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10話:グレッグとレイジ

『はっはっはっ、どうした! ずいぶん威勢がよかった割には、大したことがないな!!』


巨漢の魔族が、全身血まみれで膝を付く男を見下ろし、嘲笑する。


周囲には既に生存者はいなかった。

村人は全滅し、村の建物のことごとくが破壊されている。残ったのは、戦士の男のみ。


『ま、まだ、まだだ……』


男はふんっ、と気合一発、全身に力を籠めて立ち上がる。

負けられない。せめてこいつ1体だけでも、たとえ相打ちになろうとも。


『もうダメだと思ったとこからの一レップが、勝負どころなんだぜ』


しかし、既に男の体は限界を超えていた。今立ち上がったのも、ほとんど強がりのようなものであった。


『その意気やよし。ならば、前のめりのまま、死ぬがいい』


鋭い爪を湛えた、魔族の巨大な腕が振り下ろされる!


しかし、その凶爪は、男に届かなかった。


勇者リアムが、魔族の攻撃を受け止めていた。

『お、お前は……?』


いや、受け止めきれなかったのか、剣で止めた爪は、勇者の肩を傷つけていた。

『よせ、逃げろ……』


『くっはっは! 命知らずが増えたか! いいぞ、逃げられるのなら逃げてみろ!』

『逃げない! 戦士グレッグ! 人間の、団結の力を見せてやろう!!』

『だが、俺は……』

『回復します!!』


”もう動けない”と言いかけたグレッグに温かい緑の光が降り注ぐ。グレッグのすぐ横に、女神のように美しい白銀の女性が寄り添う。

瞬く間に、体の傷が癒え、力を取り戻していく。


『すまねぇ、嬢ちゃん』


獰猛な笑顔を浮かべ、グレッグは巨大な戦斧を魔族へと叩きつけた。


『俺としたことが”らしく”もねぇ、ウォールオブデスに心折れかけてたみてぇだぜ』

『?』

『俺はグレッグ、力を貸してくれ!!』

『僕はリアム、まかせてくれ!!』


戦士グレッグに勇者リアムと聖女セレスティアは、大魔族「ガ将ガルバル」へと立ち向かう!




──ん? ガ将ガルバル?


「あ~、この惨事はそういうことかぁ……」


ケンタの空虚な、しかしどこか納得したような声が響く。


グレッグが居るストーンハート村は無事だった。むしろ、被害はほぼないと言ってよい。

「正史」では、「ガ将ガルバル」がこの地を襲ったのだろうが、”いろいろあって”、襲撃者は「魔物の群れ」に変わったらしい。


「立て! おい、豚顔の兄ちゃん! そんなことじゃ腹筋は割れねぇぜ!! 腹筋ローラー追加だ!」

「ぶひぃぃぃ」


そんな魔物たちが、なぜかグレッグ指導のもと、”筋トレ”に励んでいた。

村人たちもあきれ顔で見守る中、オークが悲鳴を上げつつ、腹筋ローラーに取り組んでいる。


「どうした緑の坊主! 声が小さぁぁぁぁぁぁぁぁい! 悪さをするときは大きな声出すだろうが! 筋トレも一緒だ! 気合を入れろ! はい、スクワット百回! 声出すぞ! せーの、いっち、にぃぃぃ、さぁぁぁぁん!」


別の場所ではゴブリンの集団が、ひたすらスクワットに取り組んでいる。


「おい、もっと深くしゃがみ込め! チンピラ根性丸出しの浅いスクワットなんか、筋肉は喜ばねぇぞ!」

「根性入れて、大腿四頭筋と臀筋をしっかり追い込め!」

「悪さをするのは、筋肉が足りないからだ! 筋肉がつくってのはな、自分の肉体と向き合うってことだ! それができねぇ奴が、他人との距離感を間違うんだ!!」


謎の人生観を展開し、男は魔物たちを筋トレで追い込んでいく。

どうやら、魔物が襲撃を起こしたのは、”筋肉不足”が原因であるとの帰結であるらしい。


「ぶ、ぶひぃぃ」

「なんだ、もう限界か? いいか、本当の限界は、お前が思ってるよりずっと先にあるんだ!」

「そこを超えて初めて、新しい自分が見えてくる! そんな甘っちょろい精神じゃ、明日からまたろくでもねぇことしかできねぇぞ! 立て! ラストセットだ!」


男は、魔物たち全員に付き合って、先ほどから連続して筋トレを続けているが、息切れ一つしていなかった。


「……、これ、いつまで見てないといけないんだろうな?」


ケンタはツッコミきれない現状に、すでに諦めモードだ。


「すごいですね! 魔物とも意思を交わすなんて、さすがグレッグさんです!!」

「いや、あいつ一年半の付き合いだった熊の魔物倒してんでしょ!? そっちと意思交わすべきだったんじゃないかな!?」


「すごい筋肉だな。僕も見習うべきかな!」

「感心するとこそこ!? なんでも受け入れていくリアムの懐が広大すぎる!」


「あ、筋トレ、お好きなんですか?」


そんな中、なんとレイジがグレッグへと話しかけた。


「まじか! 行った! 実は奴が真の勇者だった!?」


「ん? もしかして、お前さんもやってるのか?」

「あ、はい、まだ始めたばかりなんですけど……」


「ん? なんか思ってたのと違うぞ?」


ケンタはいち早く違和感を察知した。


「その腕の感じだと、上腕二頭筋か三頭筋、どっちかに伸び悩んでるクチか?」

「えっ、なんで分かるんですか!? まさに上腕二頭筋なんです! 特にピークの盛り上がりが全然出なくて……。ダンベルカールとかやっても、いまいち効いてる感じがしないんです。」


「腕の感じって、サイボーグだよね!? 筋肉増減しないよね!?」


ケンタのツッコミが響くが、二人の世界には届かない。


「それはな!! お前さんのフォームが甘いか、あるいは別の筋肉に逃げてる可能性が高い! ちょっとやってみろ、見てやる!」


レイジは言われるまま、近くにあったダンベル(おそらくグレッグ私物)を手に取り、恐る恐るカールを始めた。グレッグは真剣な眼差しでレイジの動きを観察する。


「ほう、なるほどな……。肩が上がりすぎだ。それと、収縮しきれてない。いいか、二頭筋はな、徹底的に収縮させて、徹底的に伸ばすのが肝だ。そして、ネガティブも意識しろ。ただ上げるだけじゃ──」

「いや、わからんし! 全くついていけんし!」


ケンタのツッコミなど意に介さず、グレッグは自らもダンベルを手に取り、見本を見せる。

ゆっくりと、しかし力強くダンベルを持ち上げ、最大まで収縮させる。その筋肉は、まさに隆々としていた。


「どうだ、この感覚! ここまで絞り込むんだ。そして、下ろす時も気を抜くな。負荷をかけながらゆっくりとだ。」

「うわぁ……全然違いますね! グレッグさん、やっぱりすごい!」


レイジは柄にもない感嘆の声を上げる。彼の目はグレッグにくぎ付けだ。


「まだまだ! あと、上腕二頭筋のピークを出すなら、コンセントレーションカールも効果的だ。座ってやると、チーティングが使いにくいから、純粋に二頭筋に効かせやすい。お、あっちに丁度良い高さの台があるな。よし、やってみよう!」


その後、途中からリアムも参戦し、セレスティアが応援すると、なぜか全員の服装がブーメランパンツ一丁に変化した。

ノリノリの筋トレは日が落ちるまで続き、清々しい笑顔の魔物たちは、グレッグに手を振って森へと帰っていった。


「……え、なに? ノリきれない俺のが異端なん?」


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