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鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
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交錯する刃と、香ばしい怒り

空気が裂けた。


 最初に動いたのは、世一とヌル兵衛だった。


 世一の暗器が、指の動きと同時に放たれる。

 鋭く、無駄のない軌道。


 だが、ヌル兵衛は常識を裏切る。


 しなる身体が、不自然なほど大きく波打ち、

 暗器の軌道を“ずらす”ように躱す。


「ちっ……!」


 世一が舌打ちする。


 その瞬間――


「援護に行くぞ!」


 京士郎が、刃の大きな刀を構え、

 蓮が大きな鎌を振り上げた。


 だが――


 ヒュン、と空を切る音。


「っ!」


 蓮が反射的に鎌を振るう。


 矢。


 少し長く、装飾の施された弓から放たれた一射が、

 蓮の目前を掠めて地に突き刺さる。


「……動くな」


 低い声。


 コハクが、弓を引き絞っている。


 同時に、横合いから鋭い踏み込み。


 タケルノが、西洋の剣を振り下ろした。


 金属音が弾ける。


 京士郎が、刃の大きな刀で受け止める。


「くっ……!」


 蓮と京士郎は、完全に足止めされた。


 戦線は、明確に二つに分かれる。


 一方――


 月兎は、刀を抜かず、

 亜華巴を背に庇うように立っていた。


 視線は、まだ動いていない二人へ。


 長い槍を地面に突き立て、静かに構えるアシナガ。

 そして、巨体を揺らしながら、愉快そうに笑う豪凱。


 ――まだ、来ない。


 その“溜め”が、嫌な予感を生む。


 その間にも、世一とヌル兵衛の戦いは激しさを増していた。


 拳、肘、蹴り。

 ナイフの閃きと、予測不能な体捌き。


 ヌル兵衛の動きは、獲物を絡め取る蛇のようで、

 世一の暗器は、その隙間を縫う蜂の針のようだった。


 だが――


 次第に、異変が起きる。


 ヌル兵衛の身体から、

 じわりと、香ばしい匂いが立ち上り始めた。


「……」


 世一の眉がひくりと動く。


 怒声を上げるたび、

 その匂いは濃くなり、風に乗って世一の鼻を刺す。


「……おい」


 世一が、苛立ちを隠さず吐き捨てる。


「誤解で八つ当たりしてくるな。

 それと――その匂い、何とかしろ!」


「この……ふざけるな!!」


 ヌル兵衛が怒鳴る。


 瞬間、匂いはさらに強くなった。


 腹が、鳴る。


 ――最悪だ。


 空腹と苛立ち。

 集中が、わずかに乱れた。


 その一瞬を、ヌル兵衛は見逃さなかった。


 しなる身体が、常軌を逸した角度で捻じれ、

 うねるような蹴りが放たれる。


「っ――!」


 世一の身体が宙を舞い、

 地面を転がって月兎の近くまで吹き飛ばされる。


「大丈夫か!?」


 月兎が声をかける。


「俺も――」


「いい!」


 世一が即座に遮る。


「亜華巴を守れ!」


 短いやり取り。


 次の瞬間、ヌル兵衛が再び距離を詰めてくる。


 世一は立ち上がりながら、思考を走らせた。


 ――殺す相手じゃない。

 ――情報を持っている。

 ――そして、騙されている。


 結論は、一瞬で出た。


 暗器が、次々と放たれる。


 致命を避け、

 神経と急所だけを狙う配置。


「ぐっ……!?」


 ヌル兵衛の動きが鈍る。


 最後に放たれた一撃が、

 正確に意識を断ち切った。


 香ばしい匂いの身体が、どさりと倒れる。


「……」


 世一は息を切らし、片足をつきながら吐き捨てる。


「てこずらせやがって。

 余計に腹も減ったじゃねぇか」


 その元へ、亜華巴が駆け寄る。


 淡い光が、世一の傷を包む。


 治癒。


 世一は、ゆっくりと呼吸を整えた。


 亜華巴は、倒れたヌル兵衛を見下ろし、首を傾げる。


「……この見た目で、この匂いは……

 なんとも言えないですね」


 一拍置いて、真顔で続ける。


「食べてはみたいですけど」


「冗談でもそんな事言ってんじゃねーよ」


 世一が即座に返す。


「冗談ではありませんよ」


 亜華巴は、苦笑いを浮かべながら、

 とんでもない言葉を残した。


 戦場の空気が、

 一瞬だけ、奇妙に緩んだ。


 だが――

 まだ、戦いは終わっていない。


 動かぬアシナガ。

 笑みを深める豪凱。


 そして、

 分断されたもう一つの戦線。


 次に動くのは、誰か。


 その答えは、

 すぐそこまで迫っていた。

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