6話:聖女?セレスティア
中野零士ことレイジは、居心地の悪い数日間を過ごしていた。
村人たちは、レイジの扱いに困惑していた。
村を救った英雄(?)であることは間違いない。だが、明らかなよそ者で、服装も浮いている。
(声を大にして言いたい……!)
「だって、『正体を知られるべからず』なんだよ!!」
説明できるならしてやりたい。だが、自分だって何が何やらよく分かっていない。
ヒロイックシステム三か条とやらのペナルティが分からない以上、めったなことは言えない。そもそもペナルティがあるのかもわからない。あれだけ細かく注釈をつけるなら、ペナルティぐらい書いておけよと何度も思ったことか……。
そんな状態で、村人たちに問われても明確に答えることができず、返せるものといえば愛想笑いくらい。
魔物を全滅させた謎の人物と、同時に現れた見慣れぬ風体のよそ者。明らかに同一人物なのに、愛想笑いでごまかすばかり。
怪しさしかないこんな人物を怪しまない奴はいない。そんな人がいたら見てみたい。
「結局、村を救ったという黒衣の人物は、どこへ行ったのだろうか……」
先を歩きながら、リアムが零した。
居た。ここに一人居た。
「さ、さぁ」
そう発言したレイジの横で、ケンタがすごい表情でガン見してくるので、レイジは視線で「こっち見んな」と返す。
リアムが調査のために旅立つに際し、同行者としてレイジを希望した。
村人はそれを絶賛し、非常に居心地が悪かったレイジもその提案に飛びついた。
ただ、レイジにとっては、それだけが理由ではなかった。
旅の話を聞いた瞬間、レイジのこめかみにチクチクとした刺激が走った。
何かが「リアムに同行しろ」と告げているような、明確な“勘”が働いたのだ。
「で、まずはどこへ向かうんだ?」
ケンタがリアムに声をかける。
リアムの中には既に目的地があり、そこを目指して歩いているように見えたからだ。
「あぁ、聖女の噂を聞いたんだ」
「聖女?」
ふと、ケンタの表情が曇る。
彼は「正史」でも聖女の存在をよく知っている。いや、体験している。
そう、「正史」でも、勇者リアムは聖女の存在を求め、彼女の元を訪れている。
そこで勇者が見たのは、魔物の死骸の山と、大量の真新しい墓だった。
村人たちは、村を守るために死力を尽くして戦ったのだろう。結果、僅かながらの女子供を護り切った。その代償は、村の男衆の全滅だった。
珍しい話ではないのだ。「正史」でリアムの村を襲った魔物は、その後も人間領域に分散し、次々と村を襲っていた。ここもその一つに過ぎない。
聖女セレスティアは、血と泥に汚れ、それでも生き残った人たちを癒し、そして、救えなかった者たちを埋葬していた。
だが、男手がなければ村は続けられない。リアムは生き残りを連れ、大きな街へと避難した。
──私も、貴方の旅に同行させてください。悲劇を少しでも減らせるなら、私の力を使ってください
思惟に沈み、暗い表情を浮かべるケンタの様子を気にしたのか、努めて明るい声でリアムは続けた。
「聖女は、清廉で慈悲深く、」
「……、うん」
「優れた回復魔法の使い手で、」
「あ~」
「動物にも優しく、」
「へぇ~」
「……動物になった人にも優しく、」
「ふ~ん……ん?」
「髪色を変えてしまっても、変わらずにこやかで」
「変えちゃった?」
「ちょっと変わっているけど、とてもすごい人らしいんだ」
「いや、それちょっとじゃないよ!? 大丈夫、リアム? 誤情報掴まされてない? すごさの基準、間違ってないか!?」
********
リアム、ケンタ、レイジの3人は、聖女セレスティアが居るという「ドーンライト村」へとやってきた。
そこで彼らは、現実は非情であることを思い知った。噂は噂に過ぎないのだと……。
「あ、どうも」
覇気のない挨拶をし、村人がすれ違う。彼の髪型は、ソテツのように全て逆立っていた。
「……」
鍬を担ぎ、無言で畑に向かう村人の顔は、赤白青3色のストライプだった。
「ココココココ、コケェェェェェェェ!!」
「こら、待ちなさい!」
ニワトリのような鳴き声をあげ、両手で羽ばたきながら逃げる男性を、しゃべるニワトリが追いかけている。
「「「「にゃーん」」」」
猫の鳴き声を上げる女性の集団が通過していった。
「噂の頭上を軽々超えてきたよ! K点越えだよ完全に!」
ケンタのツッコミは、村の喧騒にかき消された。
「あぁ~、こういうことたまにあったよ。あれは、5徹した後だったっけな、となりの席の山下が遠吠えを始めて──」
「混沌に悲惨さをトッピングするな社畜!」
「すごいな聖女の力は、こんなにぎやかな村は見たことが無いな!」
「ボケ倒すのも大概にしろよ!!」
もはや、ケンタのツッコミが追い付かない状況である。
「あぁ、すみません! 今おろしますから!!」
鈴を転がすような、美しい声が響く。
サラリとした銀髪、透き通るような白い肌。純白のローブを羽織り、華やかながら清楚な美貌の女性が──
毛髪をヘリコプターのように回転させて飛ぶ男性を追いかけていた。
「シュールな絵面すぎだろ!!」
リアム達は、荒れ狂う村人たちの捕獲を手伝い、なんとか全員を無事”元通り”に戻した。
「お手伝いいただいてありがとうございました」
銀髪の女性が頭を下げる。サラリと流れる髪はキラキラと輝き、まるで金糸の川のようだ。
顔を上げた彼女には、誰もが見惚れるような笑顔が浮かんでいた。
「私、たまに少し失敗してしまうんです」
「いや、少しじゃないからね? 結構な大失敗だったよ、アレは」
彼女は顎に軽く指を当てて、可愛らしい仕草で続ける。
「今日は村の皆さん全員がお疲れだったので、エリア回復を使ったんです。ちょっと大変でしたけど、いつもは一人ずつですから、こんなに大変ではないですよ?」
「いつもやってんのかよ!!」