35話:ドワーフヘイムの夜
ジャスティス・ブレイク、いや、レイジにエネルギーを注がれたことで、ルナの核は光を取り戻し、体が急速に再生されていく。
そう、”裸”のルナが再生されていくのだ。
「……」
ルナは無言だ。
レイジからエネルギー供給を受けて回復してもらっている手前、逃げるわけにもいかない。彼女は内心で密に、ここで全裸を晒す覚悟を決める。
だが、恥ずかしいものは恥ずかしい。羞恥から顔を赤らめるのも無理からぬことである。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんな中、なぜか悲鳴を上げたのはセレスティアだった。
「ちょ、まっ! ぐぇっ」
彼女は両手でレイジの目を隠すと、ゴキゴキと首をゆすった。
そのあまりの力に、ジャスティス・ブレイクの首がもげて取れそうになる。
「アンタたちも見るな!!」
エリシアが高速詠唱で石礫を発射。ケンタの両眼にメガヒットした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ケンタは両眼を抑えてのたうち回る。
リアムとグレッグは危険を直感し、即座に後ろを向いた。
「……」
長老は、長い眉で視線が隠れており、何処を見ているかわからない。が、明らかに鼻息が荒い。
無言のエリシアが、魔術で長老の頭上に大量の水を生成し、頭上からぶっかけた。
水が流れ落ちた後、そこには重量で押しつぶされ、まるで潰れたカエルのように水浸しでヒクヒクと痙攣する長老の姿があった。
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霊脈の淵は、戦いの余波によりすっかり地形が変わってしまった。
これまでは薄暗い谷底だった場所が、谷が大きく削り取られたため、明るい窪地へと変貌している。
幸い、ドワーフヘイムとは距離があったため彼らの住居への影響はなく、それどころか、戦闘の熱で溶け残った鉱石類が霊脈の淵周辺に大量に散乱しており、当面は採取が捗ると、ドワーフたちには好評を博したほどである。
これまで死ぬほど不人気だった霊脈の淵に、多数のドワーフたちが訪れる姿を見て、長老はなんともいえない複雑な表情であった。
リアム達は、ここまでの旅と、今回の激しい戦闘による疲れを癒すため、ドワーフヘイムで宿をとることにした。
が、ドワーフたちは総出で鉱石拾いに出かけており、宿どころか、ドワーフヘイム全体が無人であった。
「ドワーフ自由だな!!」
閑散としたドワーフヘイムに、ケンタのツッコミがこだまする。
仕方なく、長老宅で世話になることとなった。
実は長老も鉱石拾いに行きたくてウズウズしていたのだが、”長老”という立場上、客人のリアム達を無下にはできず、下唇を噛んで悔しそうにしていた。
ただ、長老宅にもそれほど多くの部屋があるわけでもないため、結局また全員で雑魚寝である。
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これは夢うつつ。
沈む意識の先に、宿の一室が映し出される。
ドワーフヘイムの宿屋。
リアムはベッドに腰掛け、聖剣をゆっくりと鞘から引き抜いた。ほのかな青白い光が暗い室内を照らす。
自分は、この光を温かく感じ、力を与えられるような感覚がある。
だが、闇に堕ちてしまったセレスティア。アザゼルは、この光で負傷し、酷く嫌がっていた。それこそ、リアム達の前から逃げ出すほどに……。
まだ、自分には力が足りなかった。
だから、聖剣を手に、彼女を救うつもりだった。
しかし、それももう、手遅れになってしまった……。
コンコン
ノックの音に、リアムは聖剣を再び鞘に納めてベッドわきに置き、扉を開けた。
そこには、エリシアが居た。
『中、入っていい?』
断る理由もない。リアムはエリシアを中へと招き入れた。
簡素な宿の部屋に、気の利いた椅子なども無い。二人は30cmほどの距離を明け、ベッドに腰掛けた。
『どうかしたのかい?』
リアムは今の気分とは裏腹に、努めて明るく問いかける。
『うん、リアムが大丈夫かなと思ってね』
エリシアが俯きながら言う。
『僕は……、大丈夫だよ』
大丈夫で無かろうと、進むしかないのだ。聖剣を持つ者、光の勇者となったのであれば、止まれない。
『ほら、彼の、グレッグの時、優しい言葉をかけてくれたでしょ?』
エリシアの言葉に、リアムはエルフヘイムでのことを思い出す。
魔王軍四天王、【集蝕者】アビスにより体を改造され、半魔獣と化してしまったグレッグ。
彼を救うことはできず、リアムたちは涙を堪えつつ、グレッグを倒した。
筋肉バカで空気が読めないグレッグ。しかし、そんな彼を、エリシアは憎からず想っていたのだ。
戦いの際、敵に真っ先に斬り込むのは意外にもリアムであった。
そして、グレッグはそんなリアムをフォローするように、後衛であるセレスティアやエリシアを護る位置取りしていた。
中でも、僧侶系のように防御魔法が無く、もっとも防御力が低いエリシアは、頻繁にグレッグに庇われていた。
加えて、彼女が実は”隠れ筋肉フェチ”であったことも、無関係ではないだろう。
グレッグを打ち倒し、そして、生き残りのエルフたちからエルフヘイム炎上の責で追放されたのち、取り乱すエリシアを宥めつつ、リアムとセレスティアは”静謐なる森”を抜けたのだ。
『あの時は、たくさん迷惑もかけたから……。だから、こんどは私の番』
エリシアがそっと、リアムの手に重ねる。
『エリシア、傷のなめ合いになるだけだよ』
『凍えてた心を、温め合うくらいはできるわ……』
ゆっくりと二人の影が重なり、そして──
「う、さぶっ!」
ケンタは寒さで目を覚ました。
周囲が岩場だらけのドワーフヘイムは夜冷える。なので、全員に毛布が渡されていたはずなのに、ケンタの分が無い。
見れば、セレスティアが5枚分の毛布にくるまり饅頭のようになっている。
ケンタ、リアム、グレッグ、レイジと、見事に男性陣の毛布だけを接収したセレスティア。実に器用な寝相である。
なお、グレッグは持ち前の筋肉で寒さに強く、レイジはそもそも寒さを感じておらず、リアムには当のセレスティアが寄り添っているため、寒くないようだ。
「なによこれ! 俺は心まで寒いってか!?」
ツッコミつつ、ケンタは打ちひしがれる。
「というか、今回のは悪夢じゃないのに! なぜそこで目覚めるんだ! そこからがいいところだろうが!」
「え? 自分の記憶だから先は知ってるだろうって? そうじゃない! お前ら! 見たことのある“その手のビデオ”だったとしても、改めて見れば“盛り上がる”だろ!? 見たことあるからって、記憶で“盛り上がり”はしないだろ!? そういうことだよ!!」
「うるさい!! 猥談なら外で一人でしてこい!」
エリシアの放つ高速の飛礫が脳天をぶち抜いた。
ケンタは、外にリスポーンした。




