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15話:勇者の資質

「魔王軍四天王を大きな被害なく退けられたんだ。よかったじゃないか」

さわやかイケメンのリアムは、今日も心の中までイケメンであった。


「そうですね」

その横に寄り添う聖女。まるで名画から飛び出してきたかのような、絵になる二人だ。

ご心配なく。メイド服から解放され、彼らの服装は元通りの勇者然としたイケメンと、清楚な聖女に戻っている。


彼らはさわやかな笑顔で丘の上に立ち、”追い出された”魔法都市マギアヘイムを見下ろす。


「すごいポジティブさだよ。陰の者の俺には眩しすぎるよ!」

やさぐれた表情のケンタが呟く。



「そうそう! その調子だ! あと少し! うむ、いいぞ! それから、二頭筋の裏側にある上腕筋も鍛えると、二頭筋が押し出されて、より大きく見えるようになるぞ!」

「は、はいっ!」

「お前らは、ちょっとの隙間時間で筋トレすなや!」

コンセントレーションカールで盛り上がるレイジとグレッグにもケンタのツッコミが飛ぶ。しかし、彼らの世界には届かないようだ。



「しくしくしくしくしくしくしくしく」

「……」



そしてもう一人。


うつ伏せのまま地面に倒れ、しくしくと涙を流している者がいた。



「なんでよぉぉ~」

「疑問に思うことが疑問だよ!」

魔導士もとい、”大罪人”エリシアである。



魅了魔法の未許可行使。

魔導塔魔術陣の不正使用。

不特定多数への攻撃的魔術行使。



大量の罪状が並び、一部では”殺人未遂”とまで言われた大罪人は、一時は”公開処刑”を求刑されたが、これまでの研究成果により酌量され、”魔法都市マギアヘイムを永久追放”となった。

そして、なぜかリアム達まで共連れで追放された。



「古文書解析にちょっと魔術陣を利用してたら、間違って少しだけ魔法が流れ込んだだけじゃない」

「いや、お前が起こしたのは、金融系システムの不具合で銀行が取引停止するレベルの大事件だからね!?」

複数の自殺者が出かねない大人災である。


「あの古文書には、今では失われた多くの魔術陣知識が書かれているのよぉぉぉ!! それを復元できれば、儲けがっぽりと──」

「動機が俗っぽいな!!」

そして再び”しくしく”と地面を涙で濡らし始めるエリシア。



「王都でも、”魔王”の伝承は調べられるだろうし、王都に向かってみよう」

リアムが新たな目的地を告げた瞬間、地面を濡らす装置と化していたエリシアの首がぐるんっ!と回転した。


「動き速っ! 怖っ!」

「魔王を調べてるの?」

ケンタのツッコミを無視し、エリシアはリアムに問いかける。その目が怪しく光っている。


「あ、あぁ、最近の魔物の異常な動きや、魔族まで現れたとなれば、魔王が関わっているのではないかと考えているんだ……」

「魔王なら復活してるわよ」

「「「「えっ!?」」」」

エリシアの言葉に、全員が反応……、いや、筋トレに夢中の二名は無反応だった。


「……、うん、あいつらはもうダメだな」

ケンタは気にしないことにした。



「”協会”の観測結果よ、魔導塔には”魔王周期”を観測する魔術陣があるからね」

元より筋トレ二人組が眼中にないエリシアは、更に続けた。


”協会”とは、”魔導士協会”のことであり、魔導塔の管理も”協会”が行っている。

魔導士協会は本来、魔導士の登録や管理、魔法の制限、禁呪指定など、魔法に関わる様々なことを管理・運営する組織である。

更に、魔導塔で行われている研究の設備や予算も”協会”が捻出しており、当然研究員も”協会”所属である。そういった研究機関的側面もあるのだ。


もちろん、エリシアも”協会”に所属していた。が、現在は追放されたため、晴れて無許可の闇医者ならぬ”闇”魔導士である。



「では、協会は既に魔王の存在を認識していたと?」

「もちろん、王都には伝えてるはずよ? 一般へ周知されてないだけでしょ」

顰めた表情で問うリアムに、エリシアはあっけらかんと答える。


「……」

「知らされないなんて、酷いです」

「知ってても何もできななら、知らない方がいいんじゃない? 無意味に混乱するだけだしね」

難しい顔で黙り込むリアムと、小さく「そんな……」と呟き絶句するセレスティア。

ケンタも、どちらかといえばエリシアの意見に近いため、何も言えない。


「……、僕たちに、何ができるだろうか?」

エリシアに目を合わせながら、リアムが述べる。その言葉に、エリシアは「一般人が何を……」と言いかけ、しかし、その瞳の奥に宿る強い意志に言葉を飲んだ。


エリシアが読んだ魔王の伝承。

魔王と、“聖剣”の伝承。


「もしかして、聖剣……光の勇者……? でも……」

「僕たちに、何かできることがあるのか!?」

エリシアの小さな呟きを捉えたリアムが、寝転がる彼女に近づき、そっと手を取る。


「い、いや、そうとは限らないし、むしろ可能性は低いというか──」

「でも、僕らにできることがある。できるかもしれないことがある」

「そ、そうかも、だけど……」

「なら、行ってみよう」


エリシアは改めて感じた。ああ、こういう人間こそが“勇者”なのだと。


「わかった。なら、聖剣を手に入れましょう。貴方ならもしかすると手にできるかもしれない」

次の目的が定まった瞬間である。



「うん、せめて起き上がってやってくんね? 雰囲気台無しだよ!」

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