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元ブラック社畜は、異世界でヴィランの彼女と最強の正義を成す  作者: はとむぎ
第1章 流されヒーローとツッコミ転生
2/18

2話:転生者 古賀健太

本日投稿2話目です。

古賀健太は転生者である。


生前、彼は「ラスト・エクリプス・サーガ ~光の勇者と世界の終焉~」――通称『ラスエク』というゲームにドはまりし、寝食を忘れてプレイする重度の廃ゲーマーだった。

それが転生の直接的な原因となったわけだが、それは置いておこう。


それは必然か何かの因果か、古賀健太はそのラスエク世界の名もなき村人、いわゆる”モブ”に転生した。

もちろん、”名もなき”とは比喩であり、転生後の彼はケンタという名である。


転生の際、ケンタは一つの異能を授かった。


その名も、「死なない男モブ・オブ・ザ・デッド」。


致命傷を受けても死なず、意識を失うと安全な場所に転移するこの能力は、まさに“不死身”と呼ぶにふさわしい。

危険に満ちた異世界で、これほどのアドバンテージはないだろう。


――だが。


それ以外の能力は、“廃ゲーマー”だった生前の彼と、何ら変わりがなかった。


鍛えても筋肉はつかず、

武器を扱うセンスも無く、

魔法の資質どころか、魔力が皆無……(脂質は充分にある)


つまり、


「この村、オープニングムービーで滅びるやつじゃねぇかよぉぉぉぉぉ!!」


異世界に不死身の”ツッコミ”爆誕である。





ケンタが転生の事実に気が付いたのは3年前だ。


「くそっ! 鍛えても鍛えても育たんのではどうしようもない!!」


自身の”伸びしろ”の皆無さに、嘆きの声を上げる。


転生に気が付いた当初、ケンタは歓喜した。

この世界のことなら、開発者より詳しい自信がある!


各種アイテムの場所や強力な武器防具の入手方法、キャラクターの効率的な育成方法も熟知している。


「知識チートで鍛え上げ、ゲーム世界で無双しろってことだな!!」


そう確信し、意気込んだものの……。


魔法を鍛えようにも、魔法スキルが生えてくるどころか、魔力がゼロで、誰でも使えるような”着火”の魔法すら使えない。

「そうか、俺は戦士系か」と思い立ち、村で唯一の剣をこっそり振るおうとしても、持ち上げることすら叶わず。

根本的な筋肉不足に気づき、筋トレに勤しむも余計に腹が減り、食欲に任せた結果、増えたのは脂質のみ。


「えぇ、モブ転生ってこんな無理ゲーだっけ?」


自分を転生させた何者かに殺意を覚え始める今日この頃である。


そう、事態は急を要するのである。


彼、ケンタが転生したこの村は、ゲームのオープニングムービーで魔王軍に蹂躙され、滅ぼされる。

この村はラスエクの主人公である「勇者リアム」の故郷であり、今現在、ケンタと同世代として、まさにそのリアムご本人がこの村に在住しているのだ。


ゲーム冒頭の語りによれば、勇者の誕生を察知した魔王軍が一軍を差し向け、この村を滅ぼす。

村人の一部や村長は、”リアム”が背負う運命を知っているため、彼を失うわけにはいかないと、彼を逃がすのだ。

そして、リアム以外の村人は全滅する。


そう、全滅だ。


「俺死亡確定!? いや、チート能力あるから死なないのか!?」


何にせよ、目の前で確実に起きる”悲劇”を、スルーできるほどケンタは”ゲーム脳”ではなかった。


なら俺が原作ブレイクしてやるぜ、と意気込んだ結果が、”ツッコミ”爆誕である。


「選択を誤ったか!」


無双する自分を夢想し、自分を鍛えることにリソースを費やしたが、完全に無駄となってしまった。

こんなことなら、リアムに事情を明かし、リアムの強化に勤しむべきだった。彼ならば確実に成長する。だが、過ぎてしまった時間は戻らない。


「いや、決意するのに遅すぎることはないんだ! 思い立ったが吉日! 今日から方針転換だ!」


魔王軍の襲撃までどれだけの時間があるのか分からない。が、ここまでの回り道だって完全に無駄だったわけじゃない。

可能性を模索した結果、「誤った選択肢」は確定できたのだ。ならば、正しい選択肢を新たに選べばよい。


「早速リアムを──」


まさに、野獣の叫びが響いたのはその時だった。

森の奥から、体の芯に恐怖を植え付けるような、どう猛な咆哮がこだまする。それも一つや二つではない。大量だ。


「ま、まじかよ……」


突き動かされるように、ケンタは咆哮が響く森へと駆け出した。

いつもなら牧歌的な風景が広がる村は、青い顔で立ちすくむ村人たちの姿で混乱に陥っていた。その間を縫って村はずれまで辿り着いたケンタの目に飛び込んできたのは、森の木々をなぎ倒しながら、そこから湧き出すように溢れだす魔物の群れだった。

豚顔の巨漢であるオーク、小柄で緑色の肌を持つゴブリン、そして森に住まうフォレストウルフ。本来なら群れるはずのない雑多な魔物たちが、村を目指して進軍していた。


「あ、あぁ……」

「エリナさん!!」


丁度間が悪く、村はずれで薬草採取をしていた村娘エリナが、魔物の群れを前に立ちすくんでいた。

あと数秒もすると、魔物たちの先鋒はエリナに到達し、その暴威により彼女の命は道端の草のように刈られることになる。


エリナは来月結婚を控えていた。

今日も、嫁ぎ先に持っていく薬草を刈りに来ていたのだろう。

そのために、真っ先に魔物の餌食になってしまう。


「あぁぁぁぁぁぁ」


自分は死なない。でも、魔物たちの物量が純粋な恐怖としてのしかかり、ケンタの足を止める。


オークの巨大な腕が振り上げられ、その影はエリナを覆う。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


エリナの悲鳴が響いた瞬間、ケンタの真横に黒い渦が出現した。


「うぉ!?」


渦の中から現れたのは、漆黒に全身覆われた、異形の人型だった。


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