36話:レジリエンス・キラー
無事、聖剣の力を取り戻すことができたリアム達。
傷や疲れを癒すため、二日ほど長老宅に世話になった後、長老”一人”に見送られ、ドワーフヘイムを後にした。
なお、他のドワーフたちは、昼夜問わず霊脈の淵に入り浸っている。
「だから、ドワーフ自由すぎだろ!!」
閑散としたドワーフヘイムに、ケンタのツッコミが再びこだました。
「成り行きな部分もあったけど、僕らは聖剣を手に入れ、その力を取り戻すこともできた」
リアムは一同を見渡し、「僕は、魔王を倒す」と全員に向けて宣言した。
「魔王か、インターバルなしのドロップセットみてえなもんだ。その追い込みがたまらねぇ!」
グレッグは獰猛な笑みを浮かべ、よく分からない例えを出した。どうやら気持ちが高ぶっているらしい。
「私だって行きますよ! 回復は任せてください!」
セレスティアが杖を両手に、鼻息荒く応える。
意気込みすぎて、杖の先端がキリンに変わり、アワアワと慌てている。
「ま、ここまで来たら一連托生よね」
ヤレヤレといった雰囲気で、セレスティアの杖先端のキリンをつつきながらエリシアが言う。
「俺も行く、いや、行かせてくれ」
レイジは片手を胸に置きながら言う。
レイジの目的は”演算機”だ。しかし、その存在がどこにいるのか、正体が何なのか、今のところ分からない。
唯一の手掛かりは、リアムが聖剣を手にした際に見たという”管理者”と、”もう一体の異形”だ。
リアム達は、その異形が”演算機”なのではないか?と考えている。
これまで度々、リアム達もとい、聖剣と魔王軍の戦いに”管理者”が介入してきている。
ならば、今後もその戦いには、”管理者”の手が入ることは想像に難くない。
そしてその戦いには、”演算機”への手がかりがあるかもしれない。
レイジは、最後までリアムと共に歩む覚悟を決めていた。
「もちろんだ、心強いよ」
今までの流されるだけだったレイジとは異なり、決意を感じさせる様子に、リアムは笑顔で応える。
「もちろん俺も行くよ!」
続くように、ケンタが両手を挙げて宣言する。こちらはいつも通りの緩い雰囲気である。
「あ、うん、心強いよ」
やや苦笑いのリアムがケンタに応える。
「なんか気を使われてる感じがつらい!!」
「ごめん、その前に、ルナをエルフヘイムへ送りたいんだ」
ケンタの騒ぎを遮り、レイジが小さく手を挙げ、少し申し訳なさそうにリアムに告げた。
それまで沈黙を保っていたルナが、小さく「え?」と呟いたが、それ以外の全員は、「わかっている」といった表情で頷いていた。
「私も一緒に行くけど?」
ルナは少し不機嫌な様子で告げる。
そんな彼女に、レイジが言い募る。
「急にいなくなって、エルフヘイムの人たちが心配するんじゃ──」
「大体いつもふらっと出ていくから、いつものことだけど?」
「確実に戦いになるし──」
「私は助けを求めるお姫様でも、護られるヒロインでもないから、普通に戦えますけど?」
「残っているのはたぶん強敵ばかりだし──」
「一回勝ったくらいで私より強いつもり? 次は負けないけど? それとも何? 私に居てほしくないわけ?」
「いや、一緒に居たい」
「なっ……」
恥ずかしげもなく即答するレイジの答えに、問いかけたルナが赤面し恥じらう。
突然始まった痴話ゲンカに、
セレスティアは期待のまなざしで二人を見守り、
エリシアは相変わらずヤレヤレと肩をすくめ、
リアムとグレッグは生暖かい目で見守る。
なお、ケンタは「けっ!」と唾を吐いてやさぐれている。
「僕としては、ルナが力を貸してくれるなら、とても心強い。頼めるかな?」
リアムは場を納めるように述べ、ルナへと手を差し出した。
ルナは少し顔を逸らし、やや恥ずかし気な様子を見せつつ、
「ヒーローに借りばっかり作るのはシャクだからね」
その手を握った。
その時だった。
バリッ!!
彼らの間近で炸裂音が響き、空間の亀裂が出現する。
「いきなりかよ!」
ケンタの叫びに呼応したかのように、裂け目の中から、黒い粘着質のヘドロのような塊が産み落とされた。
ずるり、べちゃという音をたて、粘着質の塊が地面に落着する。
数瞬の後、そのヘドロが身じろぎし、中から何者かが身を起こした。
──ルゥアァァァァァァァ!!!!
「ドラゴンだと!?」
地球出身者なら、「ティラノサウルスか!?」と叫びたくなるような巨大なトカゲが、ヘドロの中から姿を現した。
その体高は10mを越え、尾の先までの全長は30m近くありそうだ。
さらに、全身からは黒い雷撃をほとばしらせている。四天王や先日のルナのように、明らかに”管理者”による強化が行われている。
だが、彼らはひるまない。
「皆、いくぞ!」
リアムが聖剣を抜き、構え、全員が「おう!」と応える。そんな中、
「まぁ、見ててよ。私がそこのヒーロー君より、戦えることを見せてあげるから」
ルナが一人、前へ出た。
Recharge Resilience Core...
ルナの全身に白い光のラインが走る。
Limit Break
その光は輝きを増した。
Release the Exoskeleton
彼女の四肢末端から、深紅の装甲が展開されていく。
クリムゾンレッドの装甲に覆われた全身に、白い光のラインが走る。
装甲には以前のようなとげとげしさは無く、女性らしい曲線を描く。背に触手も無い。が、感じる力強さは、ヴィランの頃よりも上だ。
『そうだね、せっかくだから、ジャスティス・ブレイク(笑)に合わせてあげるよ』
フェイスカバーのアイバイザーが白く光る。
『私のことは、”レジリエンス・キラー”とでも呼んでよ』
「ヴィランからの光堕ちダークヒーローキター!!」
一同があっけにとられる中、ケンタがいち早くテンション高めに復活した。
「れ、レジリエンス?」
レイジが戸惑いながら呟いたところ、インジケータさんが情報を開示してくれた。
レジリエンス・ヒロイックシステム三か条
一つ、戦うときは変身すべし!(※1 正体は一応隠すべし(※2
一つ、人々を護るためなら手段は選ばない。できることはなんでもする。敵が死ねば助かるだろ?(※3
一つ、残念、多段階変身は”光堕ち”で失いました(※4
※1)生身では攻撃能力がありません。必ず変身して戦ってください。なお、万が一、命を落とすことがあってはいけませんので、生身でも生命維持能力は全開です
※2)ヴィランが”絆”によって反転したのがダークヒーローです。既に正体バレバレです。そして人気者です。ファンは変身という予定調和を期待しています。
※3)いつでも変身は可能です。あらゆる手段で強者を退け、見下しましょう。先制攻撃も辞さない所存。
※4)ダークヒーローとは、悪を行う敵を、更なる凶悪によって蹂躙し、「ヒーローには借りがあるからな」と言いつつ善を行うツンデレです。最初から全力です。
演出を盛り上げる多段変身は廃止されました。ヒーローの噛ませ犬にならないように注意しましょう。
「レジリエンス・ヒロイックシステム……」
レイジは、深紅の背中を見つめながら、少し安心していた。
自身を”悪役”とうそぶいていた彼女の心を、少しだけでも前向きにできたのだと。
レジリエンス・キラーは地面を割りながら瞬間的に加速、一瞬にしてドラゴンに肉薄した彼女は、真下からドラゴンの顎を蹴り上げた。
──ぐぎゃぁぁ!!
呻きながら頭部を打ち上げられるドラゴン。その頭上、既にレジリエンス・キラーはそこへ移動していた。
かかと落としを見舞い、今度はドラゴンは地面に叩きつけられた。
『うーん、あんまり相手にならないね』
そう言いながら、レジリエンス・キラーはバク宙して距離を取る。
『慣らしついでに、デカいのも一発いっとこうかな』
そう告げると、レジリエンス・キラーの全身から白いエネルギーが噴き出した。
Resilience Core Overdirve...
Shoots restraints!!
背中から白いブーメラン状のパーツを10個射出した。
ブーメランはそれ自体からパルス状の推力を放出しつつ加速、一気にドラゴンへと突き刺さり、地面へと張り付けにした。
Max Power!!
レジリエンス・キラーの右足にエネルギーが集中する。
『エリミネートインパクト!』
レジリエンス・キラーが左足を軸にくるりと回転し、回し蹴りを放つように右足をドラゴンへ向けた瞬間、光となって消えた。
ドォンッという衝撃だけを残し、その姿はドラゴンの背後へと移動していた。彼女の軌跡は、地面に残る轍と残火のみが示している。
──ご、ごあぁ……
ドラゴンの体が大爆発を起こし、跡形もなく消滅した。




