24話:蝶の妖精の乱舞
「がぁぁぁぁぁぁ!」
狂暴化した住民が、リアムたちに襲いかかる。
「こいつ、力が強い! リアム、いつまでも耐えられないぞ!」
数名の住民に押し込まれながら、グレッグが苦々しげに叫んだ。
「住民を傷つけるわけには!!」
リアムは聖剣を抜かず、鞘で手足を打ち払う。命を奪わないとはいえ、当たりが悪ければ骨くらいは折れる。
「っ!」
しかし、住民は止まらない。明らかに手足が折れた状態で、なおも勢いが変わらない。
「い、いはいおはんひへないほ!(痛みを感じてないぞ!)」
すでに数名の住民に組み付かれ、口と鼻に手指を突っ込まれたケンタが、叫ぶように声を上げた。
リアムが強めに鞘で打ち、住民を転倒させる。が、意識を失うことも無く、地面を這ってリアムへ近づいてくる。
「ふがっ!」
そんな住民が、地面から伸びた土に拘束された。
「ふごぉ!」
ケンタに組み付いていた住民たちも、地面から触手のように伸びた土に絡めとられ、拘束されていく。
「エリシア!」
「土魔法の応用よ! 長くは持たないわ!」
「任せてください!!」
セレスティアが持つ杖に白い魔力が収束していく。
「広域解除魔法!!」
周囲数百メートルの範囲に虹色の光が降り注ぐ。
「あ」
「俺は、何を……?」
土の触手で拘束された住民たちが次々と正気を取り戻す。同時に、彼らは下着姿になり、背中から極彩色の蝶の羽が生えていた。
<住民たちは、蝶の妖精(変態)に変化した!>
「~~~っ!!」
セレスティアは蝶の妖精に変化した! 白い生地にピンクのレース付き下着のセレスティアは、まさしく蝶の妖精だ!
真っ赤になって恥じらう姿も様になる!
「セレスティア助かったよ!!」
リアムは蝶の妖精(変態)に変化した! パンツ一丁でもリアムは堂々としている。彼はトランクス派だ!
「ちょっと、この格好どうにかならないの!?」
エリシアは蝶の妖精(変態)に変化した! 体をくねらせ、手でシックで大人な下着を隠そうとしている。
「セレスティア、さすがだな!!」
グレッグは筋肉の妖精(元々変態)だった! トライセップスで上腕三頭筋を強調している! もちろん彼はブーメランパンツだ!
「セレスティア、さすがだよ……」
ケンタは蝶の妖精(こちらも元々変態)に変化した! なぜかケンタは土の触手で拘束されており、逆さ吊りになっている。 彼は意外にもブリーフ派だ。
「ふん、ふざけた力だ」
上空では、ゼウスが蝶の妖精(変態?)に変化していた。ローブが消失すると、ただの骨格標本状態だ! なんと彼はノーパンだった!!
「アビス!」
「──マジ転職しよ」
ゼウスが声をかけた瞬間、セレスティアの背後に黒い霧が出現した。
「やばい! 誰かセレスティアを!!」
逆さ吊りのケンタが叫ぶ。
黒い霧の中から出現したのは、蝶の妖精となったアビスだった。
不味い! アビスもノーパンだ! こちらは肉体があるので、”ナニ”が見えてしまう!
そんなアビスが、セレスティアに手を伸ばす。完全に逮捕事案である。
「セレスティア!!」
「くそっ!!」
リアム、グレッグ、エリシアがセレスティアに向けて駆ける。
セレスティアが振り返ると、アビスと目が合い、アビスはにやりと笑みを浮かべた。
「我らが居城へご招待しよう、聖女ど──」
不敵な笑みで呟いたアビスの横面に、黒い鉄拳が突き刺さった。
「ぶばんっ!」
妙な悲鳴を上げ、回転するヒトデとなって飛ぶアビス。
セレスティアの前には……。
「ジャスティス・ブレイク!!」
右パンチを振りぬいた姿勢のジャスティス・ブレイクが居た。
「よっしゃぁ!!」
ケンタは握りこぶしを振り上げ叫んだ。逆さ吊りの蝶の妖精(変態)が拳を振り上げる様は、言い表しようのない不気味さである。
「ちっ!」
忌々しげに舌打ちしたゼウスは、自身の周囲に更に大量の赤い十字を出現させる。
Shoots restraints!!
ジャスティス・ブレイクの背部から、何発もの光弾が射出された。
ゼウスが手を振ると、住民たちに向けて赤い十字が投下される。が、それらはジャスティス・ブレイクが発射した光弾に悉く撃墜された。
「くっ! でたらめな奴め!! アビス!!」
ゼウスが苛立ちをぶつけるようにアビスを呼ぶ。
すると、黒い霧が5つ現れ、蝶の妖精化したアビスが5体出現した。
「やれやれ、我も全力でいくしかあるまいか」
そう呟いたアビスの内1体、その背後の黒い霧から、ピリリと黒い電撃が漏れた。
「?」
他4体のアビスが出現した黒い霧は既に消失している。しかし、ピリピリと黒い電撃が漏れる霧だけは、一向に消えない。
ゼウスとアビスすら想定していない事態に、一瞬、場が静止した。
直後、黒い霧を中心にバリバリと空間が裂け、異空間への口が開いた。
裂け目の向こう側、赤紫と青紫がグネグネと入り乱れる空間から、暗く、黒く、巨大な何かがこちら側を覗いていた。
「管理者……?」
その姿に見覚えのあるリアムが小さく呟いた瞬間、裂け目を超え、黒い雷撃がほとばしった。
「ぬがぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」」」
雷撃は、ゼウスとアビス五体を貫き、感電させた。
そして、まるで映像を巻き戻すかのうように雷撃が裂け目に吸い込まれると、裂け目も跡形もなく消滅した。
何事も無かったかのように、静寂が戻る。しかし、ゼウスとアビスには明確な変化があった。
5体のアビスは、すっかり様相が変わっている。それぞれ、リアム、グレッグ、セレスティア、エリシア、ケンタになっていた。
色が真っ黒であるため、明確に偽物であることはわかるが、そこから感じる闘気や魔力は、本人と同等の力を持つことを示していた。
ゼウスは、骨格標本のような状態からは一変し、黒い外骨格に覆われていた。こちらも感じる魔力は、先ほどとはくらべものにならない。
「クッカッカッカッカッ、運命は我らに味方したようだな!」
乾いた笑いを上げ、ゼウスが強烈な邪気を噴出した。




