概要
人類という種族は、進歩と破壊をほぼ同時に学習するという、きわめて効率の悪い習性を持っている。
その果てに始まったのが、この“第三次大戦”であった。
かつての技術大戦と資源戦争を経て、地上の覇権は四つの大国に分割されていた。
この四国は、思想も文化も異なり、ただ一つ共通するものは「他者の支配を拒む」という頑固な信念のみであった。
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【戦争を続ける四つの国家】
◆《ヴァルデア皇国》
→ 重装歩兵と魔導騎士の国。軍事力は突出しているが、内政は腐敗しつつある。
冷酷な軍事貴族たちが実権を握り、征服こそが栄光と信じて疑わない。
他国からは“獣の盾”と呼ばれる。
◆《リュムナ共和国連邦》
→ 自由と民意を掲げる連邦国家。戦術に長け、情報戦を得意とする。
ただし指導層が頻繁に変わり、統一的な戦略に欠ける。
他国からは“策士の陣”と揶揄される。
◆《ゼルカ神政庁》
→ 魔法至上主義の宗教国家。神官戦士と高位魔導師を前面に出し、聖戦を掲げる。
異端と判断した他国文化を否定するため、外交は極端に排他的。
他国からは“焔の幕屋”と恐れられている。
◆《オルデン平和同盟王国連合》 ← ※ユトの所属国
→ 小国群の緩やかな連合体。個々の州が独自性を持ち、軍も統一感に欠ける。
ただし臨機応変な戦術力と高いサバイバビリティを有し、強国にも弱国にも転びきれない中間的存在。
他国からは“灰の道化”と侮られたり、“生存王国”と尊敬されたり、扱いが安定しない。
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【現在の戦況】
戦線はほぼ凍結状態にある。理由は簡単で、どの国も「致命的な勝利」を望んでいないからである。
勝てばその後の統治が必要になり、負ければ当然滅亡する。
そのため、戦争は「続けるために行うもの」として定着しつつある。
ユトたちが配属された第三遊撃小隊も、同様に「勝たずに耐える」ために派遣された部隊であった。
そしてそのような部隊ほど、戦場では最も危険な役割――“捨て石”にされやすいというのは、歴史の悪趣味なジョークである。