雪妃衆・新たな歯車
ユキヨと会った翌日。
朝の冷たい空気の中、雪霞の訓練場には二十名の雪妃衆が整列していた。
その前方、簡素な壇上に立つのは杉山善徳。
長刀を肩に担ぎ、煙管をくわえたまま、場を見渡す。
その横に並ぶのが――
常闇月兎と、烏丸世一。
視線が集まる。
好奇、警戒、値踏み。
様々な感情が混じった空気の中で、善徳が口を開いた。
「今日からこの二人が、訓練に顔を出す」
低く、よく通る声。
「基礎も何もない。
これから生きていくために必要な訓練を行うだけだ」
一拍置き、言葉を続ける。
「姫さんの血が入った武器は扱わせない。
あくまで、基礎と実戦に耐える身体作りだ」
ざわり、と小さく場が揺れる。
「教える者もいるだろう。
だが、教えるからには手を抜くな」
善徳は視線を鋭くする。
「それから……もう聞いている者もいると思うが、
正太と妖狐が、正体不明の男たちと対峙した」
空気が、ぴんと張り詰めた。
「正太は二、三日で戻ると聞いている。
だが――姫さんの武器を使っても、二人がかりで歯が立たなかったそうだ」
どよめきが走る。
ユキヨの血が入った武器を扱える者は、雪妃衆の中でも上位。
妖狐は武器こそ使えないが剣術は一流。
その二人が完敗に近い形で退いたという事実は、重かった。
「だからこそだ」
善徳は、はっきりと言い切った。
「一日でも早く、姫さんの武器を使いこなせる者を増やしたい」
拳を握る者が、何人もいる。
「扱い方は、正直わからん。
だが、望めば使えるようになるのは明白だ」
善徳の目が、全員を射抜く。
「戦いは、いつ起こるかわからない。
だから――全力で訓練しろ!」
「はい!!」
二十の声が、揃って響いた。
ひとまずの説明が終わると、善徳は二人の名を呼ぶ。
「加賀仁羅、帆保はるか。前に出ろ」
呼ばれて現れたのは、対照的な二人だった。
まず一人は、細身で背が低めの青年。
短くとげとげした髪は、茶色とも金色ともつかない色合いで、襟足だけが少し長い。
眠そうな目元をしたその男は、どこか気だるげに立っている。
「……あー、加賀仁羅です。よろしく」
やる気のなさそうな声。
腰には、刃がぐにゃりと歪んだ奇妙な曲刀を下げていた。
もう一人は――
小柄で、元気そのものといった少女。
短くないショートヘアの茶髪を、カチューシャのようなもので留め、
ぱっと見ただけで明るいとわかる笑顔を浮かべている。
「帆保はるかです!よろしくお願いします!」
通常より少し短い薙刀を軽々と担ぎ、元気よく頭を下げた。
「この二人に、基礎を教えてやってくれ」
善徳の言葉に、はるかは元気よく頷き、仁羅は「りょーかい」と気の抜けた返事をする。
「まずは実力を見よう」
そうして、簡単な模擬戦が始まった。
月兎は、はるかと。
世一は、仁羅と。
二人とも、全力で仕掛けた。
だが――
結果は、あっさりだった。
世一の暗器は、仁羅に軽くいなされ、距離を詰められる前に足を払われる。
「っと……はい、終了」
仁羅は曲刀を肩に乗せ、眠そうな目のまま世一を見る。
「まず体力不足だなぁ。
基礎練より先に、走って走って走りまくるのが一番だと思う」
一方、月兎はというと――
「なんかダメですね!弱いです!」
はるかが、ばっさり切り捨てる。
「腕の振り!振るまでの動作が変です!
こう!こうです!」
身振り手振りで説明するが、言葉はほとんど感覚的だ。
「え、えっと……?」
「考えすぎです!ほら、もう一回!」
勢いに押され、月兎は言われるがまま刀を振る。
「うーん、まだ違いますね!」
結局、二人とも追い詰めるどころか、まともに太刀打ちできなかった。
訓練は、そこでいったん終了となる。
「はい!今日はここまで!」
はるかが、ぱんっと手を叩く。
「世一は走って!
月兎は素振り!」
にこっと笑って、指を突き出す。
「解散した後も、自主練は怠らないように!
また教えてあげますから!」
圧のある笑顔に、月兎と世一は思わず背筋を伸ばした。
「……はい」
声を揃えて返事をする。
こうして――
二人の、本当の訓練の日々が始まった。




