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17話:ヴィランとアビス

ドォォォォォォン!!


爆発音が森の奥深くから響き渡る。


激しい戦闘音を聞きつけ、リアムたちは森を駆け抜けた。

幸か不幸か、その音が鳴り始めてから、魔物たちもそちらに引きつけられたのか、リアムたちを襲うことがなくなった。


森を駆け抜けしばらく。おそらくはエルフヘイム間近と思われる場所で、彼らは異常な光景を目の当たりにした。


『アッハッハッハッハッハッ!!』


異形の人型が、女性のような声で甲高い笑い声をあげる。

たった一体の異形が、およそ100名近いエルフたちと交戦していた。


エルフたちが剣や槍で斬りかかるが、異形はそれらを軽く片手で振り払う。

次の瞬間、異形の姿が消え、斬りかかったエルフたちが血を吐いて地面に倒れる。


次に異形が現れた位置へと、エルフたちは予想していたように矢や魔法を殺到させた。が、その異形は矢と炎の雨の中を悠然と歩き、さらに別のエルフを殴り倒した。


1体100。

圧倒的な多勢に無勢にもかかわらず、その1体が100名側を圧倒している。


その異形の人型は、深紅と漆黒の装甲で隈なく全身が覆われ、赤黒いラインが奔っていた。

見るからに女性的な体つきであることと、色合いが少々異なることを除けば、


──ジャスティス・ブレイク!?


リアムたちはその異形を目にし、同じ感想を覚えた。

正体を知るケンタですら、一瞬同じことを思ったほどである。


<Detecting the villains...>


「ぐあっ!」

レイジが呻きを上げ、頭を押さえる。四肢末端から装甲が展開され、レイジの変身が始まっている!


「レイ──」

ケンタが声をかける間もなく、レイジの姿が掻き消えた。


「エルフたちを助けるぞ!」

リアムが抜剣し、異形の人型へと向かう。


「あっ! リアム!!」

ケンタが止めようとする間もなく、リアムと、それに続いてグレッグも戦禍へと身を投じていく。


ケンタには確信があった。



──あれはマズい!!



「正史」を知るケンタは、あの存在が「正史に居ない何者か」であることがすぐにわかった。

そして、同じく「正史に居ない存在」は、自分と、そしてレイジである。


自分は論外として(自身で言っていて悲しくなりつつも)、レイジの戦力は規格外である。いや、この世界において”異常”と言ってよい。

であるならば、目の前のアレも、レイジ並みの”異常”と考えるべきだ。



「リアム! 一旦退いて──」

リアムを制止しようと、ケンタが叫んだ瞬間、事態はさらに予想の斜め上へと遷移した。


「ちっ! 勇者か!」

「なっ! なにを!?」

なんと、エルフがリアムに襲い掛かっているのだ。


「な、なんだってんだ!? ベンチプレスで、補助してくれるやつが急に『頑張れ!』だけ言ってバーから手を放したみてぇだ! 意味が分からねぇぞ!!」

「いや、アンタの例えが意味不明だよ!!」

同じくエルフに矢を射かけられ、戸惑うグレッグが、世迷い事をほざいている。


「ど、どうしたらいいんでしょうか!!」

エルフに剣で斬りかかられ、防御魔法を展開しながらセレスティアが叫ぶ。

なお、防御されたエルフの髪型は巨大アフロに変化した。


「このエルフたち、何かおかしいわ!!」

セレスティアの後ろに隠れながら、エリシアが叫ぶ。

乱戦状態で魔法詠唱ができないエリシアは、セレスティアを盾にして攻撃を避け続けている。そんなエリシアも巨大アフロだ。


「ぐぇっ……、あれ? おかしいな? 緊迫感のあるシチュエーションだったはずなのに……、どこで空気がおかしくなった?」

ケンタは矢傷による死亡からリスポーンしつつ、空気感に疑問を呈す。


原因はおそらくグレッグからだが、ケンタ自身も大概であることを自覚すべきである。


「何かおかしいエルフ……、いやまさか」

ケンタの記憶に引っかかる存在があった。

”【集蝕者】アビス”、「正史」で彼らは、”傭兵団”に化けて勇者リアムに近づいた。

ここはエルフヘイム。正史ならばアビスが居てもおかしくはない。



『へぇ~、君、”勇者”なんだ』

「ぐっ」

リアムの背後に、異形の人型が立ち、その首に手をかけていた。

再び事態は緊張の度合いを増す。


リアムは剣を振り上げ、背後に向けて切っ先を落とす。が、その切っ先は指二本で軽く受け止められた。


『ふ~ん、勇者と言っても、他のとそんなに変わらないんだねー』

「くっ」

リアムは振り上げた姿勢のまま身動きできず、剣も微動だにさせることができない。


『ま、別に勇者はほっといてもいいか──』

異形の人型が言い切る前に、リアムの背後から飛びのいた。そこには、もう一体の異形の姿。


「ジャスティス・ブレイク!!」

リアムたちがそろって声を上げる。


腕を振り下ろした姿勢で着地していたジャスティス・ブレイクは、ゆっくりと立ち上がり、対となるような異形へと視線を向けた。


『あぁ~、君ヒーローか~。どうりでさっきからアラートがうるさいわけだ』

『……』

『だんまりなんだ~、ふーん』


ジャスティス・ブレイクと相対する異形の人型は、しばし逡巡し……、



『ねぇ、”ジャスティス・ブレイク”とか名乗ってるの?』


その言葉が放たれた瞬間、ジャスティス・ブレイクは『ぐはっ!!』と呻き声を上げた。

本日最強の一撃。それが放たれた瞬間だった。


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