第二章 第二回進級試験 その九
「……ハァ、ハァ……っ。終わった、のか……?」
俺は重力に従うように石畳の上へ倒れ込んだ。 アヴァンとリリィが真っ先に駆け寄ってくる。リリィの増幅魔法の影響か、俺の体内にはまだ熱い魔力の余韻が渦巻いていた。
「……ああ、なんとか。……それより、リリィ。お前、いつの間にあんな魔法を?」
「ふふ、大魔法使い育成学園での特訓は伊達じゃないからね。みんなが危機だって聞いて、候補生のみんなで駆けつけたんだよ。ちょっと遅くなっちゃったけど。」
リリィは微笑むが、杖を握る手は微かに震えていた。彼女もまた、限界を超えて駆けつけてくれたのだ。そこへ、学園側の後始末を終えたアルバート聖騎士が、増援の小隊を連れて戻ってきた。
「……惨状だな。だが、よく守り抜いた。」
アルバートさんの言葉に、カイトがゆっくりと立ち上がり、彼を真っ直ぐに見据えた。
「アルバートさん……。さっきの『話』、忘れてませんよね。」
「フン。見習い風情がこの窮地を生き残ったんだ。……約束通り、腹筋五千回、付き合ってやる。ただし、その後で俺の特訓に耐えられたら、の話だがな。」
アルバートさんは無愛想に言ったが、その瞳にはカイトへの確かな信頼が宿っていた。カイトもまた、ニッと不敵に笑い、剣を鞘に収める。
「……へっ、望むところだ!」
二人の間に漂っていた疑念の霧が、ようやく晴れた瞬間だった。 だが、喜びも束の間だった。エリシオン支部の指令室から出てきたリアリンさんの表情は、かつてないほど厳しかった。
「……皆さん、お疲れ様。ですが、手放しでは喜べません。エリシオン支部の外周結界、その基部三箇所、そして地下区画が完全に物理破壊されています。……それも、『内側から』です。」
「内側から……!? つまり、本当に工作員が入り込んでるってことですか?」
エルドが驚きを露わにする。リアリンさんは静かに頷き、手元の通信石を俺たちに見せた。
「グラファイトが放った魔力は、単なる囮に過ぎませんでした。彼と戦っている隙を突いて、支部の最深部にある『禁忌の宝物庫』に侵入された形跡があります。……何が盗まれたかは、まだ調査中ですが……」
リアリンさんの視線が、ふと俺に止まった。
「イリスくん。……魔王軍があなたを『鍵』と呼んでいたこと。そして、アルバートが罠に嵌められたこと。これらすべて、内部事情に精通した人間がいなければ不可能です。」
(……アルバートさんはスパイじゃなかった。でも、カイトの直感は正しかったんだ。この中に、まだ『本当の裏切り者』が潜んでいる。)
俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。強大な魔王軍。まるで、足元を覆う毒のようだ。
「……イリスくん、明日からは警護任務を解任し、再び私との特訓に戻ってもらいます。今のままでは、あなた自身も、あなたの大切な人も守り切れません。」
俺は月光刀を強く握りしめた。アヴァン、エルド、カイト、リリィ。みんなが強くなり、俺を助けてくれた。今度は、俺が圧倒的な力を持って、みんなを、この中都を救わなきゃいけない。
「さて、最後にもう一つ伝えなければならないことがあります。」
リアリンさんはそう言い、アヴァンとエルドの方を向いた。
「今回の混乱の中、あなたたちの活躍は目覚ましいものでした。本部からの部からの正式な通達です。アヴァン・ローラン、エルド・ボルデ・リバーテン。両名を『大魔法使い見習い』に昇格とします。今後は、大魔法使い本部での任務に就いてもらいます。」
「えっ……!?」
アヴァンとエルドが顔を見合わせる。それは名誉ある昇進であると同時に、より厳しい戦場へと赴くことを意味していた。




