表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
13/39

見えぬ未来、選ばれる心

巫女様の前に、最初に進み出たのは

 京士郎だった。


 藁の円座に腰を下ろし、背筋を伸ばす。

 水晶の淡い光が、彼の眼鏡に反射した。


 巫女様は、しばしその姿を見つめ――静かに口を開く。


「一番近くにいる者の意識を感じ取ること。

 それが、そなたの今後に生きるであろう」


 京士郎は一瞬だけ目を伏せ、短く息を吐いた。


「……心得ました」


 深く頭を下げ、席を譲る。


 次に進み出たのは、蓮だった。

 どかりと座るが、いつもよりは幾分か大人しい。


 巫女様は、水晶に手をかざす。


「心の内を、ほんの少しでも打ち明けること。

 それが、そなたの糧となろう」


「……は?」


 蓮は眉をひそめるが、すぐに鼻で笑った。


「ま、考えとくわ」


 軽く手を振り、立ち上がる。


 続いて、世一が前へ出た。

 長い黒髪を背に流し、無言で座る。


 巫女様の表情が、ほんのわずかに変わる。


「赤き、長く伸びた鼻。

 憤怒の顔……」


 世一の肩が、わずかに揺れた。


「迷いし時、その者が――

 そなたの力となってくれるであろう」


 世一は何も言わず、静かに一礼する。


 次は、亜華巴。


 華奢な身体で円座に座り、薄緑の瞳を伏せる。


「ある者との出会いにより、

 今後に必要な、さまざまなものを得る」


 巫女様は続ける。


「そして――選択を迫られる時が来よう。

 その時は、他者に委ねるでない。

 己の決断こそが、よき道へと繋がる」


 亜華巴は、小さく息を吸い、


「……はい」


 そう、はっきりと答えた。


 そして、最後。


 月兎が前へ進み、円座に座る。


 巫女様は水晶を見つめたまま、動かない。


 沈黙。


 ろうそくの火が揺れる音すら、大きく感じられるほどの静けさ。


 ――長い。


 あまりにも、長い沈黙だった。


 やがて、巫女様の声が落ちる。


「……我には、

 そなたの未来は、見えぬ」


 その言葉に、空気が凍りついた。


 嘉兵衛が、思わず目を見開く。

 ――巫女様が「見えぬ」と言ったことなど、これまで一度もなかった。


 月兎は、わずかに口元を歪めた。


「……そうですか」


 落胆を隠しきれないまま、立ち上がろうとした、その時。


「待て」


 幼い声が、しかし確かな力を持って月兎を止める。


「先は見えぬ。

 だが――助言はできよう」


 巫女様は、真っ直ぐに月兎を見据えた。


「そなたは、力を使う度に、

 何度も選択を迫られるであろう」


 月兎の胸に、あの“感覚”が蘇る。


「その力はな、

 使うほどに、失っていく」


 静かな断言。


「必要な時には、致し方なかろう。

 だが、使う“時間”には気をつけよ」


 ――あれだ。


 月兎は直感する。

 あの、血が熱を帯び、何かが削れていく感覚。


「……ありがとうございます」


 深く頭を下げる。


 だが、月兎は一歩下がりかけて、立ち止まった。


「……どうすれば、制御できますか」


 巫女様は、少しだけ目を細める。


「詳しいことは、我にも分からぬ」


 そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「失った者のために、

 殺意と復讐に燃えて行動するか」


「それとも、

 失う者が二度と出ぬよう、

 世をよくしようと善意で行動するか」


「思い一つで、

 そなたは悪にも、善にも染まる」


 巫女様は、ふっと微笑んだ。


「もし、選択を迫られたなら――

 楽しめ」


 月兎は、息を呑む。


「外の鬼たちを見たであろう?

 戦いを、苦悩の末の選択ではなく、

 楽しむための選択としていた」


「人の一生など、

 流れる雲のようなもの」


「どうせなら、

 楽しく過ごした方が、

 最期の時にも納得して逝けよう」


 その言葉に、月兎の中で、

 鬼たちの豪快な笑い声が蘇る。


 何気ない旅路の会話。

 湯あみで笑った時間。

 仲間たちの、当たり前の顔。


 月兎は、顔を上げた。


 そこには、先ほどまでの曇りはない。


 霧が晴れたような、はっきりとした笑顔で――


「助言、ありがとうございます」


 そう、真っ直ぐに答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ