22話:エルフヘイムの夜
聖剣を手に入れたリアム。
しかし、聖剣の力は弱っており、それを復活させるためには、ドワーフたちの力を借りる必要がある。
次の目的地はドワーフヘイムだ。が、その前に、今日はエルフヘイムで一泊することとなり、空き家を借りたのだが……。
「へぇ〜、それでドワーフヘイムってところに行くんだ」
「はい、私、ドワーフの方々には会ったことがなくて、楽しみです」
ルナとセレスティアが食事をしながら、楽しそうに歓談している。
「え? なんで普通に居るの? 俺の感覚が変なの?」
ケンタは驚き戸惑っている。
「ねぇ、アンタの皮膚組織、少しくれない?」
興味津々のエリシアが、ルナから皮膚組織を採取しようとしてペシペシと手を打ち払われている。
「要求のレベルがやばいよ。一足飛びで行ったよ。大罪人がマッドサイエンティストにクラスチェンジしやがったよ」
業の深いエリシアにケンタも驚愕している。
「うむ! 変身していた時の貴女は、とても良い腹直筋だった!」
「ちょっと見てるとこがいやらしくない?」
「心配ない! 俺は筋肉しか見ていない!!」
「うわぁ、ドン引きだわ」
流石のルナもグレッグにはドン引きである。
ケンタは無言で首を横に振る。もはやかける言葉が無いようだ。
「ねぇ、少しでいいから……」
両手をわきわきと動かしながら近づくエリシア。しかし、次々と差し出す手は、ことごとくルナに打ち払われてしまう。
「怪しいオッサンみたいになってるって!」
女を捨てたエリシアの狂気に、ケンタは恐怖している。
「エルフヘイムも初めて来たのですが、とても綺麗で感動しました!」
「ふふ、だよね。ここ綺麗だよね」
エルフヘイムを褒めるセレスティアの言葉に、ルナは我が事のようにうっすらと笑みを浮かべている。
「え、同じ空間だよね? 温度差で風邪ひきそうなんだけど?」
混乱を極める場の状況に、ケンタは身震いした。
「あ、良かったら飲み物を──」
「あぁん?」
「いえ、ナンデモナイです」
ソワソワとした様子のレイジが、ルナに飲み物を進めようとする。が、随分とガラの悪い様子で凄まれて小さくしょぼくれた。
ヒーローとヴィランという特性がそうさせるのか、ルナは、なぜかレイジにだけやたらと当たりが強い。
にもかかわらず、なぜかレイジは、先ほどからチラチラとルナの様子を窺い、隙をみては話しかけようとしている。
毎回威嚇されて萎縮しているが……。
その様子を見ていたケンタは最初、”次は最後までやる”と脅された”次”が来ないよう、ご機嫌を取っていると思っていたのだが……
──え、あいつ、もしかして気がある!?
心持ち赤面し、笑顔にならないよう表情を抑えようと努めるが、抑えきれずに口元がもにょもにょと気持ち悪く動いている。
ぶっちゃけ、キモい表情だ。
ヒーローとヴィラン関係なく、誰でも邪険に威嚇したくなるキモさである。
男の自分でも”キモイ”のだ。異性ならなおさらであろう。
一瞬、フォローすべきかとの考えがケンタの脳裏に浮かんだ。
例えばである。
奴のあのキモさだ。コミュ力モンスターのリアムが全力フォローしたとしても、万が一、億が一にも可能性は無さそうではある。
しかし、何事にも”絶対”は無い。天文学的確率により、二人がうまくまとまったとしたら。
──うん、なんか悔しいから無しだな
なんか悔しいので、フォローどころか、ツッコミも一切入れないことにした。
エリシアは気配を消し、ハサミを手にルナの背後に近づく。そして、唐突に床から出現した赤黒い触手にハサミを吹き飛ばされた。
吹き飛んだハサミはエリシアの髪を数本切り落としながら、背後の壁に突き刺さる。
「……」
「執着が怖えぇよ! 他にもモルモット居るんだから、そっちにしときなさい!!」
ケンタは明らかにレイジに視線を向けながらエリシアへツッコミを入れる。
「も、モルモット……」
レイジが小さくショックを受けた。
「え、いや、その……、ソレはなんか違う」
エリシアはなぜかもじもじしつつ、明確に拒否した。
「ソ、ソレ……」
レイジは大きくショックを受けた。
「仲が良いのはいいことじゃないか」
「リアム大丈夫か? ”仲が良い”で済ませていいのは1名しか居ないが? 他は混沌だけど? だいぶ地獄のような状態だけど?」
エルフヘイムの夜は更けていった。




