38話:管理者
その世界は滅びに瀕していた。
その世界には、人の”心”が”意思”が、直接的に外部へ影響を及ぼす事象が存在したためだ。
その事象の名は、”魔法”と呼ばれていた。
傲慢、嫉妬、強欲、羨望……、数々の邪なる意思が魔法に乗り、世界に”闇”を堆積させていく。
”闇”は更なる”闇”を生み、悪意のらせんにより世界は混沌のるつぼに陥っていた。
その“存在”は、偶然、たまたまに、それこそ完全なる乱数、宇宙線が地球に降り注ぐかのように、何の脈絡もなくこの世界に通りかかった。
その“存在”は、自称“次元のトリマー”である“ゼノン”と同等の存在であった。
その”存在”は、宇宙が一つ滅びようが、二つ滅びようが、特に気にはしない。
しかし、その時は”気が向いた”のか、あるいは”いい実験場”とでも思ったのか、この世界の”闇”を集め祓う仕組みとして、”聖剣と魔王”のシステムを組み上げ、そして、満足して去っていった。
”管理者”は、”聖剣と魔王”のシステムを管理・運営するためにいる。
結局のところ、システムは世界を延命したに過ぎず、祓いきれない”闇”により、世界は緩やかに”終末”へと向かっている。
それでも、システムが設置されてから数千年。”管理者”は一応問題なく、このシステムを運用してきた。
それがここにきて、均衡が一気に崩れた。
一見、システムは正常稼働しているのに、世界は急速に”終末”を迎えつつあった。
”管理者”は非常用権限を行使し、強制的に”闇”を集め、聖剣に祓わせるために”介入”を行った。
しかし、事態は好転どころか、悪化の一途をたどる。
”管理者”は混乱した。管理上の対策、対応が全く役に立たないからだ。
システムの管理・運営が役割である”管理者”は、イレギュラーな事態に弱かった。しかし、改善しないなら事態を更に分析し、新たなる対策を立てたであろう。そう、”管理者”が正常稼働していれば。
──闇ガ足リナイ
──闇ヲ集メル
──モット闇ヲ
異空間にて、暗く、黒く、巨大な姿をした“管理者”が、誰に聞かれるでもない独り言を呟いている。
背後から、赤紫の触手が自身を侵食していることには気づかずに……。
********
最後の四天王【滅界の覇王】グラトスは、静まり返った魔王城を一人歩く。この城に居るのは、自身と魔王だけになった。
自身以外の四天王は、”闇を集める器”としての役割を全うし、聖剣と勇者の糧となった。
魔王は、就任後に玉座に座し、そこから動くことは無い。それが魔王の役割だからだ。
だから今、この城の中を歩いているのは、グラトス一人である。
「次は私だな」
勇者は既に、最寄りの街まで来ているとの情報も得ている。
ここへ勇者が乗り込んでくれば、次はグラトスがその糧となる番だ。
グラトスは“システム”のことを知っていた。知った上で、その“役割”に従って動いてきた。
だから、何の疑問も持たず、“役割”を全うしようと考えていた。たびたび行われる異空間からの介入に、小さな違和感は覚えつつも……。
グラトスの目の前に突然、空間の裂け目が出現した。
暗く、黒く、巨大な何かが、こちらを覗き込んでいる。
──闇ガ
──闇ガ
──闇ガ
その何かが、繰り返し繰り返し呟く。
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
──闇
「なっ!?」
空間の亀裂から黒いヘドロのような何かが噴出し、グラトスを飲み込み、魔王城の城内を埋め尽くしていく。
魔王城の外にも、空間の亀裂が次々と出現する。
その全てから、黒いヘドロが飛び出し、亀裂がどんどんと広がっていく。
空間の亀裂と黒いヘドロは魔王城を中心として、魔の砂漠に広がっていく。
荒野の地面も、灼熱の空も、すべてが剥がれ落ち亀裂は広がる。
僅かに残った大地や空は、黒いヘドロで埋め尽くされる。
ついには、魔の砂漠の全てを飲み込み、黒と紫がまだらにまじりあう異空間が現出した。




