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23話:ノーザンの悲劇

『鋼鉄の山脈』ドワーフヘイムは、大陸の北方に位置している。


そのため、リアムたちは、アスガルド王国の北端にある国境都市ノーザンへ向かっていた。

ノーザンから先は『鋼鉄の山脈』となり、険しい山道が続く。


ノーザンへ向かう乗合馬車に揺られながら、ケンタは「ここまでいろいろなことがあったなぁ」としみじみと思い出していた。



エルフヘイムからの出発時、前日には随分馴染んでいたように見えたルナ・サトウだが、深夜には席を辞し、翌朝の出発には顔も見せなかった。案外ドライである。

その後、「静謐なる森」を進む一行。再びケンタとレイジが囮役となり、何度死んだことか……。


森を出た後は、街道沿いを北上、村や街を経由しての旅となったが、


グレッグが突如”筋肉布教”を始め、邪教として追われて死んだり、

エリシアが調合した魔法薬でバイオハザードが発生し、ゾンビ化した村人に襲われて死んだり、

セレスティアの魔法で突如デスゲームが開始され、最初の説明の見せしめに死んだり、


とにかく大変な旅だったのである。


「俺じゃなきゃ死んでたね」

ケンタの表情は悲哀に満ちていた。なお、全部のトラブルは、だいたいリアムが何とかした。




乗合馬車が進み、国境都市ノーザンの特徴的な外壁が見えてくると、ケンタは表情を暗くした。記憶の蓋が開く。



『ぐわぁぁ……、ぐがぁぉぉぉぉ!!』


赤い十字に貫かれた住民が苦しみ、やがて奇声を発しながらリアム達へと襲い掛かる。

空から次々と降り注ぐ赤い十字が住民たちを変貌させ、リアム達の敵がどんどんと増えていく。


『ゼウス、貴様っ!!』

『いい表情だな勇者よ! ワシは人間の苦悩に歪んだ表情が大好物なのだよ!!』

『嗜虐趣味の変態ね!』

『これも一つの探求の形だよ』


リアムとエリシアの苦言も誉め言葉のように受け取りつつ、宙に浮かぶ魔王軍四天王 【冷徹なる裁定者】ゼウスは、白骨の頭部、その顎をカタカタと揺らしながら愉快気に嗤う。


『安心しろ。お前たちの体も、しっかりと私が活用してやる』


ゼウスが新たな赤い十字を打ち出そうとした瞬間、暴れていた住民の数人がまばゆい光に包まれる。


光が晴れると、そこには雪だるまと化した住民たちの姿が。


『……?』

白骨顔のゼウスすら困惑顔だ。


『ぶはっ!』

雪だるまの中から、住民が飛び出し、

『お、俺は、一体?』

彼らは正気を取り戻していた。


『セレスティア!!』

『リアム様! 住民たちは私が!』

『私がサポートするわ!』

『わかった! 僕がゼウスを倒す!』

ゼウスに相対するリアム、セレスティア、エリシア。


『せっかくの作品を台無しにするとは、無粋の輩よのぅ』

ゼウスが顎に指を当てながら少しの苛立ちを見せる。


『アビス!』

『人使いが荒い』

ゼウスが声をかけた瞬間、セレスティアの背後に黒い霧が噴出、そこからローブ姿の魔族が現れると、セレスティアを拘束した。


『我は本調子ではない、手伝いはこれだけぞ?』

『かまわぬよ』

そう告げると、アビスは再び黒い霧に姿を変え、その中へとセレスティアを飲み込んでいく。


『リ、リアム様!』

『セレスティアァァァァ!!!』

リアムの伸ばした手は届かず、セレスティアは霧の中へと消えた。


『では、始めようか?』

ゼウスが両手を上げ、更に多数の赤い十字を出現させる。逃げまどう住民が次々とゼウスの手先へと変貌させられていく。


リアムとエリシアだけの絶望的な戦いが始まる。





「リアム様、ケンタ様は、どうされたのでしょうか?」

「たまに考え込むときがあるんだよ」


リアム達は、ノーザンの降車場に到着した乗合馬車からとっくに降りており、馬車内にはケンタだけが取り残されていた。


「やだ! まさか私の体で妄想を!?」

「自意識過剰だろ、この大罪人が!!」


なお、ケンタは馬車を降りた直後、エリシアによって空間断裂魔法でサイコロステーキにされ、馬車内にリスポーンしたのだった。



********



「この先は山を登る必要がある。この街で数日準備をしよう……?」

リアムが全員に宣言している中、ケンタはキョロキョロと周囲の警戒を怠らない。


どこかからゼウスが出現するのではないか? アビスがどこかに潜んでいないか?

少しでも怪しそうなところを警戒する。最も、客観的に見て一番怪しいのはキョロキョロと挙動不審なケンタだが。


「ぐわぁぁ」

突如、広場に響く悲鳴。リアム達も一斉にそちらに視線を向ける。


一人の男性に、赤い十字が突き刺さっていた。


「来た! 来ちまった!」

ケンタは震える。ここまで、正史の展開はことごとく破壊されてきた。が、ここにきて正史通りの展開が始まっている。


「ぐがぁぉぉぉぉ!!」

住民は赤い十字に体を侵食され、部分的に赤黒く変色した状態で叫びをあげたかと思えば、そのままリアムに向かって突っ込んできた。

涎を振りまき、白目を剥いたその顔は、明らかに正気ではない。


「がぁぁ」

「うわっ」

「きゃぁぁぁ」

次々と赤い十字の犠牲者が増えていく。


「はっはっはっはっ!!」


頭上から、不快な高笑いが降り注ぐ。視線を上げれば、黒いローブをまとった白骨が浮かんでいた。


「初めましてかな、勇者殿。せっかくなので自己紹介をしよう。ワシは魔王軍四天王の一人、【冷徹なる裁定者】ゼウスと申す」


ゼウスが手を振るうと、さらに多くの赤い十字が出現する。


「貴様らは、ワシが裁定してくれようぞ!」


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