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元ブラック社畜は、異世界でヴィランの彼女と最強の正義を成す  作者: はとむぎ
第1章 流されヒーローとツッコミ転生
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5話:いずれ勇者となる者の旅立ち

零士は、小さく息を吐いた。


最初にお腹を殴った魔物は背中が爆散し、次に頬を殴ったら空飛ぶヒトデになった。


その後も数多くの“被験体”があったため、ちょうどいい塩梅の手加減を模索した。

狼の胴体を真っ二つにしたり、オークの首を吹き飛ばしたり、ゴブリンを首まで埋めたりといった失敗もあったが、後半は手応えがあった。


少なくとも、血煙も上がらず、ひき肉にもならなかったのだから。



一通り片付け終わり、「ふぅ」と一息ついていると、零士の纏う全身装甲から、白い蒸気が噴き出した。どうやら冷却機能が働いているようだ。


<敵性存在の殲滅を確認>

<外骨格解除可能 外骨格を解除しますか? [ Y / N ]>


『あー、やっとか』


なんでこの表示は日本語なんだろうな? ローカライズが中途半端だなぁ。という答えの無い疑問を浮かべつつ、やっとこの格好から解放されると安堵の声が出た。


とりあえず「YES」をイメージする。が、ブザーが鳴り、インジケータが赤に染まる。


<ヒロイックシステム違反>

<三か条に違反しています。外骨格を解除できません>


意味が分からず零士は一瞬呆然とした。


ヒロイックシステム?

三か条?


その疑問を持った時、インジケータに新たな表示がなされた。



<ヒロイックシステム三か条>

一つ、戦うときは変身すべし!(※1 正体を知られるべからず(※2

一つ、人々を護り(※3、敵の攻撃をその身に受けよ(※4

一つ、三分間は互角の戦いをせよ(※5



『はぁ!? なに!? どういうことだよ!?』


悪ふざけとしか思えない情報の開示に、零士は思わず声を荒げた。

「三か条」の下には、小さな文字で大量の“注釈”が並んでいる。



※1)生身では攻撃能力がありません。必ず変身して戦ってください。なお、万が一、命を落とすことがあってはいけませんので、生身でも生命維持能力は全開です

※2)ヒーローとは人々に愛されますが"孤独"です。人気者に憧れる気持ちはわかりますが、プライベートは大切です。正体は隠しましょう。

ただし、親密度1750ラヴ以上、又は、利害一致度80%以上の相手は例外です。秘密の共有は良いスパイスになります。

※3)ヒーローとは護る者です、人々が助けを求める声、人々の危機が直感として届きます。特にヒロインの危機には敏感です。

(ヒロイックシステム ヒーロー勘エクステンション)

※4)ヒーローとは護る者です、当然専守防衛です。攻めの姿勢(先制攻撃)はご法度です。

※5)尺を──焦らずに相手を見極めましょう。それが倒すべき"敵"であるならば容赦は不要です。全力で殲滅しましょう。



──小さい字で大量の注釈が付いてるじゃねぇか! 怪しい契約書かよ!


再び声を荒げそうになる零士だったが、「正体を知られるべからず」の文言を思い出し、グッと堪えた。

ツッコミどころが満載である。


そもそも、三か条と言いながら、注釈が5つもあるのはいいのかとか、

親密度1750ラヴって、ラブってなんだよ、どういう単位だよとか、

利害一致度80%以上って、定量的に測れるもんじゃねぇだろとか、

「尺を」って言いかけてるじゃねぇかよとか、


つまり、「正体を知られるべからず」なので、周囲の目があるここでは変身が解けない、という警告であると零士は理解した。


だがしかし、先ほど魔物の群れを倒した時、「三分間は互角の戦い」などしていない。

ともすれば、ほとんどの相手を瞬殺していた。


<戦闘員は対象外です>


あれら魔物の群れは、「戦闘員」扱いであるらしい。

ならば、それも注釈に書けと言いたいところではあるが、零士はグッと堪え、人目を避けられそうな場所を探した。


やや遠くに水車小屋のようなものがあるのが見え、その陰で零士は無事変身を解除できた。


「ふぅ」


変身を解けたのは良い。が、以前として大きな問題が残されている。


「……、ここどこだよ」


水車小屋に背を預けてしゃがみ、空を見上げながら零士は呟いた。



********



「ぶはぁっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」


ケンタは息を荒くし、目を覚ました。

今でもたまに夢に見るのだ。”走馬灯”で見た光景を。


村を襲う魔物の群れ、村長始め、戦える大人たちが立ち向かう。リアムは、希望を託され、逃がされる。

村は蹂躙され、焼かれ、血と肉と炎の中に消えていく。

一人生き残ったリアムは、深い悲しみと憎悪を胸に、魔物へのそして、その王への復讐を誓い、孤独な旅に出る。


ケンタは体を起こし、ベッドの横にある窓から外を見る。

夜明け前の静かな村の様子が見えた。


炎に消えるはずだった村は、今日も平和である。


「……、まだ寝れるな」


二度寝した。




翌朝。


「リアムよ、くれぐれも気を付けて行くのじゃぞ」

「村長は心配性だなぁ」


村長は村唯一の剣と路銀の入った革袋をリアムに渡しながら、何度目かになる心配を口にする。


「彼らも一緒だから大丈夫さ」


リアムは、背後に立つケンタとレイジに目を向けた。


村長は、ケンタとレイジに胡乱な目を向けている。

心外な! とケンタは内心憤る。

レイジの”うさん臭さ”に比べれば、自分がどれだけ素性のはっきりした人材であるか!


魔物の襲撃の後、スーツ姿の不審人物は”レイジ”と名乗った。

魔物を倒した人ですよね?との問いに、レイジはひたすら”すっとぼけ”続け、村人たちも、「あぁ、そういう人か」という感じで、追及を諦めた。

むやみに腰が低く、常に愛想笑いを浮かべているレイジに、村人たちも受け入れはしないが拒みもしないと、微妙な距離感のまま数日が経過したのだ。


そして、後の勇者ことリアムが、今回の異変調査のために旅立つことを決意。

その同行者としてリアムが指定したのが、レイジとケンタであった。



レイジの同行に、村人は諸手を挙げて賛同した。

「うさん臭さ」が爆発している男だが、村を救ってくれた恩人でもある。邪険にもできず、かといって全面的に受け入れることもできず、持て余していたのだ。


ケンタの同行に、村人は「なんで?」と疑問符を浮かべた。

武器も魔法もからっきし、性格も悪──「うっさいわ!」



「レイジ、旅立ちの前に、一つはっきりとさせておきたい」

「ん?」


ケンタは改まってレイジに問いかける。

「結局、あんた何者なんだ?」

「お、俺?」


一瞬の逡巡、そして”ひらめいた!”と言いたげな表情をレイジが浮かべ、

「ジャパニーズビジネスマンだ!」

「いや、通じねぇよ? ここじゃ通じねぇからね?」


てへぺろ的な表情のレイジに、ケンタの心には「イラッ」という音が響いた。




「さぁ、出発だ!」


リアムが高らかに宣言する。


こうして、後に勇者となるリアム、ジャパニーズビジネスマン(自称)のレイジ、そしてツッコミ役のケンタによる旅が始まった。


「まともなメンバーが3分の1しか居ねぇよ!」


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