33話:レイジの意思
最初はとにかく戸惑いだった。
そもそも彼は、この世界に未だに馴染めていない。
いきなりの改造から、転移。
魔物相手にヒーローやって、何やら勇者の旅に巻き込まれたのだ。
リアム達との旅で、少しずつだが、心の整理がつきつつあった。
整理がついてくると、夜逃げした会社バカ野郎。今更ながらに、警察に通報しとくべきだったと気が付いたが、盛大に後の祭りである。
そんな中、いきなりヴィランと名乗る女性が現れ、蛇蝎のごとく嫌われた上に襲われた。
その場は何とかなったが、相変わらず嫌われているのは同じだった。戸惑うなという方が無理な話だ。
その次に気になったのは、自分以上に疲れた表情を見せる彼女の表情だった。
自身がデスマしてた時がどうであったか、客観的な様子に覚えが無い。というより、客観的に見る余裕はない。
だが、同僚が盛大にデスマをしていた時でも、あそこまで”追い詰められた顔”はしていなかった。
自分と、世の中と、世界と、ありとあらゆるものに絶望し、憎悪し、しかし、自分にはどうしようもなくて諦観している顔。
恐らく常に精神的に追い込まれ、ストレスで満足に睡眠もできていないのがわかる隈。
そんな彼女が、疲れた表情から、時折みせる悲しげな笑顔。
彼は胸を打たれ、目を離せなくなった。
これがシステムに仕向けられたものなのか、それとも自身の本心からの想いなのか、レイジには分からなかった。だが、今はそんなことはどうでもいい。
彼女の心が慟哭している。壊れるほどに限界だった心が、粗暴で不躾、無遠慮な外力に締め上げられ、砕けて消えそうになっているのが分かったからだ。
そう、これは怒りだ。
彼の想いが、彼女を苦しめる者から救えと燃え猛る。
搭載された”正義の核”が、”人を救え”と轟き叫ぶ。
二つが合わさり、ジャスティス・ブレイクの胸中は、熱く燃え滾っていた。
『ルナァァァァァァァァ!!』
『うるせぇ! 気安く呼ぶんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
空中で激突する赤と緑の光。
再び光の軌跡となった両者が、激しく激突する。
ジャスティス・ブレイクの全身は、先ほど以上に緑の光が強く輝いている。
『くっ! お前なんなんだ!!』
先ほどまでは貫けたはずの触手の一撃が、ジャスティス・ブレイクの装甲に弾かれる。明らかに頑丈さ、パワーが上がっていた。
『俺が君を止める!』
『キモイ! うるさい!!』
なおも激突する両者。すり鉢状に変貌した谷の地形に、更に数多のクレーター状の陥没が生成され、どんどん地形が破壊されていく。
『あぁぁぁぁぁぁ!!』
4本の触手がルナの右手周辺に集まり、触手先端と右手にエネルギーを集中させる。
『オラアァァァァァァァァァ!!!』
触手と右手に赤い輝きを帯びたヴィラン・ルナが、ジャスティス・ブレイクへ向けて飛翔する。その軌跡は、赤黒い光のらせんとなる。
『はぁぁぁぁぁぁ!!!』
ジャスティス・ブレイクの全身から、一段と強い緑の光が溢れる。
赤のらせんが、緑の光と衝突する。爆発と共に光が弾け、
『ぐぁっ!』
触手が4本とも砕け、右手の装甲が剥がれたルナが落下していく。
『くそっ、なんでパワーが上がってんだよ……』
背面のスラスターを噴射し、ルナは再び浮き上がる。見上げれば、ゆっくりとした速度でジャスティス・ブレイクが近づいてくる。
その姿は、「なんでも撃ってこい。全て受け止める」と言っているかのような、さながら横綱相撲の様相である。
『んだよ、くそが!』
ルナは歯を食いしばり、苛立ちを吐き出す。
彼女自身にも、どうしてこんなにイラつくのかわからない。とにかく、アイツに腹が立ち、何もかもぶつけてしまいたくて仕方がない。
きっとシステムのせいだ。自分が悪だから、善が憎くて仕方ないのだ。
Villainous Core Unlock Final Limitter...
『あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
更に赤く、濃密に黒いエネルギーを噴き上げるルナ。
Limit Break
突然、ルナの全身から装甲が剥がれて堕ちる。
元の人間体ルナが宙に浮かぶ。スラスターも焚いていないのに、彼女は落ちてこない。ただ、全身を覆う濃密なエネルギーが彼女をそこに留めていた。
Release the Ex-Exoskeleton
ルナの全身から、何本もの漆黒のトゲが噴出した。彼女の姿はもはや見えず、ただのトゲの塊と化している。
やがて、トゲが移動し寄り集まり、徐々に全身の装甲が露わになっていく。
トゲから形成されたためか、全身の装甲は鋭利さと凶暴さを示すように刺々しい形状だ。
バサリと風を切り、背には悪魔のような翼が羽ばたいていた。
両の肩に多くのトゲが集まると、本来の腕とは別に更に2組の腕が形成された。
トゲの固まりの中から現れた顔面は、般若のごとき憤怒の表情であった。
『ヴォオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!』
左右3対、6本の腕を振り上げ、鈍く低い声に変貌したヴィラン・ルナが、新生の咆哮を上げる。
『第三形態……』
ルナの変貌を目の当たりにし、ジャスティス・ブレイクは小さく呟く。
直後、ルナの背から”羽根”のような装甲の欠片が大量に放出される。その欠片たちは赤い軌跡を残しながら、不規則な軌道でジャスティス・ブレイクへと迫る。
『ガァァァァァァァ!!!』
更に正面からはヴィラン・ルナ自身もが突進してくる。
数十の”羽根”がジャスティス・ブレイクを襲う。
『しっ!!』
残像が見えるような速度で拳打の連撃を繰り出し、その羽根を次々と弾き飛ばす。しかし、いくつかはその拳打を掻い潜り、ジャスティス・ブレイクの装甲を穿ち削る。
『シャァァ!!』
そこへ、ルナが肉薄し、右側3連の拳打を繰り出す。
右手左手左足でそれらを捌こうとしたジャスティス・ブレイクだが、拳打の1つが咄嗟に軌道を変え、見誤ったジャスティス・ブレイクの左頬へ炸裂した。
バンッと破裂音を響かせつつ吹き飛ぶジャスティス・ブレイク。が、空中でスラスターを全開稼働させて踏みとどまる。
全身各部の装甲が損傷し、左顔面の装甲も剥がれ落ちていた。
追撃のように、再び数十の羽根がジャスティス・ブレイクへと殺到する。
『ぐぁっ!』
羽根の衝突をまともに受け、全身の装甲が更にはじけ飛び、手足が千切れそうな損傷を受ける。
──負けられない!
『絶対に救う!!』
胸の奥にある核が更に強く熱を帯びる。
全身から緑の光が噴出し、一瞬にして損傷と装甲を修復する。
『ウガァァァァァァ!!!』
背から大量の羽根を射出し、口からビームを吐きながら、ヴィラン・ルナはジャスティス・ブレイクに向かって飛翔する。
『オォォォォォォォォ!!』
ジャスティス・ブレイクは背から数百の光弾を撃ち放つ。
羽根と光弾が激突し、対消滅のように爆発する。
ルナの吐き出すビームを弾き飛ばしながら接近したジャスティス・ブレイクは、両手両足、計8本と壮絶に打ち合う。
再び、緑と赤の軌跡となった両者が、崩れかけた霊脈の淵上空で激突を繰り返す。
その間も、絶え間なく羽根と光弾の打ち合いは続けられ、空には二本の軌跡と、数多の花火のような爆発が乱れ咲く。
両者の力は拮抗していた。
いや、ジャスティス・ブレイクから吹き上がる光は弱まることを知らず、徐々にルナが押されていく。
『う、ウガァァァァ!!』
咆哮を上げ、がむしゃらに攻撃を繰り出したが、すべてを払い躱され、頬に拳打を食らって後ずさった。
バラバラと、左頬の装甲が剥がれ落ちる。
明らかな隙を見せるルナ。しかし、ジャスティス・ブレイクは追撃はせず、ルナの出方を待っている。
ギリッ
負けたくない、こいつにだけは。
ルナは奥歯を食いしばり、胸の奥に渦巻く嫌悪を燃やす。
『これで消し飛ばす!!』
Villainous Core Overdirve...
『受け止める!!』
Justice Core Overdirve...
両者の全身が強く光を放つ。
Max Power!!
ルナの六本の腕が胸の前で集まる。かざした六本の手のひらから、漆黒のエネルギー球が形成されていく。
ジャスティス・ブレイクが胸の前で両の手のひらを向かい合わせる。その中央に、白銀のエネルギー球が形成される。
Call Command
『サルヴェィションブリンガァァァァァァァァ!!』
『デッドエンドブリンガァァァァァァァ!!』
白と黒の光線が発射され、今再び、2つの必殺技が激突した。




