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鬼ガシマ  作者: Toru_Yuno
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鬼の日常、そして届かぬ拳

地面が、鳴っていた。


 いや――鳴っているというより、揺れている。


 丸太で囲われた村の中央、開けた場所で二体の鬼が向かい合っていた。

 人の背丈を軽く超える体躯。

 盛り上がった筋肉が、ぶつかるたびに鈍い音を立てる。


 拳と拳がぶつかり合う。

 足が地を踏み抜き、土煙が舞う。


 殴り合いだ。

 技も駆け引きもない、ただ力をぶつけ合う戦い。


「……っ」


 月兎は、息をするのも忘れてその光景を見つめていた。

 隣では亜華巴が思わず袖を掴み、世一も言葉を失っている。


 ――重い。

 ――速い。

 ――そして、楽しそうだ。


 最後に、片方の鬼が豪快に拳を叩き込まれ、数歩よろめいた。

 だが倒れない。


「ははっ、今日はここまでだな!」


「おう! いい汗かけたわ!」


 二体の鬼は同時に笑い声を上げ、拳を打ち合わせた。

 怒号も殺気もない。

 そこにあったのは、ただの日課を終えた満足感だった。


 圧倒された三人の背後で、京士郎が淡々と告げる。


「これが鬼の日常だ」


 そっけない声。

 だが、その言葉は重かった。


 ――人の戦いとは、根本が違う。


 そのまま村の奥へ進もうとした、その時。


「……」


 月兎が、足を止めた。


 何も言わず、方向を変える。

 そして、先ほど戦っていた鬼へと歩み寄っていった。


「おい! 何してんだ!」


 世一の焦った声が飛ぶ。

 だが月兎は止まらない。


 鬼の前まで来ると、静かに顔を上げた。


「……今の自分の力が、どれほどか。試してみたい」


 一瞬、空気が止まった。


 次の瞬間――


「はっはっは!」


 鬼は腹を抱えて笑った。


「威勢のいいガキだ! 面白い!」


 そして顎に手をやり、少し考えるような仕草をする。


「だが、わしが殴れば死んでしまうな。

 おい! せがれを連れてこい!」


「……はぁ」


 面倒そうな声と共に現れたのは、月兎と同じくらいの背丈の鬼だった。

 若く、だが筋肉の質が違う。

 視線には、すでに諦めの色が混じっている。


「死なぬよう、全力でいけ」


 父と思しき鬼の言葉に、せがれは肩をすくめた。


「……分かってるよ」


 次の瞬間だった。


 距離を詰める速度が、異常だった。

 一気に踏み込み、拳が放たれる。


 ――重い。


 月兎は刀に手をかける間もなく、衝撃を受けた。

 身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。


「……っ」


 息が詰まる。

 視界が揺れる。


「これで終わりか?」


 つまらなそうな声が、上から降ってくる。


 月兎は、歯を食いしばった。

 ――弱い。

 ――届かない。


 その瞬間、頭の奥で何かが囁いた。


 ――まだだ。

 ――目を覚ませ。


 血が、騒ぐ。

 視界が、研ぎ澄まされ――


 だが。


 ゴンッ。


 首元に、強烈な衝撃。


「――っ!?」


 意識が弾け、身体が前に崩れ落ちる。


 倒れる一瞬、月兎の視界に映ったのは――

 忍装束に身を包んだ、一人の男。


 冷えた眼差し。

 音もなく立つ影。


 そして、闇。

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