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8話:ジャッジメントスマッシャー

「ぐっ!」


リアムがさらに押し込まれ、肩の傷からぐしゅりと血が溢れる。

「てめぇ、この!」


ケンタは、やけくそ気味にガルバルを殴りつける。だが、ガルバルはそれを完全に無視していた。


「はぁっ!!」


そこへ、先ほど吹き飛ばされたはずの村の守り人が参戦した。

全身を某サンバを歌う時代劇の有名俳優のようにキンキラと輝かせた守り人は、剣を振りかざしてガルバルに斬りかかる。

ガルバルはそれを素手で受け止めた。


「ふん、有象無象になにができる!」

「あの格好で参戦してくる彼も充分”勇者”だよ!!」


「はぁっ!!」

「ぐっ」

「がっ」


ガルバルが両手を振り回し、リアムと守り人が吹き飛ばされる。


「旅人殿! 今の内に回復を!!」


すぐに立ち直った守り人は、一人ガルバルへと立ち向かう。

「す、すまない」

「すぐに回復します!」


いつの間にか駆けつけたセレスティアから、緑に輝く光が溢れ、リアムの肩を治療していく。



「ありがとう!!」


レインボーモヒカンのリアムが、再びガルバルへ向かう!

「すげぇよ! 二人とも勇者だよ!!」


「うっとおしいわぁぁぁぁ!!」

「っ!!」


ガルバルが全身から紫の魔力を噴出させる。


「大技がくるっ!」

リアムは咄嗟にセレスティアを庇うように背に隠し、守り人とケンタも身を護るように身構えた。


ガルバルの両手に魔力が集まり、


「はぁぁぁ!!」


魔力で形作られた散弾が、リアム達を飲み込むように放出された。


直後、ガルバル目前の地面が爆ぜた。


「ぐうぅぅっ!」


爆散する土砂が魔力の散弾を吹き散らし、さらに衝撃でガルバルが数歩後退した。


砂煙が晴れると、そこには片膝と片手を地につけた状態で、着地している黒衣の人型がいた。


「彼は、あの時の!!」


リアムの叫びが響く中、その人物、レイジはゆっくりと立ち上がる。


漆黒の装甲を走る緑の光が明滅し、バイザー部がヴォン、と怪しく輝いた。



********



やっと物陰を見つけ、焦って変身シークエンスを開始するレイジ。


Recharge Justice Core...

Limit Break

Release the Exoskeleton


<Recept Hero "勘" Expansion>

<Recept Hero "勘" Expansion>


「くっ」


その間も、ヒーロー勘エクステンションがうるさく危機を伝えてくる。


──だから今変身してんだっての!!


四肢末端から装甲が展開し、体を覆っていく。パワーの解放を示すかのように、緑のラインが明滅する。


<<<Recept Hero "勘" Expansion>>>


「うぐっ!」


瞬間、ヒーロー勘エクステンションが最大級の危機を知らせてくる。


──うっとおしいわぁぁぁぁ!!

──大技がくるっ!


『まずい!』


全身各部に設置されているスラスターノズルを全開し、大きく跳躍する。


両手に紫の光を集約し、何かを撃ち放とうとしているガルバルをモニタに捉える。

再びスラスターを炊き、その目の前へと墜落するように落下していく。


あえて地面を吹き飛ばすように! ガルバルが放つ攻撃を相殺するために、地面を爆散させた。


「彼は、あの時の!!」


背後からリアムの声が響く。


自分の後ろにいる人たちには、手出しをさせない。その意思を示すように、レイジは立ち上がった。


「ぬぅ、貴様、一体何者──」

「君は一体何者なんだ!!??」


ガルバルの誰何に被せるように、リアムがレイジに問いかけてきた。


『え、あ、お、おれ?』


完全に虚を突かれたレイジは、

『……、ジャスティス・ブレイク……』


──ヒーローが正義壊したらダメだろが!! 壊れてんのはお前のネーミングセンスだろうがレイジ!!


ケンタの悲痛なツッコミが、彼の心の中だけで響き渡る。声に出さなかった自分を褒めたいケンタだった。



「ジャスティス・ブレイク、貴様もそんなにすぐ死にたいか」

『やってみろ』


レイジは左手でクイクイと挑発するように手招きする。”旅の恥は掻き捨て”、どうやらジャスティス・ブレイクはこういうノリで行くことにしたようだ。案外ノリノリである。


「ふんっ!」


芸の無い、しかし効率的なガルバルの爪を使った振り下ろし攻撃。ガツンという鈍い音が響く。

レイジはそれを左手で受け止めた。威力のせいか、レイジが立つ地面が僅かに陥没する。


いつぞやのオークのように、空いた右手を握りこみ、腹に向けて拳打を打ち出す。

しかし、その拳はガルバルに受け止められた。


「ぬぅ、やるな」

『?』


唸るガルバル、戸惑うレイジ。

なぜか、先日の魔物たちを倒したときよりも、パワー感が少ない気がする。


──そうだ、この間みたいに超高速で動ければ……。



<ClockUp Drive Access Deny>



短いブザーと共に、インジケータには「アクセス拒否」の文言が表示される。

『は?』

「どうした! それで終わりか!!」


ガルバルは、魔力による攻撃を織り交ぜた爪の連撃を叩き込んでくる。

レイジは、それをひたすらに受け止め、逸らし、躱していく。


「はっ! 勇者以外にも、少しは骨のあるやつがいるかと思ったが、とんだ拍子抜けだな!!」


──なんで力が出ない!?


<ヒロイックシステム違反>

<三か条に違反しています。三分間は互角の戦いです>


『あ……』


失念した読者のために、ここで改めてヒロイックシステム三か条をお見せしよう!



ヒロイックシステム三か条

一つ、戦うときは変身すべし!(※1 正体を知られるべからず(※2

一つ、人々を護り(※3、敵の攻撃をその身に受けよ(※4

一つ、三分間は互角の戦いをせよ(※5


※1)生身では攻撃能力がありません。必ず変身して戦ってください。なお、万が一、命を落とすことがあってはいけませんので、生身でも生命維持能力は全開です

※2)ヒーローとは人々に愛されますが"孤独"です。人気者に憧れる気持ちはわかりますが、プライベートは大切です。正体は隠しましょう。

ただし、親密度1750ラヴ以上、又は、利害一致度80%以上の相手は例外です。秘密の共有は良いスパイスになります。

※3)ヒーローとは護る者です、人々が助けを求める声、人々の危機が直感として届きます。特にヒロインの危機には敏感です。

(ヒロイックシステム ヒーロー勘エクステンション)

※4)ヒーローとは護る者です、当然専守防衛です。攻めの姿勢(先制攻撃)はご法度です。

※5)尺を──焦らずに相手を見極めましょう。それが倒すべき"敵"であるならば容赦は不要です。全力で殲滅しましょう。



『三分!? あと何分!?』

「え? いつからの時間だ?」


レイジの叫びに、リアムが律儀に答える。


<残り1分25秒>


「はっはっはっ!! 貴様程度、三分かからずに片付けてくれよう!!」


高笑いしつつ、ガルバルはレイジに連打を叩き込む。それは徐々に激しさを増していく。


「くそっ、ジャスティス・ブレイクでも、魔族には苦戦するのか……」


ジャスティス・ブレイクは、リアムの村で魔物を殲滅している。その強さを知るだけに、ジャスティス・ブレイクの力すら及ばない魔族に戦慄する。

「……、いや、たぶん、あれはそういうのじゃないやつだぞ。だんだん、あいつの力がわかってきた気がする……」


ケンタはさすが、冴えわたるツッコミ勘である。


「ふんっ!!」


ガルバルの大振りボディーブローを受け、レイジが吹き飛んでいく。

浮いたレイジを、ガルバルが跳躍で追跡、

「はっ!」

ガルバルの蹴りが空中でレイジを捉える。隕石のように地面へと落下した。


「消えろ!!」


そのまま空中で魔力を練り上げたガルバルは、落下したレイジの元へ、高密度の魔力弾を叩き込んだ。


紫の爆炎が吹き上がる。


「ジャスティス・ブレイクゥゥゥゥゥ!!!」


吹き荒れる暴風の中、リアムの声が叫びが響く。

「たぶん、恥ずかしいから、叫ぶのやめてほしいとか思ってるぞ、あいつ」


ケンタは冷静にリアムを嗜める。



爆炎が晴れ、そこには依然健在なジャスティス・ブレイクの姿があった。


ガルバルも着地し、動じた風もないジャスティス・ブレイクの姿に、やや驚愕を示す。


「なかなかの頑丈さだな。ならば、」


しかし、更に闘志を滾らせ、再び構えを取るガルバル、

「どれだけ耐えられるか、試してくれるわ!!」


そして、ジャスティス・ブレイクに向け突進しようとした瞬間、


BOOOOM!!


ジャスティス・ブレイクの全身に走るラインが緑から赤に変化した。


『やっと、三分だ』



レイジの視界に映るインジケータに次々と文字が羅列され、同時に電子音声が響く。


Justice Core Overdrive...


ジャスティス・ブレイクの体からキィィィィンという高周波音が響き、関節部にある円形の赤いラインは高速回転開始!


Shoots restraints!!


背部から数発の光弾が射出! 不規則な歪曲軌道をとってガルバルへと殺到!

「くっ!」


咄嗟に防御態勢を取ったガルバルだったが、しかし、それは攻撃ではなかった。


「なっ! み、身動きがっ!」


ガルバルに着弾した光弾は液体のように分散し、光の帯と化してガルバルをそこへ縛り付けた。


「はっ!」

ガルバルが改めて視線を向けると、ジャスティス・ブレイクはゆっくりと体をねじり、右腕を後ろへと引いていく。まるで大型弩砲(バリスタ)が弦を引くように。


Max Power!!


背面各部のスラスターが一斉展開、最大加速のための光が灯る!

今やジャスティス・ブレイク全身は巨大な”審判の雷”だ!!


Call Command [Judgement Smasher]


『はぁ!? こーるこまんど!? まさかの音声入力!?』


Call Command [Judgement Smasher]


『今こうしてるだけでも、ものすごく恥ずかしいんだけど!?』


Call Command [Judgement Smasher]


『その上必殺技名まで声に出せと!?』


Call Command [Judgement Smasher]


『くそっ! ”はい”選ぶまで進まないゲームの選択肢かよ!!』


Call Command [Judgement Smasher]


『うがぁぁぁぁぁぁ!! ジャッジメントスマッシャァァァァァァァァ!!!!』


瞬間、バァァァンという破裂音を残し、ジャスティス・ブレイクは光になった。

ジャスティス・ブレイクの軌跡は、地面に轍としての残る疾走痕と残火のみが示していた。既に彼は、ガルバルの背後で、拳を振りぬいた姿勢で静止している。


「な、なに……」


ガルバルが呻く声を上げる。轍は、確かにガルバルを通過している。しかし、その体には、なんの貫通痕も無い。だが、その身の異常を示すように、全身を紫電が迸っていた。


「その力、一体、なんなのだ……」


そう言い残し、倒れるガルバル。直後、その体から大爆発が起こる。

爆炎を背に、ジャスティス・ブレイクは構えを解くと、全身のラインは赤から緑へと戻った。


その様子を、

セレスティアは、驚愕に目を見開いて見つめていた。

リアムは、羨望の眼差しで見つめていた。

ケンタは、完全に光を失った目で見つめていた。

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