったでしょ?」


 得意げに、指を立てる。


「多分だけどね、その刀、刀身の重心とか柄の重さが

 普通の刀とちょっと違うんだと思う!」


 月兎は耳を傾ける。


「だから他の人と同じ振り方しても、

 変な力が入って、うまく振れてなかったんじゃないかなーって!」


 一拍置いて、はるかは付け足した。


「……まあ、これ仁羅が言ってたことなんだけど。

 多分、合ってる! うん!」


 月兎は思わず苦笑する。


 でも、確かに――

 身体は、正直だった。


「強くなったらさ」


 はるかは、にっと笑う。


「戦うことで仁羅にはお礼すればいいよ!

 一緒に強くなろうね!」


 その明るさに引っ張られるように、

 月兎も自然と笑顔になった。


「……はい!」


 元気よく返事をする。


「じゃあ休憩も終わりね!素振り再開!」


 はるかは、また走り出しながら振り返る。


「次は忘れないから大丈夫!」


 根拠のない言葉と笑顔だけを残して。


「……」


 月兎は空を見上げ、小さく呟いた。


「まだ、終わりじゃなかったんだ……」


 それでも――

 刀を握る手は、さっきよりも、ずっと確かだった。

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