表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/46

45話:ゼノン

直径3cmの球体に封じられた“終末演算機 ヨグ・ソトース”。

その球体が地面に落ち、ころりと転がった瞬間、周囲の異空間が消滅した。リアムたちは、辺境都市サザンの外れに放り出される。


「勝ったのか……?」

グレッグが周囲を見渡しながら呟く。そんな中、セレスティアが叫んだ。


「リアム様、聖剣が!」

セレスティアの横にいるリアムの手にある聖剣は光を失い、風の前の砂のようにさらさらと崩れ落ちていく。


「役目を終えた、ということなんだと思う……」

聖剣の最後を看取りつつ、リアムが呟く。


魔王と、そして聖剣が滅びる。それは”聖剣と魔王システム”の終焉を意味していた。




異空間での戦いの痕跡は何も残っていない。ただ一つ、”終末演算機”を封じた球体以外は……。


グランド・ジャスティス・ゼロがその球体を拾い上げようとした瞬間、世界が白一色に変わった。

空も地も無く、すべてが白一色。その空間に、グランド・ジャスティス・ゼロことレイジと、ルナの二人だけが居た。


この場所には覚えがあった。


『ここは──』

「やぁやぁ、よくやってくれたね」

レイジが声の方へ視線を向けると、グレイ型宇宙人の姿が……。


『てめぇゼノン! とりあえず一発殴らせろ!』

レイジはグランド・ジャスティス・ゼロでゼノンに向けて突進する。


「いやいやいやいや、ちょっとまって、ソレで殴られるのはさすがに痛い!!」

が、ゼノンは器用に逃げ回る。


『テキトーな仕事しやがって、お前のせいで、ルナがどれだけ大変な目にあったか!!』

「ただのくたびれた社畜だった君が、ヒロインを護るヒーローみたいに……、成長したねぇ」

憤るレイジの発言に、ゼノンはホロリと目頭を熱くしたようなそぶりで茶化す。


『どこ目線だよ! 腹立った。二発殴る!』

更に速度を上げてゼノンを追い回すグランド・ジャスティス・ゼロ。既に二人は2本の光の軌跡となり、白い空間内を縦横無尽に飛び回っている。


『ヒロイックシステムとか、最終フォームとか、ふざけやがって! こんなん最初から使えたら、管理者やら演算機やら余裕だったじゃねぇか!!』

至極もっともで、しかしながら、ヒーロー番組的には禁句ともいうべきクレームをつけるレイジ。


「何を言う! 君の持つ正義核(ジャスティスコア)は、愛と正義と勇気を力に変えるんだ! 君が真に愛と正義と勇気に目覚めたからこそ、最終フォームを稼働できるだけのエネルギーを生み出せたんだぜ!!」

逃げ回りながらゼノンは熱弁する。


『なんで動力源が”愛と正義と勇気”なんだよ! もっとなんかあるだろ! 使いやすい動力源!!』

「馬鹿にしないでもらおうか!!」

逃げるのを止め、ゼノンが憤慨したように告げる。その剣幕に、一瞬レイジも怯み、追い回すのを止めた。


「“愛と正義と勇気”を動力にするためにどれだけ苦労したか! 高次の源泉(ソース)にアクセスするために、“愛専用”と“正義専用”、“勇気専用”の三本のパイプラインを構築して、それぞれを意識と紐づけした上で、三本が競合しないようにバランスを細かく調整しているんだ! ただ漫然と源泉(ソース)にアクセスする色気のないパイプラインとはわけが違うんだ! ぐへぇぇ!!」

グランド・ジャスティス・ゼロの鉄拳がゼノンの脳天に炸裂する。


『詳細はわからんが、技術の無駄遣いをして、高性能で”無意味な”制御機能を盛り込んだニュアンスは理解した』



「ぐふぅ、酷いなぁ。君らが頑張ったから、一応ご褒美でもあげようかと思ってやってきた僕に対して……」

『”一応”のあたりに”素”が出てんだよ……』

もう一発殴ってやろうかと一旦は握り拳をつくるレイジだが、”ご褒美”の要望を思いついたためにその手を引っ込めた。


『ご褒美をくれるっていうなら、ルナを元の体に戻して、地球へ帰してあげてほしい』

『え?』

レイジが告げた願いに、ルナの心は揺れる。

それは、ゼノンにより異世界へ送り込まれたあの日から、ずっと焦がれ願ってきたもの。


「あ、無理、元の体はひき肉だったから、焼却処分したし」

「エェェェェ……」

想定を超える無神経な発言に、レイジとルナは揃って一瞬思考が停止した。いや、そもそも存在の次元が違いすぎるため、ゼノンに地球人を慮る(おもんばかる)という発想が根本から無い。つまり言葉は交わせても永遠に分かり合えない間柄なわけだが……。


一瞬の後、二人の思考が復活。

レイジは、『三発殴る』とゼノンを再び追い回し、ルナは『スタイル気にして、せっかく甘い物控えてたのに……、こんなことならたらふく食べとくんだった……』と後悔した。



体は戻せないらしい。が、ゼノンは「帰れない」とは言っていない。つまり、帰ること自体はできるということである。

半ば諦めていた”地球に帰る”という選択肢が突然沸いたのである。

体だって、”変身”をしなければ、普通の人間として生活だってできるかもしれない。

元の生活に戻ることもできるかもしれない。

そうだ、終末演算機を止めたことで、妹の病気が癒えるはず、その姿を、直接見れるかもしれない!


そこまで思考し、ルナは終末演算機と繋がった際に得た情報を思い出す。


──この世界は、悪意とそれを顕在化する”魔法”の存在により、ゆるやかに崩壊に向かう


この世界で”闇”を収集し、崩壊を”延命”していた”聖剣と魔王システム”は消滅した。

つまり、もはや崩壊を止めるモノはないということになる。


『ねぇ、この世界は、崩壊するの?』

「うん?」

ルナに問われたゼノンは、レイジに追われながら手元で何かを操作し、内容を精査して「ふむふむ」と呟く。そして、


「そうだね、崩壊するね」

殊更明るく告げた。


『だからお前は!!』

レイジは『四発殴る!』と更に追う速度を上げ、「何発まで増えるかな?」とゼノンは愉快そうに逃げ回る。


『なんとか、救えない?』

ルナの問いかけに、ゼノンは逃げ回りながら逡巡し、


「君らがヒーロー活動したら?」

あっけらかんと言い放った。



『はぁ!?』

「悪意という”闇”が”魔法”という手段を持って世界を滅ぼすなら、悪意をくじき、闇を祓う者が居ればいいんだよ。君らの攻撃、この世界の”闇”を消し去ってたろ? つまり、”この世界にはヒーローが必要だ!”ってことだよ」

魔王城に出現した”管理者”との闘いにおいて、ジャスティス・ブレイクとレジリエンス・キラーは”闇”の塊を消し去っていた。散らしたのでもなく、消したのだ。

つまり、彼らの力は、この世界の”闇”を直接的に消すことができるのだ。


皮肉なものである。”管理者”は世界の崩壊を防ぐためにひたすら”闇”を収集し、”聖剣と魔王システム”、つまりは”闇を消去するシステム”の維持に執心した。

その結果、”闇”収集の邪魔者であるジャスティス・ブレイクとレジリエンス・キラーを必死に排除しようとした。二人の力もまた、”闇”を消せるというのに……。

”管理者”はその成り立ち故に、”システム”が無い世界というものを想定できない、哀れな存在であった。


『そうか……、俺たちの力で、この世界を救えるのか……、って、なるかー! ちょっとカッコよく言ってるけど、要するに俺たちに”人柱”になれって言ってるんだろ? ゆるさん、十発殴る!』

レイジは更に速度を増し、ゼノンの追いかける。


「いやいやいやいや! そんな一人や二人で世界を何とかするなんていう、欠陥システムを僕は作らないよ! 意思を受け継ぐんだ!」

真面目に焦った声でゼノンが叫ぶ。顔面に直撃する寸前だったグランド・ジャスティス・ゼロの「ジャッジメントスマッシャー」は、ギリギリで寸止めされた。


「だいたい、君らにも寿命が設定されてるからね、普通の地球人よりは長く生きるだろうけど、それでもいつかは稼働停止するんだよ!!」

言いつつゼノンは「永遠に動くサイボーグには碌なことが無いからね……」と遠い目をしている。どうやら過去に何か”やらかした”ようだ。


レイジとルナも、『あ、一応いつか寿命くるんだ……』と変に感心している。安心したような、ちょっと残念なような、何ともいえない気分だ。


『意思を継ぐって、どうやって?』

ルナがもっともな疑問を投げかけると、ゼノンは本日最大の衝撃発言をぶっ放す。



「もちろん、子作りだよ? 心配ない。ちゃんと機能はついてるから!」

そう言って、ゼノンは指で卑猥な動きを表現する。


レイジは『両腕へし折ってから二十発殴る!』と言って再び追いかける。

ルナは意外にも顔を上気させ、俯いている。


「あれ!? なんか違った!? だって君らそういう関係だろ!?」

『そういうところだぞお前!!』




ボッコボコになったゼノンが「ぐふぅ」と呻きを上げた。

かと思えば、あっという間に復活するゼノン。


「ヒーローたちよ! この地に生き、子を産み育て、そして意思を継ぐ者たちに力を受け継いでいくのだ。さすれば、世界の安寧は保たれるであろう」

どういう原理かゼノンは宙に浮かび、レイジとルナに手をかざし、まるで予言者のように声高に宣言した。


『何をイイ感じに締めようとしてんだよ。それに、ルナは帰りたいんだよ』

『……』

そんな空気に今更騙されないレイジは冷静にツッコミを入れ、ルナは無言で考え込んでいる。


「ふーん、ま、別にヒーローの(つがい)じゃなくても、現地のメス適当に孕ませてもOKだよ!」

再びボッコボコになるゼノン。



『レイジは、私に帰ってほしい?』

『え……』

ルナの言葉に、レイジの胸はズキリと痛む。


『この世界の女の子たちは可愛いからね……、セレスティアさんとかエリシアさん、かわいいよね……』

『え、いや……、とりあえず、その二人は無いかな……』

『……、あ、うん、まぁ、あの二人はちょっとアレだったかもだけど……』

自分で言いながら、ルナは微妙な表情になる。

セレスティアは技術面にいろいろと難があり、

エリシアは性格面にかなり難がある。

レイジも同じことを思っていたのか、なんとも渋い表情だ。



『でも、妹さんが──』

言いかけて、自身を見つめるルナの視線に、レイジは閉口した。そういうことではないのだ。都合や理由ではなく、ルナはレイジの気持ちを聞いている。


『俺は……』

レイジの脳裏にルナとの思い出が浮かぶ。


最初に見た、諦観に塗れたルナの顔。過去の自分と重ね、助けたいと思った。それが最初だった。

時折見せる疲れたような笑顔に胸が締め付けられた。

それが今は、とてもいい笑顔を見せてくれるようになった。

そんな笑顔を、もっと見たい。離れたくない。


グランド・ジャスティス・ゼロは解除され、レイジの姿に戻る。

それに応えるように、レジリエンス・キラーもルナの姿に戻る。


「俺は、こんなに誰かを求めたのは、初めてなんだ……。俺と一緒に居てほしい、一緒に生きたい」

「……、仕方ないなぁレイジは。そんなに好きなら、このルナさんが一緒に居てあげよう」

ゆっくりとレイジを抱き寄せ、ルナは耳元でささやくように告げた。


「ルナ……」

レイジもルナの背に手を回し、抱きしめる力を強めた。


そんな様子を遠巻きにしながら、ゼノンはこっそりと演算機を回収しつつ去っていく。


「!? あいつ! 逃げやがった」

「いいよ、変に何か介入されたら、また”トンでもない”ことになりそうだし」

「……、まぁ、そうかもしれないけど」


二人を残し、真っ白の空間は晴れ、気が付けば辺境都市サザンへと二人は戻っていた。



「気が付けばイチャコラしやがって! キィィィィィィッ!!」

抱き合う二人を目撃したケンタがハンカチを加えながら吠えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ