20話:聖剣への挑戦
「皆さま、聖剣に挑戦しにいらしたのでしょう? 聖剣の洞へご案内しますよ」
にこやかな笑顔のエルフ男性が、リアムたちを先導するように歩いていく。
エルフヘイムは、美しく、神秘性に満ちた都市だった。
『静謐なる森』の巨大な樹々が生い茂る葉は、空を完全に覆っている。にもかかわらず、エルフヘイムには柔らかな太陽光が降り注いでいた。
枝葉の隙間から洩れる太陽光もあるが、都市にふわふわと浮いている緑の球体から、木洩れ日のような光がいくつも地に注がれている。
神秘的な光あふれる木々の合間、その枝や洞を利用してツリーハウスのように住居が形成されているのだ。
住居の間にはつり橋やロープが渡され、場所によってはターザンのようにロープ渡りで移動している。
エルフたちは、森の木を根こそぎ伐採することはせず、しかし、全てを自然のままにしているわけでもない。
適度に手を入れることで、木々は伸び伸びと育ち、森に生きる生物たちが、お互いに多くの”恵み”を享受できる環境、それをエルフたちは整えていた。
「美しく、神秘的で、とても良いところですね」
「ありがとうございます。この都市は私たちの誇りですから、そう言っていただけると、とても嬉しいですよ」
「すごいわ、さすがのコミュ力だわ」
天然人たらしのリアムが、歩いて数分で既にエルフ男性と意気投合しかけている。
「ふわぁぁぁぁ……」
セレスティアが感嘆の声を漏らし、近くを漂う緑の球体に手を伸ばす。その球体は周囲に柔らかな光を注いでいた。
しかし、球体はセレスティアの手に触れた途端、赤く変色し、ぎろりと眼球が覗く。
「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょ、エルフヘイムを汚染すんな!」
セレスティアが焦って杖を振り回すと、赤黒い眼球は消滅した。
「この空間は半亜空状態で大地と大樹の幹に維持スクリプトが構築されていて動力源は太陽の光と大地の霊脈直結?混在するエネルギーの整合は太陽光側に変調陣を仕込んでるのか確かに太陽光は常に使えるわけじゃないから効率を考えるとそうなるけどエネルギー量としては霊脈のそれは──」ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ
エリシアは地面や大樹を観察し、大罪人モードに入っている。
「こっちにも汚染源があった! やべぇよ、誰か大罪人止めろよ! 絶対何かやらかすよ!!」
「いいか、これはただの体操ではない! これは己の肉体と精神、ひいては人生を豊かにするための”筋肉との対話”だ!」
グレッグが熱弁する横で、レイジが「健康増進! 特別トレーニング体験会」と書かれたのぼりを掲げている。
「まずは基本だ! スクワット! 足を肩幅に開いて、つま先は少し外側! いいか、ただしゃがむんじゃない! 己の大腿四頭筋と臀筋に意識を集中しろ! そこに神が宿るんだ!」
不思議そうな様子で3人ほどのエルフがスクワットを開始している。案外乗り気のようである。
「あかん! こっちは既に汚染が広がってた!! もう無理、俺には止められん!!」
三者三葉、それぞれの特技でエルフヘイムに溶け込む勇者一行であった。
「溶け込んでないから! 異物感すごいから!!」
いろいろあったが、なんとか聖剣の洞にたどり着いたリアム達。
巨大樹群で構成されたエルフヘイムにあって、一段と巨大な樹木。
直径が50mはあろうかというその大樹の根元には大きな洞があり、その内部、暗がりの中央にはうっすらと輝く剣が突き刺さっていた。
「あれが”聖剣”です。聖剣は使い手を選びます。資格の無い者は、聖剣を手にすることはできません」
つまり”聖剣への挑戦”であると、エルフの男性はにこやかに告げる。
「”挑戦”は、お一人ずつお願いします」
それを聞いたリアムが一同を振り返り、
「じゃ、まずは誰からいく?」
あっけらかんと言った。
「いや! 明らかにリアムが行く流れだろ!?」
「え、僕? 僕はケンタが行けそうだと思うけど」
「俺は無いって! 明らかに陰の者だぞ? 仮に勇者だとしいても、悪い意味での勇者だよ! だから無いって……、無いよね?」
ケンタの必死な言葉に、全員が顎に手を当て、真剣に悩む様子を見せる。
「いや、悩むところじゃなくない!?」
「まぁまぁ、いいじゃないか。一回しかできないわけじゃないし」
リアムはにこやかにケンタの肩を叩き。
「行ってみようよ」
ちょっとコンビニ行こうぜ? 位のノリでケンタに進めてくる。
「……、まぁ、いいけど。どうせ俺には抜けないだろうし」
ケンタはしぶしぶ洞の中へ入る。
洞の中は別世界のように静かで、少しひんやりとしていた。
聖剣の間近に立つ。聖剣は、ほのかな光を放っていた。が、よく見れば、ところどころに錆びが浮き、刃がかけている部分もある。
「聖剣も痛んだりするんだなぁ……」
小さく呟き、聖剣の柄に手をかけるケンタ。
ビービービービービービービービービービー!!!
洞の中いや、洞の外まで、警告音が鳴り響く!
──聖剣に邪気の接触を確認
──排除します
「は、排──」
言い切る前に、全方位から飛んできた不可視の刃でケンタは斬り刻まれた。
──異物を確認。「血肉と脳漿」
──洗浄します
ざばっと洞の中が洗い流され、ケンタの残骸はジャバジャバと外へと流れ出た。
聖剣の目の前でリスポーンしたケンタは、四つん這いのままゴキ●リのように這い、高速で洞から脱出した。
「死んだって!! ちょっと試したら死んだけどぉぉぉぉ!?」
「聖剣が許容しきれない邪気だったみたいですね」
ケンタの叫びに、エルフ男性がにこやかに応えた。
「にこやかさが怖えぇよ! サイコパス味が隠しきれてねぇよ!!」
「ケンタなら行けると思ったんだけどな」
「たぶん、この中で一番ねぇよ! ”邪気”って言われたよ!!」
不思議そうに述べるリアムに、ケンタはもっともすぎるツッコミを入れた。
さらに、リアムは次の挑戦者を探すように周囲に視線を向ける。
視線を向けられたセレスティアはビクッと震え、首を高速で横に振っている。
エリシアも、顔の前で手を振っている。
グレッグは背を向け、明後日の方向を見ている。
レイジはボケッとしていた。
「レイジ行ってみるかい?」
「お、俺?」
「今の見て、人に行かせるリアムって実は非道?」
レイジは、「多分俺死なないし」などと思いつつ、挑戦してみることにした。
洞の入り口に立ち、レイジがその中へと一歩踏み──
──異物を確認。「鉄くず」
──洗浄します
正面から高圧洗浄機のような水圧を食らい、レイジはゴロゴロと後ろに転がった。
「……鉄くず」
びしょ濡れのレイジはうなだれた。
「り、リアム様!」
セレスティアが叫ぶようにリアムへと声をかけた。リアムは今まさに洞に立ち入ろうとしていたからだ。
「二人に行かせて、僕が行かないわけにもね」
そういって、軽い足取りで洞へと入っていくリアム。
洞の中は静謐なまま。
聖剣の前にたどり着いたリアムは、一呼吸おいて、その柄に手をかける。
聖剣が一瞬キラリと光り、そしてするりと抜けた。
「これが、聖剣……」
聖剣を掲げ、そう呟いたリアムの視界は、途端に真っ白に塗りつぶされた。




