閉ざされた村と、国の外の話
森を抜ける道は、次第に踏み固められた土へと変わっていった。
五人は一定の距離を保ちつつ、黙々と歩いている。
その沈黙を破ったのは、蓮だった。
「ねえ」
軽い調子で、前を歩く二人に声をかける。
「あんたたち、ハーフよね?」
世一と亜華巴が、同時にちらりと視線を向けた。
「そうだけど」
「そうですね」
「人の血が混じってない、そこら辺にいるカラスとか蝶とかさ。
同族としての仲間意識って、ないの?」
素朴な問いだった。
少しの間のあと、世一と亜華巴が同時にあっさりと言う。
「特にはないな」
「私も、ないですね」
本当に興味がなさそうな声だった。
「……そんなものなんだ」
蓮が肩をすくめる。
「まあ、中にはそういうやつもいるかもしれねぇけどな」
世一は前を向いたまま続ける。
「この国にいるハーフは、大体こんな考えだと思うぞ」
「そうですねぇ」
アゲハも同意するように頷いた。
「この国以外だと、ありえないことらしいけどな」
世一の言葉に、蓮が眉を上げる。
「どういうこと?」
「家の書物で読んだ話だ」
世一は淡々と語る。
「この国は島国だろ。
海を越えると、信じられないくらい広い土地があるらしい」
月兎が、静かに耳を傾けている。
「その国々でもハーフは生まれた。
だが扱いは、実験体か家畜。
この国みたいに共に生きる場所は、なかったそうだ」
一瞬、空気が変わった。
「……そんな世界もあるのか」
蓮がぽつりと呟く。
「この国が異質なんだろうな」
世一はそれ以上、言葉を足さなかった。
その時だった。
「あれ、見えてきたぞ」
前方に、異様な景色が現れる。
高く削られた丸太が、ずらりと円を描くように並び、
村の内部を完全に覆い隠している。
さらに手前には、深く掘られた堀。
簡単に人を寄せ付ける構えではない。
「……要塞みたいね」
蓮が低く息を吐く。
京士郎が一歩前に出た。
「鬼妃様に仕える者である!」
張りのある声が響く。
「依頼のため、参った!」
しばらくして、丸太の上部――
人が立てるように作られた見張り台から、男が顔を出す。
京士郎を確認すると、無言で合図を送った。
軋む音とともに、跳ね橋が下り、
重い門が、ゆっくりと開き始める。
中へ入る直前、京士郎が振り返った。
「いいか」
低く、しかしはっきりと告げる。
「何があっても、何を見てもだ。
敵対するような行動は、絶対にするな」
三人は、無言で頷いた。
門の内側は、奇妙な光景だった。
やたらと大きなあばら家と、
人間が暮らすには小さな粗末な家。
配置に統一感はなく、無秩序に並んでいる。
「……変な村」
アゲハが小さく呟く。
きょろきょろと周囲を見回しながら歩いていると――
ドンッ。
大砲が撃ち込まれたかのような轟音が、地を揺らした。
「っ!?」
三人が一斉に身構える。
だが京士郎は、まったく慌てる様子もなく、
ある方向を指さした。
「あれだ」
視線の先。
そこには――
人の何倍もある巨体の鬼が、二体。
拳と拳をぶつけ合い、
地面を割り、空気を震わせながら、
本気で殴り合っていた。
「……戦ってる?」
蓮が呆然と呟く。
「訓練みたいなものだ」
京士郎は淡々と答える。
「ここでは、力は隠すものじゃない」
月兎は、その光景から目を離せなかった。
この村は――
今まで見てきた世界とは、明らかに違っていた。




