第一章 勇者の始まり その三
初めての投稿で不慣れの部分もありますが、どうかよろしくお願いします。また、所々にAI(名前や誤字脱字の修正など)を使っているため、完全に自分作の作品ではありません。どうか暖かく見守ってください。
「……あ、ヴぁ……ん……」
イリスの震えるような声が、闇の中へと消えていく。彼が意識を手放し、森の土の上に倒れ込んだのを見たとき、私の心臓は止まるかと思った。まさか、あの強大なゴブリンシャーマンを、たった一人で、あんな技で打ち倒した直後に、こんなことになってしまうなんて。
「イリス! 大丈夫!?」
慌てて彼の傍に駆け寄る。その顔は青ざめ、呼吸も浅い。体に触れると、ひどい熱を感じた。きっと、あんな尋常じゃない力を急に引き出した反動なのだろう。
私は新人冒険者だ。初めての依頼で、まさかゴブリンの群れに囲まれ、ゴブリンシャーマンまで出てくるとは思わなかった。本当なら、ここで私も気を失っていてもおかしくなかった。でも、イリスが助けてくれた。彼のあの、月のような光を纏った剣技――「弥生抜刀」、そして「卯月乱舞」。生まれて初めて見る、理解不能な強さだった。それが、今、私の目の前でぐったりしている。
「どうしよう……」
右の黄色い瞳と、左の紫の瞳が、焦燥に揺れる。こんな森の奥で、気を失ったイリスをどうやって村まで連れて帰ればいい? 私の闇魔法は戦闘には役立つけれど、人を運ぶような応用はまだできない。
周りを見回すと、残りのゴブリンたちは完全に逃げ去ったようだ。彼らの悪臭も、もうほとんど感じられない。安全は確保された。問題は、イリスだ。
その時、ふとイリスの腰に目をやった。彼が持っている剣だ。鞘に収められたそれは、見るからに質の良いものだった。そういえば、彼は最初からそれを身につけていた。私は自分の杖を背に回し、意を決してイリスの剣を手に取った。ずっしりとした重み。これなら、何かの役に立つかもしれない。
「イリス、ちょっとだけ頑張ってね……!」
私は、彼の肩を抱え、どうにか立ち上がらせようと試みた。彼の方が少しだけ背が高いけれど、何とか支えられる。一歩、また一歩。重い体をひきずるようにして、来た道を戻り始めた。足元に気をつけながら、時折、闇の魔力で周囲を探る。もう魔物の気配はない。
どれくらい歩いたのか、時間は分からなかった。体は鉛のように重く、心臓は激しく脈打っている。でも、私の隣にはイリスがいる。彼が、私を助けてくれたのだから。
「もうすぐ、村だからね……」
そう呟いた時、遠くから微かに、焚き火の煙のような匂いがした。村だ! 最後の力を振り絞り、私は前へと進む。
やがて、村の明かりが木々の合間から見えてきた。そして、ギルドの依頼を請け負った証である徽章が輝く、数人の村の男たちが駆け寄ってくるのが見えた。
「おお、イリス! 無事だったか!……って、おい、どうしたんだその様子は!?」
村長が驚きの声を上げる。彼らは、私がゴブリンを倒し、意識を失ったイリスを連れてきたことに仰天していた。事情を説明する間もなく、村の男たちがイリスを運び上げ、村の診療所へと急いだ。
私も後を追うように診療所に入った。イリスはベッドに寝かされ、村の薬師が彼の状態を診ている。薬師の皺だらけの顔に、驚きと困惑の色が浮かんでいるのが見えた。
「これは……確かに疲労困憊の状態ではあるが、体内の魔力の流れが尋常ではない。まるで、何か大きな力が彼の身を通ったかのようだ……」
薬師の言葉に、私はあの瞬間のイリスの姿を思い出す。月のように光る剣、あり得ないほどの速さでゴブリンシャーマンを切り裂いたあの技……。
「大丈夫ですか……?」
私の問いかけに、薬師は頷いた。
「命に別状はない。ただ、回復には時間がかかるだろう。何をしたのかは分からんが……」
薬師は首をひねる。私は、それを知っていた。でも、どう説明すればいいのか分からなかった。闇魔法の使い手である私には、余計なことを話して村人から警戒されたくなかったし、何より、あのイリスの技は、簡単に言葉にできるようなものではなかった。
翌朝、目が覚めると、隣のベッドでイリスが目を覚ましていた。
「イリス!」
私が声をかけると、彼はゆっくりと体を起こした。
「アヴァン……無事だったのか……」
そう言って、かすかに笑った彼の顔は、まだ少し青白い。でも、その瞳には、昨日までの「新人冒険者」の戸惑いとは違う、確かな光が宿っているように見えた。
「大丈夫だよ! 私こそ、イリスがいなかったら危なかった! あの、その……すごいね、イリスの技……」
私が興奮気味に伝えると、イリスは不思議そうに首を傾げた。
「技? 何のことだ? 俺、なんかしたのか……?」
彼の言葉に、私は愕然とした。あれほどの力を発揮したのに、本人は覚えていない……?
「誰かの言葉が、急に頭に響いてきて……体は勝手に動いたんだ。でも、その後のことは、さっぱり……まるで、夢でも見ていたみたいに、記憶がないんだ」
彼は、自分の掌をじっと見つめていた。その表情には、まだ迷いと、そして微かな期待が入り混じっているように見えた。
これが、私とイリスの、本当の始まりだったのかもしれない。魔物討伐の依頼は達成。しかし、得たものは報酬以上の、得体の知れない力と、そして、かけがえのない仲間だった。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。感想やレビュー、どしどし募集してます。時間があればぜひ協力お願いします。この間(2025年7月23日)に「毎日投稿するぞ~」と心の中で宣言したら、一日で終わりました。なるべく毎日できるように頑張りたいです。