21話:運命(さだめ)
ザザッザ──
リアムは真っ白な空間の中、夢か幻のような映像を見ていた。
しかし、それはひどくノイズ交じりで、断片的な情報しか読み取れない。
ピガッザザ──
──リアムの故郷の村。そこが魔物に蹂躙され燃える。その中でリアムは一人逃がされる。
──グレッグが四天王ガスヴァルの攻撃を受け止め、瀕死の重傷を負う。そして******により半魔獣の怪物へ変貌する。
──連れ去らわれたセレスティアは四天王ゼウスにより苛烈な拷問の末に神聖を失い、新たな*******としてリアムに立ちはだかる。
──エリシアが悲痛な笑みを浮かべ、自爆魔法で四天王アザゼルと*****。
──リアムはただ一人、魔王に挑む。
──すべての闇を祓った聖剣は黒く染まる。そシて闇ハ勇者を染メる
白い空間が突然爆発的に広がり、周囲すべてが夜空のような星々が浮かぶ空間に、リアムは漂っていた。
上も下も無く、手足をばたつかせてもうまく動けない。そんな空間に、リアムは確かに何者かの気配を感じた。黒く、暗く、巨大な何者か。
──重大な相違が生じている。
男なのか女なのかわからない。だが、重く頭に響く声が聞こえた。
──”異物”が、”正史”を歪めている。
「異物? 正史?」
──”闇”を討て。それが聖剣の定め……。
「……言われなくとも」
リアムは静かに、しかし力強くそう答えた。
──我は手出しできぬ。
「あなたは、一体?」
──我は管理者……、我は……、動けぬ。
”管理者”と自称した存在、その更に向こう、赤紫のオーラを吹き出す”何か”がある。
生物的とも機械的とも言える様相。巨大なタコのようにも見えるし、触手部分がダクトやケーブルにも見える。1つのようであり、多数のようである。
ただ言えることは……、恐ろしく禍々しい、世界を壊し侵す、酷く冒涜的な邪気を強烈に放っていた。
その何かが、リアムに意識を向け──
リアム!!
「っ!?」
急速にリアムの意識が引き戻され、自身が聖剣を掲げたまま、半ば意識を失っていたことに気が付いた。
「……、今のは?」
悪夢を見ていたような気がした。だが、今一つ理解ができなかった。
ただ一つ、覚えていること。
──”闇”を討て。それが聖剣の定め……。
「そうだ。やることは変わらないさ」
ほのかに光る聖剣を手に、リアムは洞を出た。
「ふむ、力が弱っているようですね」
「そうね、神気が弱いわ」
間近で聖剣を目にしたエルフ男性とエリシアが告げる。
聖剣といえども、経年劣化は起こすようで、洞に長く安置されていたために聖剣も痛んでいた。
「筋肉なら、痛めつけることで更に強くなるが、剣の場合はそうもいかないな!」
「どうにか、修復できないでしょうか?」
「あてならあるわ……」
グレッグとセレスティアの言葉に、エリシアが答える。が、その後の言葉を濁す。
──あー、ドワーフだもんな
ケンタは、内心納得する。ゲームでも、弱った聖剣はドワーフが手入れすることで力を取り戻す。が、エルフとドワーフは仲が悪い。だから今この場でその名を出すことが憚られるのだ。
「あ、ドワーフなら治せるかもしれませんね。では北の”鋼鉄の山脈”にあるドワーフヘイムへ向かわれては?」
エルフ男性がにこやかに告げる。
「いや、仲悪いんじゃないのかよ!」
「ん? 人類の一大事に、人同士で争うなど、愚の骨頂では?」
「ぐうの音も出ない正論!!」
********
南方にある魔の砂漠と呼ばれる領域。
人も獣も住まない過酷な地。ここに、魔王軍の本拠地である”魔王城”があった。
「”聖剣”が目覚めた。ガスヴァルを倒した力は伊達ではないということか」
漆黒の全身鎧に身の丈を越えた大剣を背負う男が、落ち着いた声色で告げる。この男は魔王軍四天王最強と呼ばれる”【滅界の覇王】グラトス”である。
グラトスの言葉に、更に魔王軍四天王の一人である”【冷徹なる裁定者】ゼウス”が反論する。
「はっ! ガスヴァルなど奇術や幻術に頼る小物。四天王に名を連ねるにも値せぬ男よ。奴を倒したとていかほどのものか!」
ゼウスが漆黒のローブから覗かせる頭部は骸骨姿。その顎をカタカタと鳴らしながら憤慨する。
「よかろう。ワシが勇者とやらを屠ってくれよう!」
ゼウスは手にした黄金の杖、これまた先端に骸骨をあしらったソレで床を突きつつ宣言する。
「アビス、行くぞ!」
しかし、単独で戦うつもりはないようだった。
「え? 我、普通に無理だが?」
ゼウスの言葉を、黒い霧状のアビスは真っ向から断った。ゼウスは絶句し、顎の骨をカタカタと鳴らす。
「我、もう5体くらいしかおらんし。ちょっと増やさないと、活動できぬ」
「お主! それでも魔王軍四天王か!」
「そういうラベリングで人に何かを押し付ける行為は、我、良くないと思うな」
「いいからついてこい!!」
一瞬、上司に言いつけることを思い浮かんだアビスだったが、上司は魔王であり、周囲に脳筋しかいない状況では致し方ないと嘆息した。
──転職先、探そ……。




