19話:ルナ・サトウ
『マリシャスバスター』
『パニッシャァァァァァァァァブロォォォォォォォ!!!!』
ヴィランとヒーローの”必殺”が衝突する。
その余波は地と森を削り、灰燼へと帰していった。
数瞬後、その激突から1体が飛び出し、大地を数十メートル削って停止した。
白煙を上げ、大地に横たわるのは──
「ジャスティス・ブレイク!!」
パリピサーファースタイルのリアムが、ジャスティス・ブレイクの元へと駆け寄り、セレスティアたちもその後に続いた。
横たわるジャスティス・ブレイクは、一見すると傷などは無いように見える。しかし、いつもなら全身をめぐる緑のラインが消えている。
「……」
全員がその姿を見下ろし、言葉を失う。
「か、回復を!」
いち早く放心から復活したセレスティアが回復魔法を行使しようとした瞬間、ジャスティス・ブレイクの全身に再び光が灯った。
『がは……』
だが、すぐに起き上れるような状態ではないようだ。
『痛いなぁ~』
そんなリアム達の背後から女性の声が響く。
彼らは武器を構えて振り返る。倒れているジャスティス・ブレイクを庇うように。
ヴィラン・ルナは立っていた。が、その右腕には関節が二つほど増えたように不自然に折れ曲がり、装甲も一部剥がれ落ちていた。
『ま、おかげで頭が冷えたけど』
無事な左腕でパタパタ扇ぎ、頭を冷やすような仕草をしつつルナは述べる。
確かに、先ほど激高していた様子とは違い、幾分冷静になっているようだ。だが、油断ならない。
『あは、そんなに緊張しなくていいって。勇者くんたちには手出しするつもりないからさ~』
肩をすくめながら告げたルナは、そのまま踵を返した。
『とりあえず、私の用事は終わったから、引き上げるよ。あ、でも……』
リアムたちに背を向け、数歩歩いたところで、ルナは思い出したように振り返った。
『”ソイツ”に伝えといて、”次は最後までやる”って』
それだけ言い残し、ルナの姿は掻き消えた。
ヴィラン・ルナが消えた後も、数秒間リアム達は警戒を緩められなかった。
「助かった、いや、見逃されたのか?」
言葉と共に、リアムは剣を鞘に納めた。
「彼女は、何者なのでしょうか……。ジャスティス・ブレイクさんとも無関係とは思えません……」
そこまで言いかけ、セレスティアは気が付く。
「あれ!? ジャスティス・ブレイクさんは!?」
全員が一斉に振り向く。
地面に横たわっていたはずのジャスティス・ブレイクが消えていた。
「あんな状態で、どこへ行ったってんだ!?」
グレッグの叫びに応える者はいない。
「動ける程度には無事だったと喜ぶべきかもしれないが……」
そう言いつつも、リアムは心配そうな表情を浮かべた。
「うんうん」
レイジはシレッと戻ってきている。
「本当に何者なんだろう、ジャスティス・ブレイクは……」
「いつも、私たちのピンチを助けてくれますしね」
「案外、俺たちの仲間の誰かだったりしてな!」
リアム、セレスティア、グレッグが告げ、
「え、アンタたちマジ?」
エリシアがレイジとリアム達を交互に見つつ戸惑う。
そんなエリシアの肩に、ケンタがガシッと手を置く。
振り返ったエリシアが見たのは、いい笑顔でサムズアップするケンタだった。
「急に何? キモッ」
エリシアの繰り出す言葉のナイフに、ケンタは傷つき倒れた。
「そうだ! ヴィラン・ルナに倒されていたエルフたちは!?」
リアムが思い出したように周囲に視線を巡らせる。しかし、あれだけなぎ倒されていたエルフたちの姿が見えない。
「あー、あれは──」
「気にしなくていいわよ」
どう説明しようか迷いつつケンタが口を開きかけたところへ、エリシアが言葉を被せる。
「あのエルフたちは偽物だったわ」
「偽物?」
「えぇ」
リアムの疑問に答えつつ、スク水エリシアがしゃがみ込み、地面に手を当てる。
「エルフたちはなぎ倒されたあと、黒い霧状になって消えたの」
彼女の仕草から察するに、その場所に倒れたエルフが消えたのだろう。
「だから偽物と?」
「【集蝕者】アビス……、魔王軍四天王の一人ね。噂によれば、多くの姿を持っており、擬態が得意らしいわ」
「つまり、あのエルフたちは魔王軍だったのか……」
エリシアの言葉にリアムが納得の表情で頷く。
「病的スク水女性の言葉にうなずくパリピサーファー男。うん、すごい背徳的絵面!」
全てエリシアに説明され、ツッコミ以外に役割を見いだせなくなったケンタである。
********
リアム達は、エルフヘイムにたどり着いた。
なお、服装は既に冒険者スタイルに戻っている。いつまでもパリピサーファーではないのだ。
「ようこそ、エルフヘイムへ」
エルフの男性が、リアム一行に歓迎の言葉をかけた。
「え? 歓迎されてる?」
これに一番面食らったのはケンタだった。
「せっかく歓迎してくれているのに、失礼だぞケンタ」
「え、あ、ごめん」
リアムの言葉に、ケンタは素直に謝る。
「そうですよ! いつも失礼なんですから」
「え? なんか俺責められてる!?」
セレスティアの言葉にケンタは戸惑う。
「ほんと、変態も大概にしてよね」
「いや、俺への失礼はいいのかよ!」
エリシアの言葉に憤慨するケンタ。
「エルフは細身だな、やはり動物性たんぱく質が──」
「ここはプロテインで──」
「何!? その嫌な平常運転!」
相変わらず筋肉バカなグレッグとレイジのやり取りに、ケンタは戸惑いがちにツッコミを入れた。
「遅かったじゃん」
エルフ男性の後ろから、黒髪で病的に白い肌の女性が姿を現し、気軽に声をかけてきた。
右腕は、布で首から吊っている。
「「「「ヴィラン・ルナ!?」」」」
全員の声が一致し、武器に手をかけ──
「あー、ここではルナ・サトウで通ってるから。まぁ、ルナ様でも、ルナ様でも、好きなように呼んで」
「様付け以外の選択肢無いのかよ!」
ケンタのツッコミにもルナは無反応である。
「とりあえず、顔見せに来ただけ。あとで”バッタリ”ってなっても面倒でしょ」
ルナはそういうと、「てことで、じゃあね」と言い残し、去っていった。
「……え? どゆこと?」
ケンタの呟きに答えたのは、エルフの男性だった。
「彼女は人間領と魔族領でいろいろあったらしくて……」
エルフ男性曰く、ある日、ボロボロの衣服で荒んだ表情の彼女が、エルフヘイムへとやってきたのだという。
最初はエルフたちも警戒していたが、魔物の襲撃や、魔族の侵攻から彼女がエルフヘイムを護ってくれたらしく、今では住民としてエルフヘイムで暮らしているらしい。
「つまり、先ほどの戦闘は”アビス”を倒すためだったわけね……」
「悪い人ではないみたいだね……」
「全然悪役じゃない……」
エリシア、リアム、ケンタが呟き、全員が唸る。
──あれ? 俺、魔族と同等扱い?
レイジは一人静かに苦悩した。