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28話:ドワーフヘイムへ

「鋼鉄の山脈」は、急峻な坂道が続く、険しい山だ。


“古の昔、龍が暴れたことにより大地より突き出した”という言い伝えがある。その名の通り、山脈の頂きは鋭く天へと延び、先端は雲に隠れて見えなくなっている。


山肌は岩場だらけで、植物が少ない。そのため、獣や魔物も少なく、戦闘による危険はあまりない。

しかし、それに代わるように、急斜面やクレバスなど、ひとたび滑落したら命に関わるような難所が多かった。


これだけ岩場だらけであるが故に、鉱石資源が豊富であり、だからこそ、ドワーフがここを住処としているのだ。


なお、ドワーフヘイム到着までに、ケンタは10回滑落した。



********



「これはまた、エルフヘイムとは違った趣があるね」

切り立った崖を見上げ、リアムが呟く。


ドワーフヘイムは巨大な谷の中にあった。


谷の両側、垂直に切り立った壁を掘り抜き、そこを住居としているのだ。

ただ、穴を掘ってあるだけではない。柱や窓、壁に飾りや場所によっては透かし彫りなど、精緻な街並みが作り出されていた。


エルフヘイムが自然と共生した美の体現であるなら、こちらは技術の粋が示す美の顕現といったところか。



「おぅ、人間がここまで上がってくるとは、珍しいな」

ずんぐりむっくりとした体形で、グレーの頭髪と髭は境界が無く、もじゃもじゃと頭部を覆っている。いかにもドワーフといった風体の男性がリアムに声をかけた。


「あ、僕たちは──」

「いや、わかっとるぞ。武器が目的だろう?」

ドワーフ男性の言葉にリアムが「お?」といった表情をした。が、


「ずばり、そっちのガタイが良い兄ちゃんの武器だな!?」


ドワーフ男性は、グレッグを指差しながら宣言する。


リアムはあっけにとられるが、すぐに気を取り直し、

「いえ、そうではなく──」

「おまえさんはいつも早とちりするわい!」

リアムの言葉を遮り、別のドワーフ男性が現れた。こちらは頭髪と髭が茶色だが、それ以外はほぼ同じだった。


「そっちの魔導士のお嬢さんの防具だろ? そりゃ、ここでなら、お嬢さんでも軽くて使いやすい、それでいて頑丈な防具が──」

「こりゃ、貴様ら! 旅人さんたちがこまっとるじゃろが!」

また新たなドワーフ男性が出現する。今度は、黒毛だ。


「新しい武器の開発じゃろ? そっちのツッコミが好きそうな兄ちゃん用だな?」

「いや、別に俺ツッコミ好きじゃないからね? まるで趣味みたいに言わないでもらえるかな?」

ツッコミ好き認定されたケンタが、黒毛ドワーフ男性にツッコミを入れる。


「やっぱりお前らの目は節穴だな」

更に追加でドワーフ参戦。今度は白毛である。


「全員に揃いのアミュレットじゃろう? 防御術式と強化術式を入れ──」

「そんな細かいもんばっかり作っとるから、お主はいつまでたっても腕が上がらんのじゃ!」

「お前こそ、でかくて大味な武器ばかりつくりおって! おおざっぱな作品ばかりではないか!」

「お主のような防具ばっかり作っておるような消極的な奴が、何を偉そうに! 漢なら攻めてこそ、攻撃こそが漢の道よ!」

「貴様が作るのは武器じゃなくてゴミじゃろが! 新しい武器開発とか言って、出来上がるのはいつもガラクタではないか!!」


リアム達をそっちのけで、ドワーフたちが喧々諤々に揉め始めた。

その様子を10秒ほど茫然とみていたリアムだったが、思い立って口を開く。


「聖剣の力を取り戻しにきました!」


その言葉を聞いたドワーフたちは静止し、一斉にリアムを見た。


「む、これは聖剣か」

「確かに聖剣じゃな」

「うむ、間違いない」

「ということは、“浸し”か」


先ほどまで大騒ぎしていたドワーフたちは、一斉に背を向ける。「聖剣に用はねぇ」「あんなもん鍛冶じゃねぇ」と口々に言いながら、去っていった。


直前の喧噪はどこへやら。リアム達の前には、一人のドワーフも残らず、リアム達だけが残された。


「えっと、なんだったのかな?」

流石のリアムも戸惑い顔である。



********



「うちの里のもんたちが、すまんかったのぅ」

ドワーフヘイムの長老が、リアム達に頭を下げる。


「いえ、お気になさらず……」

長老の謝罪に、リアムは愛想笑いを返す。


あの後、とりあえず”長”を探そうということで、道で出会うドワーフに話しかけたところ、毎回「武器か!?」「防具か!?」とハイテンションで逆に尋ねられ、「聖剣」と答えると急にスンとなって去っていくというやり取りを繰り返した。

それでも、何とか”長”の居場所を聞き出し、何とか長老を訪ねたのである。


「ドワーフは採掘と鍛冶が生きがいみたいなもんでなぁ……。ここまで人間がやってくることは多くはない。が、来るときは大抵”鍛冶”が目的じゃ」

長老は白髪になった髭を撫でながら続ける。


「じゃから、人間を見ると、我こそはと売り込みに行ってしまうんじゃよ」

「あ、はぁ、そうなんですね……」

しみじみと告げる長老に、リアムは「微妙に納得はいかないが、理解はできた」という様子で応える。


「聖剣に再び光を宿すには、”浸し”という処置を行うのじゃが、これが”鍛冶”というよりは”儀式”での」

「儀式……」

真剣な声色で告げる長老の言葉に、リアムも表情を引き締める。


「あんなもん”鍛冶”じゃないといって、誰もやりたがらん……」

「……」


「わしを長老だとおだてて、押し付けてくる始末……わしだって鍛冶がしたいのに……」

「いや、あんたも同じかよ! 世界の危機を救う聖剣の処置を、押し付け合ってんのかよ!!」

「えっと……なんかすみません」


その後、一時間ほど長老の愚痴は続いた。


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